商戦開始!初の見本市へ
「それじゃあ、行くか――《見本市》へ」
セイジの一言で、《カラス商会》の運命が動き出した。
場所は、王都と地方を結ぶ交易都市。年に二度開かれる見本市は、あらゆる商会・ギルド・職人たちが自慢の商品を持ち寄り、バイヤーや王国関係者との契約を狙う、まさに戦場だった。
かつて《カラス商会》がその場に出たことは一度もない。なにせ倒産寸前の弱小商会だったからだ。
だが今は違う。商品は揃い、仲間がいる。そして――他にはない武器があった。
<商戦の幕開け>
「おい、あの商会見たことあるか?」
「いや、聞いたこともないな。《カラス商会》? 新興か?」
見本市の会場に《カラス商会》の名前が掲げられると、周囲の商人たちは半信半疑の目を向けた。中には露骨に笑う者すらいる。
「高栄養保存食? 何それ、旅人向けか?」
「ワイバーン輸送便と提携済みだと? はったりじゃねえのか?」
セイジはそのざわめきを冷静に受け流した。ラノベ主人公らしく――いや、経営者として当然の顔で。
「最初は無名から始まる。だが、実力は数字が証明する」
ミリアとフィナが、それぞれ試食品と販促資料を手際よく来客に配っていく。
「こちらが栄養価と保存期間のデータです! 冒険者ギルドでの実績も記載済みです!」
「実際に食べてみてください! 今朝できたばかりですよっ」
若干張り切りすぎてるフィナを横目に、カルロは淡々と在庫管理と価格設定の調整を進める。
「……よし、原価率は維持できてるな。値下げ交渉に備えてマージンも確保済み」
彼の計算とセイジの価格戦略は、すでに顧客層の分布まで読んでいた。
「安ければ売れるってわけじゃない。価格と信用は対で価値になるんだ」
セイジが狙ったのは、割安感ではなく納得感。
高品質・中価格――だが、確かな実績が裏付ける「安心」が、少しずつだがバイヤーたちの心を動かしていった。
<交渉と情報戦>
「卸価格をもう一段階下げられないか? 王都の商人組合に持っていきたいんだが」
中堅商会の代表が、セイジに声をかけてきた。大口取引のチャンスだが、安請け合いは命取りにもなる。
「条件があります。独占販売にはしません。代わりに、流通先の報告と、宣伝協力をお願いします」
「……なるほど、そっちも拡散を狙ってるのか」
セイジは頷く。
「取引は等価。あなた方の販路と信頼を、こちらの商品と交換しましょう」
一瞬の沈黙の後、男は笑った。
「面白ぇ。交渉相手が、ただの若造じゃなくて良かったぜ」
契約成立。これが皮切りとなり、他の商会からも次々と商談の申し込みが舞い込む。
――だが。
「……不自然に、来客が減ってきた?」
バルトが警戒の目を光らせる。
セイジもすぐに察した。
「誰かが動いたな」
予想通り、近隣の大手商会が裏で流した偽情報――
「《カラス商会》の保存食は保存料に毒草を混ぜてるらしい」
「物流ルートが危ういらしい。ワイバーン便は破綻寸前って噂も」
あからさまな妨害だった。
セイジはすぐに動いた。
「カルロ、証拠付きの物流証明とギルド推薦状を会場内に配布。ミリア、冒険者ギルドの代表を呼んでくれ」
そして、会場中央で公開実演を開始した。
「こちら、冒険者ギルドCランクチームによる、実食レビューです!」
「俺らが、3週間毎日食ってるが、腹壊したことなんざ一度もねぇ! 味も、飽きねぇ!」
ガルドたちが朗々と語ると、場の空気が一変する。
沈黙していた商人たちが、一斉に動き出した。
「やっぱりあの噂、デマだったか!」
「信用できるな、あの冒険者が言うなら!」
《カラス商会》のブースには再び人の波が押し寄せた。
<初の黒字、そして敵の顔>
見本市終了時、商会の帳簿は黒字で埋まっていた。
「これが、市場で勝つってことか……!」
フィナが興奮した声を上げる。
「まだ一戦交えただけだよ」
セイジは静かに呟く。
だがその裏で、別の戦場が始まりつつあった。
「……面白いガキが出てきたな。あの見本市、全部買い占める予定だったのに」
とある屋敷の奥、ザカリーはワイングラスを傾けながら呟いた。
「次は、数字ではなく信用そのものを破壊する。こちらも、手駒を出すとしよう」
そして、動き出す裏の商人たち――
セイジが気づかぬうちに、裏切りの種が、既に蒔かれていた。