似たもの同士
「だから、チロはそのままでいてよね」
遠くない未来に私を殺すとしても、と伊澄は言うとそのまま寝転がった。
どんな感情があろうとも、隣にいてくれるならと思った。それはそれでちょっと狂っているだろうか。
(まぁ、元々壊れてるようなんもんだしな)
人間として、上手くできてない。
それはずっと前から知っていた。
──だから、お前はダメなんだ!
目を閉じるとそう聞こえてくる。伊澄を見限った人の声。
その声はずっと前に聞いた、もう顔も覚えてない父親の声だった。
「ひとつ聞いていいか」
「ん? 何?」
少しだけ眠くなってきた目を開けて、チロを見る。
どうやらチロは食事をし終えたらしい。汚れた口元を拭いながら、言いにくそうに口を開いた。
「お前の目的はなんだ。何をし終わったら、殺されてもいいと思っている」
「んー? あぁ、そうだよね。知りたいよね。──私は神様に文句が言いたいの」
くぁあ、と一つ欠伸をして何ともないと言うようにチロに告げる。
チロだって、伊澄の目的が分からなかったらいつ殺せばいいか迷うだろう、と思い当たった。
だから、伊澄は信じてもらえるか、貰えなくてもいいのだが話し始めた。
自分が恐らく死んでいるということ、死んだのにこうやって人生が続いていること。
──そんな人生は一切望んでいないこと。
「だから、文句を言って、一発殴りでも蹴りでも入れてすっきりして、静かに眠りたいの」
こうやってね、と静かな夜の中再び目を閉じた。聞こえるのは川のせせらぎと木々が風で揺れる音。
後は、心の中が静かに凪いでくれれば最高なのになぁと伊澄は思った。
チロはどう思ったのか、口を開かずただ静かに伊澄の言葉を聞いてくれていた。
そんな空気が心地よかった。
今までこうやって伊澄の言葉を聞いてくれる人なんていなかった。
「親でもさ、私の言葉なんて必要なかったのに変なの」
血が繋がってようと、一緒の家で暮らしていようと、誰一人伊澄に見向きもしなかったのに。
こうやって、変な世界で出会って、あんな約束までしておいて、伊澄は言葉を聞いてくれる人と出会うとは思ってもみなかった。
人に分類していいものか、判断はつかないが。
細かいことはどうでもいいや、と思考を放棄した。
チロがどんなふうに伊澄を慰めようとしても、意味はもう無かったから。
別段言葉を求めている訳でもない。聞いてくれるだけでよかったから、それ以上は望まなかった。
チロも伊澄の言葉に特別言及するわけでもなく、思い詰めたように地面に視線を落としたまま口を開いた。
「……その神様は、セリオスと言わなかったか」
「…………えっ、セリオスを知ってるの?」
セリオスの名前を聞いて、眠気が軽く吹き飛んだ伊澄は飛び起きた。
まさか、ここでセリオスの名を聞くとは思ってもみなかった。
チロはあぁ、とうなづき伊澄と向き合う。伊澄もゆっくり座り直して、チロの言葉を待った。
「実は俺も、死んでいる、と思う。その自覚はある」
チロから告げられたのは、伊澄と似た境遇を持つ、という事だった。
「俺は生きていた頃……と言っていいのだろうか……前の世界で騎士をしていた」
チロが話したのは、伊澄が知らない別の世界の話だった。
プリオルとは別の、ファンタジーよろしくな世界の話だ。
どうやらその世界では、人間と獣人は争っていたらしい。
圧倒的に獣人が有利だったらしいが、被害がない訳では無く獣人側にも相当痛手を負ったようだった。
聞く限り、争いは熾烈を極め血が血を呼ぶものだった。
「俺は、その中で先頭を切っていた。それなりに地位はあったんだぞ」
なにやら得意げに話すチロだったが、その横顔は寂しそうでもあり、なんだか悔しさが滲んでいた。
きっと、何か残してきたのかもと伊澄は思う。
元の世界に愛着などない伊澄には理解できないが、チロは元の世界に戻りたいのかもと思った。
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