表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/60

NO25:タイムループ食堂


 2077年5月15日。


 「今日の夕食は、昨日と同じく混ぜご飯か…」


 リュウは疲れた声でつぶやいた。彼の目の前には、いつもと変わらない、温かい混ぜご飯の入った食器が置かれている。

 隣に座るコウキは、もう慣れきった様子で黙々とスプーンを動かしていた。


 ここは、最前線から少し離れた基地の食堂だ。


 「仕方ないだろ、リュウ。どうせ明日も明後日も、永遠に5月15日なんだから。俺たち、昨日と同じ混ぜご飯を食べる運命なんだよ」


 コウキは顔も上げずに言った。彼らのいるこの世界は、数ヶ月前から奇妙なタイムループに囚われている。

 毎日同じ日が繰り返され、彼らの記憶だけが積み重なっていく。


 リュウは深いため息をついた。


 「本当に嫌になるな。戦闘も、飯も、全部同じ。俺たち、一体いつになったらここから出られるんだ?もううんざりだよ…」


 「さあな。でも、この食堂だけは、唯一の救いだよな。昨日と同じって言っても、昨日の食材の切れ端で作ってるから、全部が全部同じってわけじゃない」


 コウキの言葉に、リュウはハッとした。確かに、この食堂の食事だけは、毎日少しずつ変化している。


 もちろん、食材は限られているし、基本的なメニューは変わらない。それでも、調理兵たちが昨日までの「食材の切れ端」を使って、様々な工夫を凝らしているのだ。


 「ああ、そうだな。昨日の肉の切れ端と、今日の野菜の切れ端で、また違う味になるんだもんな。昨日と全く同じ混ぜご飯じゃないって思うと、少しだけマシに思える」


 リュウは少しだけ顔をほころばせた。このタイムループの中で、唯一の予測不能な要素。


 それが、この食堂の料理だった。


 翌日、また5月15日。


 「今日の混ぜご飯は、なんか香ばしいな。昨日とは違う味がする」


 リュウが混ぜご飯を一口食べると、いつもとは違う風味を感じた。


 「ああ、昨日の残りのパンの耳を焦がして細かく混ぜたらしいぞ。イシカワさんが言ってた。『どうせ捨てちゃう切れ端なら、何か使えるだろ』ってさ」


 コウキは楽しそうに言った。食堂の奥からは、調理兵たちの賑やかな声が聞こえてくる。


 「また無茶してるな、あいつら…。でも、そのおかげで、俺たちは昨日とは違う味を楽しめるんだもんな」


 リュウは苦笑したが、その顔はどこか嬉しそうだった。この閉塞した日常の中で、ささやかながらも変化がある。

 それが彼らを支えていた。


 ある日は、昨日の肉の小さな切れ端を細かく刻んで、ご飯に混ぜ込んだ「特製チャーハン」が出てきた。

 またある日は、腐りかけた野菜の最後の切れ端をなんとか使って作った「不思議なスープ」が登場し、兵士たちの間で「今日のスープは当たりかハズレか」という賭けが流行した。


 「ハズレだ!今日のスープは泥の味がする!くっそー、また外れた!」


 「リュウ、お前は毎回ハズレ引くな!お前、まさかハズレのプロか?」


 そんなくだらない会話が、彼らの心を少しだけ軽くした。彼らにとって、この食堂は単なる食事をする場所ではなかった。


 それは、タイムループの中で唯一「明日」を感じられる場所であり、希望を抱ける場所だった。


 ある日の夕食。また5月15日。


 食堂にはいつになく活気があった。兵士たちはざわつき、期待に満ちた表情で配給を待っている。


 「なんだ?今日は何か特別なものが出るのか?こんなにみんなソワソワしてるなんて珍しいぞ」


 リュウはコウキに尋ねた。


 「ああ、今日は調理班のイシカワが、とっておきのレシピを出すってさ。なんでも、残ってる食材の切れ端を全部使って、究極の一品を作るんだとか。イシカワさん、昨日の夜からずっと準備してたらしいぞ」


 コウキは興奮気味に言った。

やがて、調理兵のイシカワが大きな鍋を抱えて現れた。その鍋の中には、見たことのない、しかしどこか懐かしい香りのする料理が盛られていた。


 「皆!今日の料理は、このループの中で培ってきた、俺たちの集大成だ!食材の切れ端を無駄にせず、最高に美味いもん作ってやったぞ!名付けて…『無限ループ・スペシャル混ぜご飯』だ!」


 イシカワが叫ぶと、食堂は歓声に包まれた。リュウもコウキも、期待に胸を膨らませて混ぜご飯を受け取った。


 一口食べる。


 その瞬間、リュウの目から涙がこぼれ落ちた。


 「これは…!なんて優しい味なんだ…!」


 甘さと塩味が絶妙に絡み合い、様々な食材の味が複雑に混ざり合っている。

 それは、今まで食べてきたどんな料理よりも、温かく、そして美味しかった。


 「う、美味い…!イシカワ、お前、天才か!こんな混ぜご飯、初めて食べたぞ…」


 コウキも感極まった表情で混ぜご飯を頬張っていた。


 その混ぜご飯には、昨日の肉の切れ端、一昨日の野菜の切れ端、さらにその前の日のパンの耳まで、ありとあらゆる「食材の切れ端」が使われていた。


 しかし、それらが一つになることで、新たな、そして最高の味が生まれていたのだ。


 リュウは涙を拭い、顔を上げた。


 「俺たち、もしかしたら、このループから抜け出せるんじゃないか…?こんなに美味しい混ぜご飯が食べられるんだから、きっと…」


 その時、食堂のスピーカーから、緊急の放送が流れた。


 「全兵士に告ぐ!全兵士に告ぐ!現在発生していたタイムループ現象が、完全に停止したことを確認した!繰り返す!タイムループ現象は、完全に停止した!」


 食堂は、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。兵士たちは抱き合い、喜びの声を上げた。


 リュウは信じられない思いで、自分の手を見た。手のひらには、まだ温かい混ぜご飯の感触が残っている。


 「終わったのか…本当に、終わったのか…?」


 コウキも呆然とした表情でつぶやいた。

 彼らは、タイムループの中で、毎日同じ日を繰り返してきた。

 しかし、この食堂の料理だけは、昨日から今日へ、食材の切れ端が形を変え、少しずつ変化し、進化してきた。


 そして、その変化の積み重ねが、彼らの心を支え、彼らが未来を信じる力を与えていたのだ。


 リュウは目の前の混ぜご飯をもう一口食べた。


 「なあ、コウキ。明日も、この混ぜご飯、食べられるかな?今日限りじゃもったいないよな」


 コウキはニヤリと笑った。


 「さあな。でも、明日はきっと、今日の食材の切れ端を使って、もっと美味いもん、作ってくれるさ。俺たち、明日が来るって信じてるからな」




 タイムループは終わった。しかし、彼らの「明日」への期待は、昨日までの「食材の切れ端」が織りなす、この食堂の料理のように、無限に続いていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ