二人で歩く道
そのまま、川辺で一夜を明かした。
眠るには最悪の環境だった。寝心地なんて以ての外だったし、横になるどころか木にもたれかかって眠った。
伊澄が目を覚ますと、すでにチロ──アルスは起きていてそこそこ大きな木の枝を持っていた。
「……おはよう、何してるの?」
あまりよく眠れなかった目を擦りながら、伊澄は一つ伸びをする。
「おはよう、イスミ……顔酷いことになってるぞ」
振り返ったアルスがギョッとした顔をした。
目を見開き、まるでおばけでも見たような反応だった。
「よく、眠れなかったんだよ……」
前の世界でも眠る時はかなり酷いものだった伊澄と思う。ベットに辿り着けずに、玄関の床で眠ることだってしばしばだった。
それでも、よく眠れたのだ。環境は最悪だったとしても。
こんなにも野宿が酷いなんて知らなかった。
あちこち体が痛い。それに、寒くて鳥肌が立つ。
最悪の目覚めの内の一つかもしれない。
あともうひとつは会社に行くというものだったけど。
あぁ、最悪だと隈が出来ているであろう自分の顔を川で洗い、乱暴に袖で脱ぐう。
「ほら、これ食って元気出せ」
「え、ありがとう……」
そんな様子を見ていたらしいアルスが、伊澄に向かって木の実を放り投げた。
それは伊澄にとって馴染みのある木の実だった。
「それ、食えるんだろう? よくイスミが採ってたやつだ」
よく見てる、と伊澄は感心した。
そんな小さなことまで覚えてるとは思ってもみなかった。
伊澄だったら、きっとそんなこと覚えてすらいないのに。
「さっさと食え。……んで、この後どうする」
伊澄が食べ始めたのを確認すると、アルスは伊澄の目の前にやってきた。
もぐもぐ、と口を動かしながら伊澄は言った。
「とりあえず、セントロに行こうと思う」
「どこだそこは」
それはね、と何も知らないであろうアルスにこの国、プリオルの中心 ──それがセントロだと告げる。
「なるほどなぁ。宗教国家か。それが国の中心なら尚更、セリオスの手がかりがあるかもしれないな」
腰に手を当てて聞いていたアルスは強くうなづいた。
伊澄は食事を終えると、そんなアルスと共に歩き出す。
人が普段通る道ではなく、獣道すらない藪の中を伊澄は歩くがそんなに苦ではなかった。
それはアルスが前を歩いて、道を作ってくれていたからでもあった。
方角を知っている伊澄が先頭を切ろうとしたのだが、アルスは頑として譲らなかった。
少々の押し問答をした後、伊澄は押しに負けた。
そうして、伊澄はアルスの後ろを歩いていた。
(なんでかなぁ、なんか落ち着かないや)
こうして他人に、気遣われているのでは? と思うことを伊澄は放棄していた。
そんなはずは無い、アルスとの関係はそんなものではないから。
それでもまぁいいか、と無理やり自分に納得させる。
前を歩くアルスは、方位磁石がなくても方角が分かるようだった。足取りに迷いはなく、伊澄はただ着いていくだけだ。
やがて森を抜けると、森と平原を別ける大きな街道に出た。そこには旅人と思われる人々が行き交う。荷物を引く馬車や、歩きでゆく人。
みな賑やかに、そして足早だ。
「これは大きな国と国を繋ぐ道だな」
アルスは当たりを見回してそう言った。
確かにこの賑わいは、そうでも無ければ生み出されないだろう。
伊澄はまるで出勤ラッシュみたいだと思った。
(嫌な記憶だなぁ)
あまり人が多い場所は好きではない。
だけど、この道がセリオスに続くなら、行かない訳には行かなかった。




