自称神様
「おーい、そろそろ起きてくれないかな?」
微睡む眠りの向こうから、聞いたことのない声がした。
伊澄は無意識にうるさいな、と寝返りを打つ。今やっと眠れたところなのだ。邪魔しないで欲しい。
やっと訪れた静かな時間を貪るのに、起こされるなんて冗談じゃない。
無視して眠ってしまおう。そう決めて、伊澄はあえて目を開けなかった。
「いやいやいや、この状態で眠るなんてキミ、かなりすごいね」
何がすごいんだろう、と伊澄は思ってしまった
。無視したはずなのに無視できないほど、意識は覚醒し始めていた。
本当はまだ眠っていたいのに、やっと静かに眠れると思ったのに。
誰だ? 私を起こしたやつは、と内心悪態を吐きながら伊澄は目をゆっくり開いた。
「は? ここどこ?」
視界いっぱいに広がったのは、青空といくつも聳え立つ宝石のような柱だった。日の光を浴びキラキラと光っている。
強すぎる光に、伊澄は目を細める。まるで万華鏡かなにかかと見間違えるほど綺麗だ。
綺麗であるが故に、眩しすぎる。
自分の背丈をゆうに超える宝石を伊澄は知らない。
それに伊澄が座っている場所が、問題だった。
どうやらどこかの島であることは明らかだった。そこまで広くない陸地に、申し訳ない程度に、数本の大木が育っている。
それ以外は宝石の柱が何本も存在感を放つだけ。
しかし、分からないのはその島がある場所だ。島は海ではなく、空に浮かんでいるのだ。なんの力も感じさせず、ふわふわと浮かんでいた。
「なに、私夢見てる?」
死んでいるのに夢なんて、ちゃんちゃらおかしい。
まさか、自分は死んでいないのだろうか?
確かめるすべは最早ないが、伊澄は確かに死んだ気がしていた。
「やぁ、やっと起きたんだね! 本当、キミって自分勝手な人だねぇ」
「うわっ!?」
突如、人影が伊澄の目の前に現れた。
くりっとした愛嬌のある目、白く長い髪を緩く結んだ伊澄よりも年下と思われる男の子。小学生と言われても疑いようのなさそうな年頃だ。
どこか格式高い僧侶が着ていそうな、ファンタジーじみた服装。
しかも、大人の服を無理やり着せられたそんな雰囲気を漂わせる。
いうなれば、服が歩いているみたいだ。
そんな男の子が、伊澄を見て笑っているのに異質さを感じた。
「おーい、惚けちゃって大丈夫ー? もしもーし??」
男の子は間延びした声で伊澄に呼びかける。伊澄の意識がちゃんとあるか確かめるように、目の前で軽く手を振った。
伊澄は、はっと我に返り後ずさった。
「待って、あなた誰? ここはどこ? 私死んだんじゃないの!?」
混乱を極めた伊澄の口が、矢継ぎ早に男の子に言葉を投げつける。
それは男の子に詰め寄る勢いだった。
「ええっと、ちょっと待って。ちゃんと答えるから」
少年に落ち着けられるようにどうどうとなだめられ、伊澄は浅い呼吸を整える。
いつの間にか早くなった鼓動を感じて、やっぱり死んでなかったのか、と伊澄は思った。
「さてと、キミの質問に答えよっかな!」
この空気を破るように少年が、ぽんと手を叩く。
伊澄はゆっくりとうなだれた気持ちを持ち直して、少年の方を見た。
やっぱり、子供のようにしか見えない。
「まずは初めましてだね! ボクはセリオス! この世界、プルリオの神様だよ! それにキミをここに招いたのもボク!」
「…………かみ、さま?」
目の前の自称神様、に伊澄は言葉を失った。
神様なんて、伊澄は信じていなかったからだ。助けて欲しい時に助けてくれない神様なんて、要らない。
故に、神様なんて信じてなかった。
それに、自分を自分で神様です! なんて名乗る子供なんておかしい。
やっぱり、これは夢の中なんだと、伊澄は再び深いため息を吐いた。




