表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

NO23:占領下の給食当番


 昭和2X年、冬。占領下のこの町は、鉛色の空の下、いつも物資不足に喘いでいた。


 特に学校給食はひどいものだ。配給は滞り、子供たちは自分たちで食べるものを探し、調理しなければならなかった。

 僕たちの小学校、弥生小学校も例外ではない。


 今日の給食当番は僕、健太と、隣の席の由紀、それにいつも飄々としているタカシだ。


 朝礼が終わると、僕たちはすぐに給食室へ向かった。

 ひんやりとした給食室には、薪をくべるかまどと、錆びかけた大きな鍋があるだけだ。


 「今日の献立、なんだと思う?」


 由紀が、顔に似合わない大きな声で訊いた。由紀はいつも元気で、この状況の中でも笑顔を絶やさない。


 「うーん……また芋かなぁ」


 タカシが、ポケットから泥だらけのジャガイモを一つ取り出した。


 「これ、昨日畑の隅で見つけたんだ。小さくて悪いけどさ」


 僕は苦笑いした。


 「タカシ、それ、泥だらけじゃないか。ちゃんと洗ったのか?」


 「もちろん! 見ろよ、このピカピカ具合!」


 タカシは得意げにジャガイモを掲げたが、どう見ても泥だらけだ。


 由紀がそれをひょいと取り上げ、水道で洗い始めた。


 「もう、タカシったら。健太、今日は何か見つけた?」


 僕はリュックから、昨日川で捕った小魚を数匹取り出した。


 「これだけだけど、味噌汁にでも入れるか?」


 由紀の目が輝いた。


 「わあ! すごいじゃない健太! 魚なんて久しぶりだね!」


 タカシが悔しそうに言った。


 「ちぇ、健太ばっかりいいもん見つけて。俺はいつも芋ばっかりだ。」


 僕たちは笑った。こんな風に、毎日持ち寄ったもので献立を決めるのが日課になっていた。先生は何も言わない。


 ただ、僕たちの活動をじっと見守っているだけだ。


 今日の献立は、タカシのジャガイモと僕の小魚を入れた味噌汁、それから、由紀が持ってきた乾いたパンだ。

 乾いたパンは硬くて、水に浸さないと食べにくい。


 由紀が率先して、かまどに火を入れ始めた。パチパチと薪が燃える音だけが、給食室に響く。

 タカシは大きな鍋に水を汲んできて、ゴシゴシとジャガイモを洗い始めた。


 今度はさっきよりずっと丁寧に洗っている。


 「健太、魚、腸取らなきゃ」


 由紀が言った。僕は頷き、慣れた手つきで小魚の処理を始めた。

 指先はかじかんでいたけれど、子どもたちの待つ教室を思うと、不思議と力が湧いてくる。


 しばらくして、味噌汁がいい匂いを立て始めた。ぐつぐつと煮える鍋を覗き込むと、湯気とともに、僕たちの顔がぼんやりと映った。


 「ねえ、いつになったら、お腹いっぱい食べられるようになるんだろうね?」


 由紀がぽつりと言った。

 タカシは黙って、乾いたパンを細かくちぎっていた。僕も返事ができなかった。


 いつまでこの生活が続くのか、誰も知らなかった。


 給食の時間になり、僕たちは出来上がった味噌汁とパンを、教室へ運んだ。

 子供たちの目が一斉に僕たちに注がれる。


 「わあ、今日の給食、魚が入ってる!」


 「いい匂い!」


 歓声があがった。その声を聞くと、朝早くから探し回って、寒い給食室で調理した疲れも吹き飛んでしまう。


 「みんな、今日の給食は、健太くんが捕ってきてくれたお魚と、タカシくんが畑で見つけてくれたお芋が入った味噌汁だよ。由紀さんがパンを切ってくれたんだ」


 先生が説明した。

 子供たちは一斉に「ありがとう!」と言ってくれた。僕たちは照れくさそうに笑った。


 硬いパンを味噌汁に浸して食べる。温かい味噌汁が、冷えた体に染み渡る。

 みんな、黙々と食べていた。誰も文句を言わない。食べられるだけで、ありがたかった。


 食べ終わると、空っぽになった食器を片付けた。僕たちが給食室に戻ると、先生が立っていた。


 「健太くん、由紀さん、タカシくん。今日の給食、本当に美味しかったよ。みんな、喜んでいた」


 先生は優しい声で言った。

 僕たちは俯いたまま、返事をしなかった。特別なことをしたつもりはなかったからだ。


 「ありがとう。君たちがいてくれて、本当に良かった」


 その言葉に、僕の胸が熱くなった。由紀もタカシも、少しだけ顔を赤らめている。


 その日の帰り道、由紀が言った。


 「ねえ、明日はもっと美味しいもの、見つけられるかな?」


 タカシが空を見上げながら呟いた。


 「きっと、見つけられるさ。俺たち、給食当番だもんな。」


 僕は二人の言葉に頷いた。占領下の厳しい日々は続く。けれど、僕たちは給食当番として、明日もきっと、子供たちのお腹を満たすために、力を合わせるだろう。




 そして、その日々の営みが、少しずつ、僕たちを強く、大きくしていくのだと、漠然と感じていた。希望という名の、温かい給食を心に抱きながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ