29章 表参道の反省会
翌日の午後。表参道のカフェで向き合った二人の間に、
張り詰めた空気が流れる。
あおいは、成瀬の口座をすでに掌握し、
そのブラックカードで1500円のラテを注文した。
「……で、すみれ。本当にあの佐藤って男でいいわけ?」
「ええ。来週、
彼が予約してくれた4980円のバスツアーに行くの」
「笑わせないで」
あおいの声が、カフェの喧騒を切り裂いた。
「いい、すみれ。あんたはピアノの**ソリスト**なのよ。
たった一人で舞台に立ち、数千人の沈黙を支配する表現者。
あんたの指先には、血の滲むような修練と研鑽、
研ぎ澄まされたプライドが宿っている。
そんなあんたの『高さ』に、
佐藤なんて男が釣り合うと思ってるの?」
「それは彼が『無知』だからよ。
あんたのプライドは、
数百万のグランドピアノの音色に磨き上げられたもの。
それを、10円単位の節約に命をかける男に預けるつもり?
あんたのソリストとしての意地が、
そんな低俗な生活に耐えられるはずがないわ。
格差は、愛なんて言葉じゃ埋まらないのよ」
---
「でも、いいわ」
あおいは肩をすくめた。
「すみれ、佐藤なんてバナナの叩き売りよ」
一拍。
「ここはソリスト。腐っても鯛」
目が笑っていない。
「ハイエナの群れに混ざる覚悟があるなら――」
間。
「行きなさい。噛まれない程度にね」
-あおいは、すみれの手をぎゅっと握りしめた。
「あんたのプライドは、私が預かっておくわ。佐藤に汚させないようにね」
居酒屋の脂ぎった空気から解き放たれると、夜の冷気が容赦なく体温を奪っていった。
駅へと続く大通り。街灯の下を歩く二人の影は、都会の華やかなネオンに塗りつぶされそうなくらい薄く、頼りない。
---
数の夜道 ―― 記号にならない体温
「……すみません、酔い覚ましに一駅分、歩かせちゃって」
加藤が申し訳なさそうに首をすくめる。
その肩にかけられた安物のコートには、
さっきの店の焼き鳥の匂いが染み付いていた。
あおいの周りに漂う、
一流の調香師が作ったような香水の残り香とは、
あまりにかけ離れた「生活」の匂いだ。
「いいんです。私も、少し歩きたかったから」
すみれは、
自分の歩幅が加藤のそれと驚くほど合っていることに気づく。
誰かに選ばれるために背伸びをし、
ヒールで無理に地面を蹴る必要がない。
四百万円という年収、六畳間という孤独。
それらを分かち合った今、
二人の間にあるのは、格付けのいらない静かな平穏だった。
「あそこのパーティーにいると、
自分が人間だってことを忘れそうになる」
加藤がぽつりと漏らした。
「年収で切られ、年齢で弾かれ、
最後には『その他』というカテゴリに放り込まれる。
僕らは、
誰かの理想を埋めるためのパズルの一片でしかないんだ」
「パズル……そうですね」
すみれは、あおいに預けたはずの「プライド」が、
コートのポケットの中で石のように重くなっているのを感じた。
あおいは、すみれが傷つかないようにそれを預かると言った。
けれど、この加藤という男の前では、
そんな鎧など必要ないのではないかという気がしてくる。
「でも、加藤さんは、その一片になろうとして、
ボロボロになっていた。
……その姿を、私は綺麗だと思いました」
加藤が足を止めた。
街灯のオレンジ色の光が、彼の少し荒れた肌と、
伏せられた睫毛を照らし出す。
「……綺麗? この、四百万の不甲斐ない男がですか?」
「はい。完璧な霜降り肉よりも、
一生懸命に生きている人間の手触りの方が、
今の私にはずっと温かい」
駅の改札が見えてきた。
ここでお別れを言えば、二人はそれぞれの、
代わり映えのしない狭い部屋へと帰っていく。
あおいの言う「勝ち組」の椅子はどこにもない。
明日になれば、また「鮮度」は落ち、「
在庫」としての時間は積み重なっていく。
「すみれさん」
加藤が、自分のポケットを弄りながら言った。
「……また、こういう安い店でもいいなら、誘ってもいいですか。
次は、もう少しだけマシな、
ホッケの美味しい店を知っているんです」
すみれは、ふっと肩の力を抜いて笑った。
「いいですね。……ホッケ、楽しみにしてます」
二人は、どちらからともなく小さく会釈をして、
別々のホームへと向かった。
階段を上るすみれの足取りは、不思議と軽かった。
あおいの言う「孤独死」への恐怖が消えたわけではない。
けれど、同じ「端数」として生きる誰かが、この街のどこかの六畳間で、自分と同じように明日を迎えようとしている。
その事実だけで、この冷たい夜風が、少しだけ優しく感じられた。
---
「すみれ。もう一回、婚活行かない?」
あおいの唐突な誘いに、すみれは戸惑いを隠せなかった。
脳裏には、ようやく「端数の連帯」を見出した加藤の、
あの穏やかな横顔が浮かんでいる。
「……だって、成瀬さんはどうするの?
うまくいってるんじゃなかったの?」
あおいは、すみれの動揺を冷たく突き放すように、
真っ直ぐに視線を合わせた。その瞳には、一欠片の迷いもない。
「あそこは、下克上の世界よ」
「……下克上?」
「そう。いつ誰が寝返って、いつ足元を掬われるか分からない。
成瀬さんだって、
私より若くて『条件の良い在庫』が現れれば、
一瞬でそっちに乗り換えるわ。
そんな不安定な場所に、
自分の人生を全部預けるなんて自殺行為よ」
すみれが沈黙すると、あおいはさらに淡々と、まるで投資のポートフォリオを説明するような口調で続けた。
「だから、ヘッジするの」
「婚活で、リスクヘッジをするっていうこと……?」
「当然でしょ。
それが現実よ。
一人の男に執着して、共倒れになるのを待つの?
すみれだって分かっているはずよ。
このまま六畳間に閉じこもって、
加藤さんみたいな『端数』と傷を舐め合っていても、
最後には二人まとめて市場から消えるだけだって」
あおいの言葉は、
すみれがようやく手に入れかけた小さな安らぎを、
容赦なく「非効率」という名の刃で切り裂いていく。
「……で、どうするの?」
あおいは無言で、手元のスマホをすみれに差し出した。
画面の光が、薄暗い部屋の中で青白く反射する。
「次は、これ。ハイスペック限定の特別招待制婚活」
画面に躍る「年収1000万以上」
『医師・歯科医師、5大商社』
という無機質な文字。それは、加藤との間に流れた「匂い」や「体温」とは対極にある、冷徹な数字の暴力だった。
すみれは画面を見つめたまま、一瞬、息を止めた。
「これよ。ここに、あんたの、そして私の次の『売り場』がある」
「あおいも……行くんでしょ?」
「当たり前じゃない。自分の価値が暴落する前に、一番高い出口を探す。それが、二十七歳のわたしたちに残された唯一の生存戦略よ」
あおいの瞳は、すでに次なる戦場を見据えていた。
加藤とのホッケの約束。六畳間の静寂。
それらが、この眩いスマホの画面の向こう側へと、音もなく吸い込まれていくような気がした。
「当たり前じゃない。3,500円で商社マンの『工程表』
を破り捨てる楽しみを、あんただけに譲るわけないでしょ」
「あおい、3,500円、安い」
「すみれ、値段に惑わされないで。これは『入場料』じゃなくて、
『査定の場』への参加チケットよ」
リアルは「笑わない会話」になります。
【独身限定】
●入会金5000円
●年収 1200万円以上
●医師 (歯科医師含む)
●5大商社
(三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠商事・丸紅)
①身分証明書(免許証/保険証/パスポート/マイナンバーカード)
②資格証明書
・年収証明書:"過去1年以内"の源泉徴収票、確定申告書、納税証明書、給与明細のいずれかのみ年収証明書として適用。
※給与明細は直近3ヶ月分持参必要、賞与支給がある場合は支給回数分の賞与証明書も持参下さい。
・医師・歯科医師:医師資格証/医師免許証(画像可)/医師と分かる
地下に広がるお洒落なイタリアンレストラン
『ロカンダ-MEAT&ITALY-』
28歳〜42歳 7,000円
女性
22歳~36歳 3,500円
【形式】
スタンディング形式・連絡先交換自由
※途中退出はご遠慮頂いております。
【こんな方にオススメ】
大人数でフリータイム中心の進行となっています。
・一度に多くの異性と出会いたい方
・積極的に異性と交流したい方にオススメです。
1対1での会話を重視される方は、こちらをご覧下さい。
30対30最少催行人数30名)
※予約状況により募集人数が変動する場合がございます。
「でも、ここなら嘘はないよ。年収証明も資格証も必須なんだから。佐藤さんみたいな『自称』は入れないでしょ?」
「すみれ見て。あの若い子、可愛い子。
ああいうのがどんどん出てくる。そして、いい男がさらっていく。
残りは出がらしだよ。さくらかもしれないけど」
「……出がらし?」
「そう。味も香りも薄くなって、賞味期限切れ。女も男も、
賞味期限があるの」
すみれは一拍置いて、真顔で言った。
「……わたしたちの売りは、いまだよ。ここにいる男の人たち、
三十歳の平均年収で言えば、上位二パーセントなんだから。
彼らが求めているのは、対等なパートナーじゃない」
「彼らは、癒やしを求めてるの。自分に自信があって、
可愛くて、優しくて……自分たちの成功を彩る、
質の良い『生活の彩り(アクセサリー)』。
それになれる自信があるものだけが、この地下から抜け出せる」
あおいは笑わなかった。 ただ、深く、同意するように目を細めただけだった。
「……そうね。それが、この世の中の常識だもの」
地下に流れるジャズの調べ。 肉を焼く匂いと、
誰かの嘘のない給与明細。
すみれは、
自分が「A4」という評価すら過去のものになりつつあることを自覚しながら、
上位二パーセントの男たちが放つ、
冷たい光の渦へと一歩踏み出した。
あおいは笑わなかった。
---
「それが世の中の常識」
「そうなの」
「遠慮はいらないよ。なんでも聞きな」
一拍。
あおいは、会場を回遊する男たちの動きを、
まるでスローモーション映像でも見るかのように
冷静に観察していた。
「あとな――常連が多い人が強い」
「常連?」
「そう。ここに通い詰めている男たち。
彼らにとって、
七千円の参加費なんて端金もいいところ。
コンビニでコーヒーを買うくらいの感覚で、
毎週のようにここへ来る。彼らにとっては、
ここでの『出会い』は安いのよ」
あおいは淡々と、しかし逃げ場のない真実を突きつける。
「彼らはね、真剣に愛を探しに来てるんじゃない。
**掘り出し物を見つけに来てるだけだ。**」
「掘り出し物……」
「二十二、三の世間知らずな若さや、
自分がどれほどの市場価値を持っているか
自覚していない高スペックな女。
そういう『値付けを間違えた宝石』が紛れ込んでいないか、
毎週チェックしに来ている。
彼らはバイヤーなのよ。自分たちの生活を少しだけ彩る、
コストパフォーマンスの良い贅沢品を探しているだけ」
言葉が、冷たく、硬い床に落ちて砕ける。
すみれは、グラスを持つ自分の手が震えていることに気づいた。
ここにあるのは、
温かな交流ではない。
徹底的に管理され、
透明化された「査定」の場だ。
嘘がつけないように厳格にチェックされた年収証明や資格証は、
彼らにとっては単なる「カタログスペック」に過ぎない。
市場はいつも、正しい顔をして残酷だった。
ルールは公平で、数字は正確。
だからこそ、
そこから零れ落ちる「感情」や「端数としての人間性」には、
一円の価値もつかない。
あおいは、動揺するすみれを顧みることもなく、
新たな「バイヤー」が近づいてくるのを、
完璧なプロの微笑みで待ち構えていた。
---「女10名プラスだよ」
「ねえ、あおい。3500円で、ハイクラスだからだよ。
みんな、目が血走ってる
ハイクラス2%だよ、捕まえたら天国の生活できる」
「----」
「すみれ、ここ、常連ばかりだよ。わたし何回も見てる。
食べたら帰ろう」
「なんで」
「みんなイケメン、みんな彼女キープだから」
「なんで、これからなのに」
「ここはお狩場、うぶな掘り出し物を見つけている。
すみれみたいなうぶ女」
「なにそれ?」
「遊びたいから」
「なにそれ」
「彼らにとったら、キャバクラとかにはもう行き飽きたの。
新鮮な、素人の女を探しているだけ。
その場限りの甘い言葉で、
遊ばれて、ボロボロにされるだけだよ」
「ひどい……あおい、どうしてそんなこと分かるの?」
「常識だよ、キャバクラの女とは違う、
キャバクラ時給8000円だよ」
「急に、何それ」
「飲み代、2万円だよ、ここに来る方がやすい」
「そうなのかな」
「キャバ嬢は商売だよ、お客から金とるの、
MARCH卒業した子いる、
容姿に自信ある子、客から将来の男、見つけるんだよ」
「それ、あおいのこと」
「わたしも、学生のとき、時給6000円だよ、辛かった」
「そうだよね、6000円か、ピアノの先生より高い」
「座っているだけじゃないよ、客から金、むしり取るんだから」
「わかった、とにかくここはダメ、わたし見てて」
「源泉徴収、確認しました。医師免許、確認。……次の方、どうぞ」
受付の事務的な声が、夢想を打ち砕く。
あおいは無表情で身分証を差し出し、
すみれはその横で少し肩を震わせていた。
「女性四十名! 十名プラスです! さあ、始まります!」
司会者の高揚した声が、地下の静寂を暴力的に引き裂いた。
予定より膨れ上がった女たちの群れ。その数字の偏りは、
この場所に集まった者たちの「切実さ」の比率そのものだった。
あおいは、乱れ一つない髪を指先で整えながら、
涼しい顔で言い放った。
「見てなよ。男は一千二百万円の『値札』
を首からぶら下げてやってきて、
女はその札束をいかに鮮やかに奪い取るか、
その準備に余念がないんだから」
すみれは、渇いた喉を小さく鳴らした。
手の中のグラスが、急にひどく場違いなものに思えてくる。
「ここは、レストランじゃない……」
あおいは、会場の重厚な扉を冷めた目で見つめた。
「そうよ。ただの**先物取引所**。自分という商品を、
暴落する前にいかに高値で売り抜けるか。それだけを競う場所」
重い扉が、ゆっくりと左右に開かれた。
立食形式の会場には、
すでに逃げ場のない熱気が充満していた。
高級な外資系香水の甘い香りに、
剥き出しの焦燥が放つ特有の匂いが混じり合い、
粘りつくような空気を作っている。
至る所で、弾けるような明るい笑い声が上がっていた。
けれど、その声の主たちの視線は、誰一人として笑っていない。
相手の腕時計、靴、スーツの皺、そして首から下げられた
「スペック」を、獲物を探す獣のような鋭さで執拗になぞっている。
ここは、運命の出会いを果たす社交場ではない。
互いの価値を容赦なく剥ぎ取り、記号へと還元していく、無慈悲な**値踏みの場**だった。
---
「あれはただの『人気銘柄』。すみれ、いい? 突っ立ってたら、
3,500円分も回収できずに、ただの背景で終わるわよ」
「開始です。ご自由にお話しください!」
司会者の乾いた声が、ゴングのように響いた。
一斉に動き出すスーツの群れ。スタンディング形式の会場は、
瞬く間に「狩り」の熱気に包まれる。
「あおいさん、ですよね?
伊藤忠の河野です。……そのドレス、
会場で一番目立ってますよ」
さっそく現れた男が、グラスを掲げてあおいの進路を塞いだ。
「河野さん、前にお会いしました。
またお話しできて光栄だわ。
数多の商材を扱ってこられた方の目は、やっぱり確かですね」
「はは、手厳しいな。でも、僕たちの業界は『良いもの』
を真っ先に見つけるのが仕事ですから」
「……その割には、視線が私の顔じゃなくて、
値踏みするみたいに全身を舐め回しているけれど?
私、あなたのポートフォリオの一部になるつもりはないわよ」
あおいは微笑みを崩さず、河野のプライドを薄く削ぎ落とした。
一方、すみれは会場の端で、若手の歯科医に囲まれていた。
「すみれさん、落ち着いた雰囲気ですね。
僕、クリニックの経営も考えていて、
支えてくれる人を探しているんです」
「経営……すごいですね。でも、お忙しそう」
「ええ、でも年収は1,500万を下回ることはないですよ。
将来の安定は保証します」
すみれの耳には、男が提示する「1,500万」という数字が、
ただの記号にしか聞こえなかった。
頭の片隅で、あの「25,000円」を絞り出した佐藤の、
震える指先がチラつく。
「すみれ! 何ぼーっとしてるの」
あおいが、河野を適当にあしらって背後に忍び寄る。
「あおい、この人、お医者さんで……」
「医者? 専門は?
『安定』を売り文句にする医者ほど、
家では患者の愚痴しか言わない退屈な男が多いわよ。
……ねえ先生、あなたのその『保証』には、
奥様の自由時間も含まれているのかしら?」
あおいの乱入に、
歯科医の男が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あおい、そんな言い方……」
「いい? すみれ。ここはフリータイム。遠慮した方が負け。
……ほら、あっちの商事の男、
さっきからあんたのこと『手頃な獲物』として見てるわよ。
行きなさい」
あおいの背中を突き飛ばされるようにして、すみれはグラスを握りしめ、戦場の中心へと踏み出した。
「……すみれさん、でしたっけ? さっきから見てました。
僕、三菱商事の三村です」
目の前に立ったのは、完璧なセンタープレスのパンツに、
これ見よがしな高級時計を覗かせた男だった。
「三菱商事……。すごいですね、お忙しいんじゃないですか?」
「まあ、アフリカの資源開発を任されていてね。
正直、寝る間もない。
でも、今日みたいな『息抜き』も仕事のうち。
……君みたいな癒やし系の子と、
美味しいイタリアンでも食べに行きたいな」
「すみれ、帰るよ」
あおいは、すみれの手首を強い力で掴んだ。
重い扉の向こう側から漏れ出す熱狂を、背中で拒絶するように。
「……っ、ちょっと待ってよ。
なんでなの? せっかくここまで来たのに」
すみれの声は、
期待を裏切られた子供のように震えていた。
目の前には、天国への切符をぶら下げた「二パーセント」
の男たちがいたのだ。
「食べられるだけよ。ボロボロにされて、捨てられて終わり。
あんたみたいなうぶな女、
あいつらにとってはただの『安上がりの娯楽』でしかないの。
……わかるでしょ?」
あおいの瞳は、氷のように冷たく、
けれど確かな保護の意志を宿していた。
すみれは、掴まれた手首の痛みと、
あおいの声に込められた切実さに、ようやく熱を失った。




