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後悔先に立たず


「…………さぁ」


惚けるつもりはなかったが、その後に続く言葉が怖すぎて伊澄はわざと惚けた。

固唾を飲んで伊澄はアルスの言葉を待った。


「実は、イスミが意識を失ってる時、ここの住人たちがイスミに詰め寄ろうとした。イスミが、あの厄災を呼び寄せたと、口々に言っていたよ」


今思い出しても忌々しい、とアルスは口を歪めて言った。

その光景を直接見ていなかった伊澄でさえ、凄惨な状況だったのだろうと予測は着いた。


人は計り知れない、受け止めきれない不幸を前に来た時、誰かのせいにしたくなる。

それは身内の中からでも犠牲として選別されるくらいに。


そして、それが余所者だったら簡単に祭り上げられて標的になるだろう。

それが伊澄だった、それだけのこと。

嫌という程、伊澄はそれを知っている。


「俺は、意識を失ってる伊澄を今にも殺さんばかりの住民たちの前に立ちはだかった。イスミはこの状況を止めようとしただけだ、そんな厄災を呼び寄せたなんて、都合のいい話があるか、って」


ちょっと考えればわかることだとアルスは訴えたらしい。

それは伊澄にも分かる。この町を訪れたのは初めてだし、セントロに向かうための立ち寄りでしかないから。


でも、この住民たちは違う。伊澄たちの都合なんて知りもしない。

ただ、そこに居合わせただけだ。

そして、そこに訪れた厄災に人々はただ関連付けて、理由付けをしたかった。


(そうしないと、飲み込んでいけなかったから)


理不尽だ、と断じるのは簡単だ。

だけど、そこには人の弱さがある。理不尽を真っ直ぐに受け止められる人ばかりではない。


「んで、私は矢面に立たされそうになってアルスが助けてくれたってことね」


大体の状況は理解できた。出来たが、この状況は芳しくない。

むしろ、窮地に立たされていると言ってもいい。


このままここに留まれば、伊澄どころかアルスの身も危うい。

死にたい身ではあるが、ここで殺される訳には行かない。


それに、とアルスを見る。

巻き込んでなんだが、アルスはただ伊澄に着いてきただけだ。

それなのにこんなことに巻き込まれて、不運以外なんでもない。


(アルスは死なせない)


元より死なせるとか、身を危険に晒すつもりはさらさらなかった。


「ごめん、もう少しだけ付き合って。もし危なくなったら見捨てて構わないから」


「……は?」


伊澄はアルスに対して、気が病まないようにと言葉をかけた──つもりだった。

ぴしり、と流れる空気がひび割れる音がした。


何か、気に障っただろうか。

伊澄は無表情に固まるアルスを真っ直ぐに見つめた。


「なに、どうしたの」


「それ、本気で言っているのか」


戸惑い狼狽える伊澄に、アルスはじわじわと詰め寄る。

さっきあった温もりよりも、断然熱い、身が焼かれそうな熱が籠る目。

怒りを含んだような、燃える金色の目が伊澄を捉えて逸らすことを許さない。


「……本気。だって、アルスには私の生死なんてそこまで重要じゃないでしょ? 最終的に、私が死ねばなんだって…………」


「良い訳あるか!…………っ! もういい!」


あーもう、と言いながらアルスはそっぽを向いてしまった。

心底、心外だとでも言いたげだ。


それが、伊澄には理解できない。

何故、そこまで怒るのか、を。


伊澄のことをまるで自分のことのように怒るアルスが伊澄こそ理解できずにいる。


「だって、今までこうやって、私のことをまるで大事みたいな感じで、怒ってくる人なんて居なかったんだよ」


親でさえも伊澄のことを省みることなんて無かったから。


ぽろり、と伊澄は口にして後悔した。

ずっと、言わずにいたのに、ひとたび口にすれば後戻り出来ないと分かっていたから。







いつも読んでいただきありがとうございます!

ちょっとずつですが先に進んでおります。

もしかしたら話全然進んでなくない?と思われてしまっているかもと不安になっていますが、お付き合い頂けたら幸いです。

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