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毒魔女と呼ばないで

プルリオは四方を海に囲まれた島国だった。

島と言えど、土地は広大で南は暖かい気候を有有し、北は山が連なる雪降る厳しい気候だった。


伊澄はそんな島の北の端に落っこちた。凍える気候でも強かに息づく針葉樹の森に、伊澄は身を隠し棲みついた。


プルリオの真ん中には、この国をまとめる中心地──セントロがある。

国と言っても王はおらず、代わりにいるのは神官だ。大神官を中心に、その下に仕える神官たちがこの国を仕切っている。所謂宗教国家だった。


(私がセリオスを殴ろうとしてることを知られたら、きっと泡を吹くんだろうけど)


この国の大半がセリオスを信仰するセリオス教というものに入っているということ。


と、ここに来て初めて立寄った村のことを思い出す。

森を抜けた先に小さな名前もない村があり、そこで情報を手に入れたのだ。


けれど、伊澄はその村に馴染めなかった。


この世界に落とされて三ヶ月。あっという間だった。

伊澄は遠い目をしながら、深いため息をついた。


「本当……怒涛の三ヶ月だった……」


なりふり構わず三ヶ月過ごしてきたの懐かしくなるほど、伊澄は時の流れが早く感じた。

こちらに来てそうそう、セリオスに会おうとしたのだがあまりにもセントロまで遠い。


その間にちゃんとお腹が空くし、眠りたくなるし、人並みの生活を求める自分自身がいた。

生活基盤を整える為、長旅をする準備の為に、伊澄はこうして山奥に見つけた古い山小屋に隠れ住んでいる。


そしてもうひとつ、伊澄には分かったことがある。

この手に宿った力のことだ。

いろいろ試していくうちに、素手で触らなければ傷つけずに済むと気がついた。


「だから、革手袋は外せないんだけどね……」


山小屋に放置されていた革手袋が、今では伊澄の必需品だ。

素手で触っただけで何でもかんでも壊れてしまったら、生活がままならなかった。

対処法が見つかって、伊澄はすこしだけ胸を撫で下ろしていた。


この世界で目立つスーツも、山小屋に放置されていた服装に着替えた。いかにもファンタジーの世界観よろしく、足首まで隠すローブを身にまとう。中はTシャツっぽいのだが、何せ

伊澄には大きすぎて、もはやワンピースだ。


あまりにも丈が長いので、そこら辺に落ちていたロープで腰で止めていた。

急ごしらえだが、そこそこ馴染む服装だと及第点は貰えそうである。


「さてと……まずは、食料探しに行こうかな」


地道ではあるが、旅の資金も貯めなければいけない。

全てはセリオスに会うために。


────────────


針葉樹の森の奥深く。薄ら雪が残る開けた小さな野原がある。

そこには赤い木の実が成る低木がある。それは林檎に似ていて、売れば少しはお金になった。


伊澄は持ってきていた籠に、小さな木の実をもぎ取っては入れていく。


「熟しきっているものは自分の食料に」


売る前に腐るのを防ぐため、少し色づき始めているものを売り物にする。

それはいろいろ失敗をして、伊澄が学んだことだ。


「うわぁっ!!」


「な、何!?」


夢中になって収穫を続けていたせいで、伊澄は背後に人が居たことに気がつけなかった。

驚いた声に驚いて、身を縮こませて飛び上がった。


振り返った先に、尻もちを着く髭面の男がいた。日に焼けた肌、がたいのよい体躯。肩には、斧を担いでいる。木こり、だろうか。


「ま、魔女……お前、毒魔女か……!!」


毒魔女、と呼ばれて伊澄は強く拳を握りしめた。

毒魔女とは、伊澄についた通り名だった。

この場所に住み始めた頃、村人に伊澄の力を見られてしまったのだ。

そこから、毒を持つ魔女──毒魔女と呼ばれるようになってしまった。


毒魔女と呼ばれるのは、伊澄は好きではなかった。欲しくて手に入れた力じゃないから。


出来れば伊澄だって、こんな力欲しくなかった。望んだことなんてないし、望みだってしないだろう。


伊澄は恐怖で震える男を見下しながら、口を開いた。


「その名前で呼ばないで」




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