表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

黒幕現る、アグロス財団

王都・財務街。その中心に構える白亜の邸宅――それが、巨大ギルド《アグロス財団》の本拠である。


その会議室で、一人の老商人が報告書を静かに置いた。


「《カラス商会》、最新四半期で三割以上の成長率。物流拠点は北部三都市、さらに今月中に王都支部も設立予定です」


部屋の空気がピリ、と張りつめた。


「……また出てきたか革命屋が」


椅子の主が、低く唸った。


深紅のターバンを巻き、目を細めた中年男――ザカリー。


アグロス財団の実質的な総帥である。


「商人のくせに、理想を語りやがる。あんな若造一人に、既存の市場秩序を揺るがされてたまるか」


報告書には、こうも記されていた。


――教育制度の導入により、自律型人材の輩出を開始。


――空間魔法物流の実用化に成功。転送費は当社比六割。


――信用を軸にした分散型販売網の構築中。


ザカリーは舌打ちした。


「……あれは、危険すぎる。自由市場なんて言葉に惑わされた庶民が、誰でも起業できる時代が来たらどうなる?」


「貴族の投資が逃げますな。税制も形骸化するでしょう」


「我々が築いてきた信用の壁が崩れちまう」


その通り。


アグロス財団の強みは、金の力ではない。


既得権そのものだった。


巨大な資金力で市場をコントロールし、起業の芽を潰し、金融と物流を独占することで、表も裏も握ってきた。


それが今――一介の転生者によって、根本から揺らいでいる。


「そろそろ、手段を選ばない方がいいかもしれませんね、総帥」


横に立つ男が、口の端を歪めて笑った。


「……動かせ、ルードを」


ザカリーは短く命じた。


「財務庁の承認なしでは、奴の紙幣計画も物流拠点拡大もできやしない。市場から追い出せ」




そのころ、カラス商会・王都支部。


「……またか」


セイジが眉をしかめる。


昨日まで確定していたはずの納品契約が、次々と一方的に破棄されていた。


「しかも全部、アグロス財団と取引がある商会です」


ミリアが帳簿を手に報告する。


「裏で手を回されてるな。契約不履行でも訴えられないように、条件変更による再交渉という形を取ってやがる」


カルロの口調も険しい。


さらに、地方の支店から次々と異変の知らせが届いていた。


「転送拠点の魔力供給が止まりました。地元の魔法師ギルドが突然、契約を解除したと……」


「王都からの卸売業者が入荷価格を倍にしてきたわ!」


「在庫の買い占めが始まってる……! 村の市場が品薄で、苦情が……!」


それはまるで、見えない大洪水が襲ってきたかのようだった。


「これは――経済封鎖だな」


セイジは静かに断言した。





<逆転の鍵は「価値の源泉」>



商会の会議室で、セイジはいつになく重い表情で言った。


「俺たちは、便利な商会になりすぎた」


「……どういうことだ?」


バルトが眉をひそめる。


「取引先の商会も、卸業者も、すべて、上の意向で動く連中ばかりだ。今の俺たちは、彼らに依存してる……つまり、選ばれる立場ってことだ」


だが、それでは勝てない。


相手は、すべてを買える巨大財団だ。


「逆に問おう。俺たちが、相手に選ばせない立場になるにはどうする?」


「……まさか、自前で全部?」


ミリアが呟くと、セイジはうなずいた。


「そう。物流、仕入れ、販売、決済、すべて《カラス商会》の内部で完結する経済圏。商会ではなく国家として振る舞う」


「無理だよ! そんな巨大な投資、財団でもなきゃ……!」


「やるさ。鍵は――価値の創出だ」


セイジが手にしたのは、一枚の紙幣。


《カラス通貨》試作品だ。


「信用を数値化し、流通する信頼にする。通貨の発行権を握れば、経済圏の主導権はこっちのものだ」


その瞬間、空気が変わった。


「これは……経済戦争だ」


カルロがそう呟いたとき、セイジの目には、確固たる光が宿っていた。





<裏で嗤う影>



「ふふ……ようやく動いたな、小さき革命者」


別の部屋。影の中で、黒ずくめの女が笑う。


「通貨か……おもしろい。もしそれが破綻したとき、どれだけの命が路頭に迷うのか、わかってるのかしら?」


その女の名は――ヴィスカ。


闇ギルド《影の商会》の女主人であり、情報と裏取引を牛耳る、もう一人の支配者だった。


「でも……私、そういう危うい綱渡りが、大好きなの」


彼女はその唇に、血のように紅い笑みを浮かべるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ