NO1:ジャングルの鉄と飯
灼熱のジャングル。湿気と虫の羽音がまとわりつく密林の奥で、重装機(AT)「ハウンド」のコックピットから、男が降りてきた。
ヘルメットを脱ぐと、汗で張り付いた黒髪が額に落ちる。
名前はダルク。傭兵稼業のAT乗りだ。
「くそっ、こんなとこで任務かよ…」
ダルクは毒づきながら、背囊から携帯食の銀色パックを取り出す。
相棒のAT「ハウンド」は、苔むした岩に凭れ、ジャングルの緑に半ば溶け込むように静止している。
装甲の隙間から蒸気が漏れ、戦闘の余韻を漂わせる。
「おい、ダルク! まだ食ってねえのか?」
木々の間から、もう一台のAT「ブルータル」が現れる。
操縦者のリサは、赤い髪をポニーテールに束ね、軽やかな足取りで近づいてくる。
彼女のATは、右腕のチェーンガンがまだ熱を帯び、かすかに煙を吐いている。
「戦闘終わったばっかだろ。焦るなよ、リサ」
ダルクは地面に腰を下ろし、パックの封を歯で破る。中身は合成タンパクのペースト。
見た目は泥だが、栄養価は高い。匂いは…まあ、慣れる。
「焦るわよ! 腹減ってイライラしてんだから!」
リサは自分の背囊を放り投げ、携帯コンロを広げる。
「お前、こんなジャングルでペーストだけとか、味気ねえだろ? ほら、持ってきた!」
彼女が取り出したのは、真空パックの乾燥野菜と、怪しげな茶色のスパイス瓶。
ダルクは眉をひそめる。
「それ、例の『地獄の調味料』だろ? 前回、俺の舌が三日間死んだぞ」
「文句言うな! 食わなきゃ戦えねえよ!」
リサはコンロに水を注ぎ、野菜を放り込む。スパイスの蓋を開けると、鼻を刺す刺激臭がジャングルの湿気と混ざり合う。
ダルクは鼻を押さえるが、ふと目を細める。
「お前、ほんと…戦場でこんなことやる気力あるよな」
「当たり前じゃん。生きて帰るには、腹が命を繋ぐんだよ」
リサはスプーンで鍋をかき混ぜ、湯気が立ち上る。彼女の声には、どこか懐かしさが滲む。
「昔、故郷の森で、婆ちゃんとこんなスープ作ったんだ。スパイス効かせてさ。…あの味、こんな戦場でも、ちょっとだけ思い出せるのよ」
ダルクは黙って見つめる。リサの横顔は、戦闘中の鋭い目つきとは別人だ。
彼女が差し出したスープは、見た目は地獄だが、ひと口飲むと、確かにスパイスの奥に温かみが広がる。
「…悪くねえな」
彼は呟く。
突然、ジャングルの奥から低重い振動。敵ATの接近音だ。
「ちっ!」
二人は同時に立ち上がる。ダルクはスープを一気に飲み干し、ヘルメットをかぶる。
リサはコンロを蹴り倒し、ブルータルのコックピットへ飛び込む。
「「行くぜ!」」
ハウンドの装甲が唸り。ハウンドのガトリングが回転を始める。ジャングルの木々を薙ぎ倒し、ブルータルがチェーンガンを構える。
ダルクのハウンドは、肩のミサイルランチャーを展開し、照準を敵の影にロックオン。
「リサ、左から来る! 俺が引きつける!」
「了解! ぶっ放すぜ!」
爆音と火花がジャングルを切り裂く。ハウンドは木々の間を滑るように移動、敵のレーザーを躱し、ミサイルを叩き込む。
ブルータルのチェーンガンが咆哮し、敵ATの装甲を蜂の巣に変える。
戦闘は15分で終わった。敵のATは黒煙を上げ、ジャングルの地面に沈む。
「…終わったか」
ダルクはコックピットから降り、息をつく。リサが笑いながら近づいてくる。
「お前、さっきのハウンドの動きカッコいいじゃん! やっぱ腹満たすと違うね!」
「うるせえよ…」
ダルクは笑みをこぼし、背囊から新しいペーストパックを取り出す。
「もう一食、食うか?」
リサがニヤリと笑う。
「次は私のスープ、もっとスパイス効かせるけど、いい??」
ジャングルの奥で、二人の笑い声が響く。鉄の巨獣が見守る中、戦士たちは次の戦いに備え、腹を満たす。