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呪いの言葉


「……イスミがそうやっていつも、自責的に生きている理由がわかった気がするよ」


さらに頭を悩ませたアルスは、はぁと深い深いため息を吐いた。


「何となく感じてたが、イスミはあんまり良い生き方をしてないな?」


問い詰めるような声だったが、今は少し瞳の奥から怒りは感じられない。

感じられるのは、哀れみに似た何か。


(私のこと、可哀想とでも思っているのだろうか)


伊澄はぼんやり思った。

昔は自分のことを可哀想だと思ったこともある。

あるが今は…………。


「確かにね、良い生き方してなかったかも。自分も、周りも。よく言うでしょ、類は友を呼ぶって」


同じもの同士惹かれ合う。惹かれ合うから、境遇も似てくる。

そう伊澄は思っている。


「私の両親も、そういう生き方してきた人なのよ」


鮮明に思い出せるのは、言葉や声だ。

人は音から忘れていくらしいが、伊澄は違う。伊澄は見たものから忘れていた。

母親、父親の顔はもう思い出せない。

覚えていよう、なんて思ったりもしたこともなかった。


「私はね、両親にとって周りにマウントを取る道具でしか無かったのよ」


つまらない話だけど、と伊澄は前置きをして口を開く。


「私の両親は見栄を張る嫌な性質を持ってて、私をそれはそれは大事に、大事に育てた」


──遊ぶ暇があるなら、勉強しろ。


──女として、マナーも品格も手に入れなければ、食事なんて与えないわ!


口を開けば、勉強だの、マナーだの。

今思えば、伊澄に与えられるのは自分がどうありたいかではなく、人にどう見られるべきか、だったと伊澄は思う。


でも、あの当時伊澄にはそう思える、考える余裕もなかった。

静かに伊澄は膝を抱えて、丸まった。あの頃と同じように。


「両親は自分たちが出来なかったこと、劣等感を娘の私で解消しようとしたの。親戚を見返してやるんだって、そう言って私を怒っていたこともあったっけ」


遠い遠い記憶。親に否定される日々は今でも伊澄の背中を追いかけてくる。


「あまり関わりは無かったけど、母方も父方も、頭が良くて資産家だったりしたみたい。だから、親戚同士で自分がって誇示し合ったり、足の引っ張り合いをしてたみたいね」


私には関係なかったけど、と伊澄は言葉を切る。

所謂、跡目争いがあったのだと、蚊帳の外にいた伊澄でも分かっていたことだ。

噂のように聞き及ぶその呪いにも似た言葉を、ずっと両親から聞いていた。


自分たちはその表舞台に立てないと知るやいなや、娘である伊澄をその舞台に立たせようとしたのだ。

跡目争いに参戦出来ないかと画策していた両親は、娘──伊澄を立派な人間に仕立てようとして失敗した。


伊澄は、その期待と重圧に耐えられずに……潰れた。


「お互いキョウダイとか、イトコ同士で比べられて育った環境だったからか、両親揃って劣等感の塊みたいな人だったんだよね」


本当、娘によくやるわ、と伊澄は自嘲気味に笑った。そうする他、なかったから。

そんな人たちの血を継いだ、私も私だなんて思いながら。


「私も、イトコとか……親戚と比べられて育ったしね」


──あれだけ勉強させたのに、一向に成績も上がらないとは。他のイトコたちは成績優秀だと言うのに。


──がっかりだわ、有名企業にも入れず、ましてやいい大学に入れないなんて。


期待はずれ、だと何度言われただろう。


今でも聞こえる、両親の呪いの言葉を未だに忘れられずにいる。



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