NO23:占領下の給食当番
昭和2X年、冬。占領下のこの町は、鉛色の空の下、いつも物資不足に喘いでいた。
特に学校給食はひどいものだ。配給は滞り、子供たちは自分たちで食べるものを探し、調理しなければならなかった。
僕たちの小学校、弥生小学校も例外ではない。
今日の給食当番は僕、健太と、隣の席の由紀、それにいつも飄々としているタカシだ。
朝礼が終わると、僕たちはすぐに給食室へ向かった。
ひんやりとした給食室には、薪をくべるかまどと、錆びかけた大きな鍋があるだけだ。
「今日の献立、なんだと思う?」
由紀が、顔に似合わない大きな声で訊いた。由紀はいつも元気で、この状況の中でも笑顔を絶やさない。
「うーん……また芋かなぁ」
タカシが、ポケットから泥だらけのジャガイモを一つ取り出した。
「これ、昨日畑の隅で見つけたんだ。小さくて悪いけどさ」
僕は苦笑いした。
「タカシ、それ、泥だらけじゃないか。ちゃんと洗ったのか?」
「もちろん! 見ろよ、このピカピカ具合!」
タカシは得意げにジャガイモを掲げたが、どう見ても泥だらけだ。
由紀がそれをひょいと取り上げ、水道で洗い始めた。
「もう、タカシったら。健太、今日は何か見つけた?」
僕はリュックから、昨日川で捕った小魚を数匹取り出した。
「これだけだけど、味噌汁にでも入れるか?」
由紀の目が輝いた。
「わあ! すごいじゃない健太! 魚なんて久しぶりだね!」
タカシが悔しそうに言った。
「ちぇ、健太ばっかりいいもん見つけて。俺はいつも芋ばっかりだ。」
僕たちは笑った。こんな風に、毎日持ち寄ったもので献立を決めるのが日課になっていた。先生は何も言わない。
ただ、僕たちの活動をじっと見守っているだけだ。
今日の献立は、タカシのジャガイモと僕の小魚を入れた味噌汁、それから、由紀が持ってきた乾いたパンだ。
乾いたパンは硬くて、水に浸さないと食べにくい。
由紀が率先して、かまどに火を入れ始めた。パチパチと薪が燃える音だけが、給食室に響く。
タカシは大きな鍋に水を汲んできて、ゴシゴシとジャガイモを洗い始めた。
今度はさっきよりずっと丁寧に洗っている。
「健太、魚、腸取らなきゃ」
由紀が言った。僕は頷き、慣れた手つきで小魚の処理を始めた。
指先はかじかんでいたけれど、子どもたちの待つ教室を思うと、不思議と力が湧いてくる。
しばらくして、味噌汁がいい匂いを立て始めた。ぐつぐつと煮える鍋を覗き込むと、湯気とともに、僕たちの顔がぼんやりと映った。
「ねえ、いつになったら、お腹いっぱい食べられるようになるんだろうね?」
由紀がぽつりと言った。
タカシは黙って、乾いたパンを細かくちぎっていた。僕も返事ができなかった。
いつまでこの生活が続くのか、誰も知らなかった。
給食の時間になり、僕たちは出来上がった味噌汁とパンを、教室へ運んだ。
子供たちの目が一斉に僕たちに注がれる。
「わあ、今日の給食、魚が入ってる!」
「いい匂い!」
歓声があがった。その声を聞くと、朝早くから探し回って、寒い給食室で調理した疲れも吹き飛んでしまう。
「みんな、今日の給食は、健太くんが捕ってきてくれたお魚と、タカシくんが畑で見つけてくれたお芋が入った味噌汁だよ。由紀さんがパンを切ってくれたんだ」
先生が説明した。
子供たちは一斉に「ありがとう!」と言ってくれた。僕たちは照れくさそうに笑った。
硬いパンを味噌汁に浸して食べる。温かい味噌汁が、冷えた体に染み渡る。
みんな、黙々と食べていた。誰も文句を言わない。食べられるだけで、ありがたかった。
食べ終わると、空っぽになった食器を片付けた。僕たちが給食室に戻ると、先生が立っていた。
「健太くん、由紀さん、タカシくん。今日の給食、本当に美味しかったよ。みんな、喜んでいた」
先生は優しい声で言った。
僕たちは俯いたまま、返事をしなかった。特別なことをしたつもりはなかったからだ。
「ありがとう。君たちがいてくれて、本当に良かった」
その言葉に、僕の胸が熱くなった。由紀もタカシも、少しだけ顔を赤らめている。
その日の帰り道、由紀が言った。
「ねえ、明日はもっと美味しいもの、見つけられるかな?」
タカシが空を見上げながら呟いた。
「きっと、見つけられるさ。俺たち、給食当番だもんな。」
僕は二人の言葉に頷いた。占領下の厳しい日々は続く。けれど、僕たちは給食当番として、明日もきっと、子供たちのお腹を満たすために、力を合わせるだろう。
そして、その日々の営みが、少しずつ、僕たちを強く、大きくしていくのだと、漠然と感じていた。希望という名の、温かい給食を心に抱きながら。




