何を話せばいい?
アルスに連れられて、人の波に乗るように伊澄は歩き出した。
通り過ぎる人達はみな笑いあったりして和やかだ。
時折衣服の系統や肌の色が違う人がいるのは、異国の人間も混ざっているからなのだろう。
それだけで、目指すセントロはかなり栄えているのだろうことが伺える。
「なぁなぁ、聞いたか」
「何がだ?」
舗装されているが、アスファルト、なんて概念がないのか土が剥き出しの道。
けれど、雑草がひとつも生えていない不思議な道はずっと真っ直ぐ続いている。
アルスが物珍しいのか辺りを見回し、伊澄がまっすぐ前だけを見つめて歩いていると少し離れた所から声が聞こえてきた。
日に焼けた健康的な肌をした男たち。麦わら帽に籠を背負っている姿は農夫だろうか。
こそこそと話してはいるが、それが逆に目立つ。肩を寄せ合い、誰にも聞かれないようにとはしているらしいが、伊澄には見て見ぬふりは出来なかった。
こっそり盗み見ながら、伊澄は聞き耳を立てた。
そんなことは露知らず、男たちは話を続ける。
「──の方の森で山火事だとよ」
「え、そうなのか?」
「森に棲みついた魔女を退治しようとしたって。そいつに触れられたら、なんでも溶けるようにして死ぬって話だぜ」
「ぁぁ、その話な。でも本当なのか?」
「本当らしい。村人が追い出そうとして家に火をつけたら、大男と飛び出して、こっちの方向に逃げてきたって話だ」
「うわぁー、怖いなぁ」
男たちが繰り広げる会話を聞いていて、伊澄は全部自分のことを言っていると気づいた。
こんなにも早く噂は回るのか、と伊澄は頭を抱える。
アルスもどうやら気づいたようだ。
睨み、とまでは行かないまでも男たちをじっと見ていた。
あまり自分たちの素性を明かさない方がいいかもしれない。
知られたら何をされるか分かったものではない。要らぬことは言わないでおこうと内心で思う。
「なんでも、魔女は黒髪で……そうあの後ろの女みたいな……」
「まさか……な……?」
そう心に決めた伊澄は、振り返った男たちと目が合ってしまった。疑いの目は、真っ直ぐ伊澄とアルスを交互に見た。
大男、とはアルスのことなのだが。
如何せん、アルスは目立つ。人とは違う、綺麗な白みがかった灰色の髪は人の目を引くのだ。
伊澄は嫌な気配を感じた。このままだと、伊澄たちに迫ってくる気がした。
手の中の汗を悟られないように、そっと脱ぐうと伊澄はアルスの手を取って走ろうとした。
だが、伊澄はその手を止める。
(私の力のこと、聞かれたよね……)
アルスはまだ、伊澄の力のことを知らない。
知らせてもいなかった。タイミングが無かったとはいえ、いつかは言わなければいけないことだった。
けれど、言えなかったのは……どうしてだろう。
伊澄はアルスに伸ばしかけた手をそっと下ろして走り出す。
「行くよ、アルス……!」
「え? あ、おい、イスミ!」
駆け出した伊澄の背後に寄り添うように、アルスは着いてくる。
その気配を感じながら、伊澄は真っ直ぐの道を一心不乱に走った。
全てから逃げ出すように、ただ前へ。
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気がつけば、あの山小屋から飛び出して数日が経っていた。知ってはいたが、セントロまでは遠く、もうしばらくかかりそうだ。
その間、アルスとは微妙な空気が流れた。恐らく、伊澄に宿った力のことを聞きたかったのだろうが、その気配を察知してあえて避け続けてしまっていた。
(別に……知られてもいいだろうに)
自分で自分が分からない。知られてもいいと思う自分と、このままでいて欲しい、という自分がせめぎ合っていた。
そうして、会話らしい会話は途切れてしまっていた。
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