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NO37:廃墟の自動販売機レストラン


 西暦2075年、第三次世界大戦は地球を焦土と化した。

 主要都市は壊滅し、生き残った人々は散り散りになって荒廃した大地をさまよっていた。


 僕たち独立遊撃部隊「コヨーテ」もその一つだ。物資は常に不足し、特に食糧は死活問題だった。


 「隊長、もう弾薬も食料も底をつきそうです」


 新兵のケンが、かすれた声で報告した。彼の顔色は土気色で、ひどくやつれている。

 無理もない。ここ一週間、まともに口にできたのは乾パンと水だけだ。


 「わかっている。だが、今は進むしかない。この先の旧市街に、物資集積所の情報がある」


 僕は背負っていたライフルを握り直し、前を向いた。

 希望は薄いが、それでも仲間たちを生かすためには、わずかな可能性にも賭けるしかなかった。


 旧市街は、まさに死の街だった。

 崩れ落ちたビル群が墓標のように立ち並び、風が瓦礫を吹き荒れる音が、僕たちの絶望をさらに深くする。

 その時、隊員のミサキが突然立ち止まった。


 「隊長!あれ、見てください!」


 ミサキが指差す先には、廃墟と化した商店街の一角に、不自然なほど綺麗にたたずむ一軒の店があった。

 看板は朽ち果てていたが、店先に並ぶ古びた自動販売機が、なぜかまだ稼働しているように見える。


 「まさか……こんなところに?」


 半信半疑で近づくと、確かに自動販売機のランプは点灯していた。

 それも、まるで新品のように輝いている。僕は恐る恐る自販機のパネルを見た。


 メニューには、見慣れない料理名が並んでいる。


 「『特製ビーフシチュー』、『幻の親子丼』、『宇宙海鮮カレー』……なんだこれ?」


 ケンが呆れたように言った。こんな荒廃した世界で、まともな食料が手に入るわけがない。  

 ましてや、こんな奇妙な名前の料理なんて。


 「でも……温かい飲み物もあるみたいですよ。『ホットココア』って書いてあります」


 冷え切った体に、温かいココアという響きが妙に心に沁みた。

 僕は迷わず一番安い「ホットココア」のボタンを押した。ガタン、と鈍い音を立てて、金属のトレイから温かい紙コップが出てきた。


 恐る恐る一口飲むと、甘くて香ばしいココアの味が口いっぱいに広がった。


 「う、美味い……!」


 あまりの懐かしい味に、僕は思わず涙ぐんだ。仲間たちも驚いた顔でココアを飲んでいる。


 「信じられない……。こんなに美味しいココア、いつぶりだろう」


 ミサキが震える声でつぶやいた。

 ココアの温かさが、凍てついていた僕たちの心をゆっくりと溶かしていくようだった。

 その日から、この自動販売機は僕たちの心の拠り所となった。


 戦闘で傷つき、疲弊した体と心を癒すのは、いつもこの自動販売機から出てくる「料理」だった。

 ある時は熱々の「特製ビーフシチュー」が、またある時は栄養満点の「幻の親子丼」が、僕たちを絶望の淵から救い出してくれた。

 不思議なことに、出てくる料理は毎回違うし、現金も必要ない。


 ただ、心の底から「食べたい」と願うと、その願いが通じるかのように、ふさわしい料理が出てくるのだ。


 「隊長、今日は『故郷の味、肉じゃが』ですよ!」


 ケンが嬉しそうに報告した。

 彼の顔には、以前のような土気色はなく、少しだが血色が戻っている。


 みんなもそれぞれ、好きな料理を手に笑顔を見せていた。僕たちにとって、この自動販売機はただの食料源ではなかった。

 それは、失われた平和な日常を思い出させる、温かい記憶の象徴だった。


 しかし、戦場に安息は長くは続かない。

 ある日、僕たちは敵の大部隊と遭遇し、激しい銃撃戦となった。

 仲間たちが次々と倒れていく。僕も右腕を撃たれ、意識が朦朧としてきた。


 その時、ふと、自動販売機のことを思い出した。


 「頼む……何か、力を……」


 僕は最後の力を振り絞って、自動販売機へと這い寄った。かすむ視界の中、パネルに表示されたメニューに目を凝らす。

 そこに、今まで見たことのないメニューが表示されていた。


 「『希望の光、最終作戦用レーション』……?」


 僕は震える指でそのボタンを押した。ガタン、と大きな音を立てて出てきたのは、掌サイズの金属製の容器だった。

 蓋を開けると、中には小さな赤いカプセルが一つだけ入っていた。


 「なんだ、これ……」


 僕は半信半疑でカプセルを口に含んだ。

 すると、全身に熱いエネルギーが駆け巡るのを感じた。

 傷口の痛みが消え、視界がクリアになる。体中に漲る力に、僕は驚きを隠せない。


 「これは……まさか!」


 僕は再びライフルを構え、残った仲間たちと共に敵へと突撃した。

 身体能力は極限まで高まり、敵の動きがスローモーションのように見える。

 僕はかつてない集中力で、次々と敵を無力化していった。


 仲間たちも僕の変貌に驚きながらも、それに続く。

 激戦の末、僕たちは辛くも敵部隊を撃退することができた。


 夜が明け、静けさが戻った戦場で、僕は改めて自動販売機へと向かった。

 あのカプセルは一体何だったのか?そして、なぜこんな場所に、こんな不思議な自動販売機があるのか?


 僕は自動販売機の裏側に回り込んだ。

 すると、錆びついた金属の扉があり、その奥に薄暗い空間が広がっている。

 僕は恐る恐る中に入った。


 そこには、大量の配線と、古びた機械が所狭しと並んでいた。

 そして、その中央には、一台の小型コンピュータが置かれていた。画面には、古めかしい文字が点滅している。


 『管理モジュール起動中…』


 『最終作戦遂行確認…』


 『ミッションコンプリート…』


 さらに読み進めると、そこに信じられない情報が記されていた。


 『旧文明緊急食料供給システム「マナ」起動。    

 戦時下における兵士の士気維持、及び最終局面における戦力増強を目的とする。

 提供される食料はナノマシンにより構成され、摂取者の精神状態、身体状況に合わせ最適化される。

 最終作戦用レーションは、限界状態の兵士に一時的な超人的能力を付与する。

 ミッション完了後、システムは自動停止。』


 僕は呆然と立ち尽くした。

 この自動販売機は、かつての文明が、絶望的な状況下で兵士を鼓舞し、戦い抜かせるために作り上げた、究極の兵器だったのだ。

 

 僕たちの心を癒し、そして最後には力を与えてくれたのは、感情を持つ機械がくれた「希望」だった。

 僕がコンピュータの画面を見つめていると、突然、画面が真っ暗になり、同時に自動販売機のランプも消えた。


 システムは、その役目を終え、完全に停止したのだ。


 「終わったんだな……」


 僕は力なくつぶやいた。しかし、僕の心には、不思議と寂しさだけではなかった。


 「ありがとう……」


 僕は静かに自動販売機に頭を下げた。それは、人類が絶望の中で生み出した、最後の希望の光だったのかもしれない。

 僕たちは、この自動販売機が与えてくれた力と希望を胸に、荒廃した世界を生き抜いていく。




 この廃墟の自動販売機レストランは、僕たちの心に永遠に刻まれるだろう。


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