NO31:呪われた森の毒キノコスープ
薄暗い呪われた森の奥深くに、一軒の奇妙な小屋がひっそりと佇んでいた。
そこには「森の魔女」と呼ばれる老女が住んでおり、彼女が毒キノコで恐ろしいスープを作るという噂が、まことしやかに囁かれていた。
ある日のこと、激しい戦で深手を負った一人の兵士が、意識朦朧としながら森を彷徨っていた。
「くそっ……もう、終わりか……」
彼は膝から崩れ落ち、もう動けないかと思ったその時、微かに立ち上る香りに気づいた。
「なんだ……この匂いは……?」
兵士は這うようにして香りの元へと向かった。たどり着いたのは、まさに噂の魔女の小屋だった。
小屋の中からは、グツグツと煮立つ鍋の音が聞こえる。
「まさか……あの毒キノコスープか……?」
兵士は恐る恐る中を覗いた。
「あら、お客様かね?」
魔女は鍋から顔を上げ、しわくちゃな顔で兵士を見た。
「こんなところに迷い込むなんて、珍しいねぇ。何か、困り事かね?」
兵士は警戒しながらも、自分の状況を正直に話した。
「私は……戦で深手を負いました。もう、助からないかもしれません……」
魔女は兵士の傷を一瞥すると、ふっと笑った。
「ほう。それは大変じゃったな。だが、心配いらんよ。ちょうどいいものができたばかりじゃ」
そう言って、魔女は大きな木製の柄杓で鍋から温かいスープをすくい上げた。
「さあ、これを飲むといい。わしのとっておきのスープじゃ」
兵士は躊躇した。これが毒キノコスープならば、確実に命を落とすだろう。
しかし、すでに虫の息の自分にとって、これ以上の選択肢はなかった。
「……ありがとうございます……」
彼は震える手で器を受け取ると、意を決してスープを口にした。
一口飲むと、兵士の目に驚きが広がった。
それは、想像していたような毒々しい味ではなかった。
むしろ、温かく、優しい味がしたのだ。
森の香りと、今まで味わったことのないような複雑な旨味が、彼の五臓六腑に染み渡る。
「これは……!」
魔女はにこやかに言った。
「どうじゃ? 美味いじゃろう? 毒キノコじゃが、ちゃんと下処理をして、薬草と一緒に煮込んであるんじゃよ」
兵士はさらにスープを飲み進めた。
すると、どうだろう。
身体中にあった痛みが、少しずつ和らいでいくのを感じた。
心の奥底に染み付いていた戦の記憶、仲間を失った悲しみ、未来への絶望。
それら全てが、温かいスープと共に溶けていくようだった。
「体が……軽くなる……」
兵士は、気づけば涙を流していた。
それは、痛みから解放された安堵の涙であり、心の傷が癒されていく喜びの涙だった。
「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます……」
魔女は優しく微笑んだ。
「ほうじゃろう、ほうじゃろう。わしはな、この森で迷い、傷ついた者たちのために、このスープを作っておるんじゃよ。毒キノコも、使い方次第で薬になる。人もまた、見かけだけで判断してはいかんのじゃ」
兵士は、森の魔女に対する自分の偏見を恥じた。彼女は恐ろしい存在などではなかった。
むしろ、深い知恵と慈悲を持った、心優しい癒し手だったのだ。
数日後、完全に回復した兵士は、魔女に別れを告げ、森を後にした。
彼は故郷へと戻り、そこで魔女から得た教訓を語り継いだ。
「人は見かけによらない。そして、真実を深く見極めることの大切さ」
彼の言葉は、多くの人々の心に響いた。
呪われた森の毒キノコスープは、いつしか「奇跡の癒やしスープ」として語り継がれるようになり、森の魔女の小屋には、傷ついた人々が救いを求めて訪れるようになったという。
魔女は今日も、静かに、そして慈愛に満ちた眼差しで、グツグツと煮立つ鍋を見つめている。
彼女のスープが、これからも多くの魂を癒し続けることを願いながら。




