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騎士の勘


「小さい子供の声を聞いた」


そう伊澄が告げると、隣に立つアルスが息を飲む音が聞こえた。

信じられないのだろう。その声を聞いた伊澄ですら信じられないのだから、無理もない。


だが、人の何かであることは確かだと、伊澄は思った。

人を構成する何かが、あれの中にある。

例え、人の形をしていなくとも。


「どうする? 対処法は何か思いつくか?」


「………………あるわけ、ないでしょ」


あんな、魔法みたいな、ファンタジー感満載の存在を伊澄は知らない。

退治したことも考えたこともないのだから、対処のしようがなかった。


アルスも同じようで、だろうな、なんて言葉を隣で吐いた。


「…………」


無言で睨み合う時間が過ぎた。

どれくらい睨み合っていただろう。長いようや短いような時間を経て、アルスが急に伊澄の手を取った。


予期せぬ力に、伊澄の足はもつれる。

うわぁっ、なんて間抜けなこの場にそぐわない声が響く有様だ。


倒れなかったのは、アルスが咄嗟に伊澄の腰に手を回し支えてくれたからだ。

半ば宙に浮くような体制で、アルスに支えられ伊澄は走り出していた。


「ど、どこ行くの…………!?」


「決まってるだろう、この場から離れる。それしか方法がない」


焦る伊澄に、アルスはただ淡々と答える。

冷静なアルスとは対照的に、伊澄は冷静ではいられなかった。


駆け出しながら、振り返らなければいいのに振り返ってしまった。


「お、追いかけてきてる!」


音もなく、伊澄たちを追いかけてきている。

伊澄はただ恐怖に慄いた。確実に味方ではないものが悠然と距離を詰めてきているのだ。


(冗談でしょ!?)


喉が渇くのも忘れて、伊澄は必死にアルスと逃げた。

はぁはぁ、と情けなく呼吸を荒くする伊澄は、町とは離れていっていることに気づいた。

町の明かりが遠く見えている。


「…………今町なんかに行ったら、被害が及ぶだろう。だったら、俺たちが囮になって町から引き離す方がいい」


どこまでも冷静だ、と伊澄は思った。そういえばアルスは前の世界では騎士と言っていたか。

国を、民を守ってきたのは伊達ではないのだろう。


今までの経験と、弱きものを守ると言う使命はアルスの身に染み付いているのかもしれない。


「さすが、騎士だっただけはあるね」


伊澄には考えつかなかったことを、アルスは実行出来ることに感心してしまった。

伊澄だったらきっと、自分のことが優先で他人のことなんて考えていなかっただろうから。


(そう、教えられてきたしね)


そう物思いに更けていると、突然アルスが足を止めた。

逃げていたはずなのに何故、と伊澄がアルスを見上げる。


アルスの視線は後ろを向いていて、自然と伊澄も視線を追いかけた。

そこにはまだあの黒い何かは居た。


けれど。


「追いかけて、来ない………………?」


立ち止まったにも関わらず、微動だにはしないその黒に伊澄は身を強ばらせた。

何か企んでいるのだろうか。企んでいるとしても表情なんてないので、一挙手一投足目が離せない。


「あいつ…………何か別の方向を見てるな」


「そんなこと分かるの?」


伊澄にはどちらを向いているのかなんて、まるで検討がつかない。

けれど、アルスは分かるようだった。


「騎士の勘だ」


確信めいた言葉でアルスは言い切る。

それならそうなのだろうと、伊澄も思った。


一体、何を考えて、何を見ているのだろう。






いつも読んでいただきありがとうございます!

ブックマーク等うれしいです!

これからも頑張ります(ง •̀_•́)ง

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