冒険者ギルドとの提携
「冒険者ギルドか……手強い相手になりそうだな」
セイジは、街の中心に構える冒険者ギルド本部の建物を見上げながら呟いた。木と石で組まれた頑丈な建築。武装した冒険者たちがひっきりなしに出入りしている。
目的はただ一つ――彼らの信頼を勝ち取ること。
冒険者は常に危険と隣り合わせ。彼らにとって、食料、装備、回復薬といった消耗品の質は、生死を分ける要素でもある。ならば、セイジたちの新商品がその命を救う可能性を示せば――信用は得られる。
<冒険者ギルド・窓口交渉>
ギルドの受付には、切れ長の目を持つクールな女性職員が立っていた。
「……カラス商会? 聞いたことないですね」
淡々とした口調の中に、微かな警戒がにじむ。
「信用を得たい。それには試してもらうしかない。こちらが試供品です」
セイジは、ネリムキノコの保存食、携帯用回復飲料《ミリア特製》、疲労回復キャンディなどを並べて見せた。
「……これは?」
「冒険中でも片手で摂取できる高栄養食品だ。保存期間は二週間。味は保証する」
受付嬢はちらりとそれらを見やり、奥に引っ込んだ。しばらくして、筋骨隆々の男が現れる。
「俺が試してやるよ、新入りの商会さんよ」
現れたのは、Cランク冒険者チームのリーダー、ガルド。ギルド内でも名の知れた実力者らしい。
「代わりに、うまくなかったら全部捨ててやるからな?」
「どうぞ。その判断に異論はありません」
セイジは一歩も引かない。逆に、ガルドの眉がわずかに動いた。
「面白ぇ。じゃあ試してやる」
<実地テストと口コミの力>
三日後。
ギルド内の空気が変わっていた。
「あの携帯食、マジで腹持ちがいいんだよ!」
「疲労回復キャンディ、マジで目が冴える。あれ何入ってんの?」
冒険者たちの間で、カラス商会の名前が急速に広がっていた。
情報源はもちろん――
「ガルドさんが認めたら、そりゃ本物だろ」
彼らにとって、仲間の声は金貨百枚分の価値を持つ。高価な宣伝よりも、確かな体験と実績が信頼を呼ぶ世界だ。
ギルドの掲示板には《カラス商会の物資、受付にて販売中》の張り紙が貼られ、販売希望者の列ができるまでになっていた。
「すごい……一気に来たわね」
フィナは目を輝かせる。だが、セイジは冷静だった。
「今が勝負だ。供給が追いつかなければ、信用はすぐに崩れる」
「任せて!」とミリアが手を挙げる。
「保存処理も大量生産用に改良済み。素材の調達だけ安定させれば、問題ないわ」
バルトも笑う。
「その調達なら、俺がなんとかしよう。山の連中とは顔なじみだからな」
全員が動き始めた。《商会》が初めて組織として機能し始めた瞬間だった。
<契約という信頼>
数日後、冒険者ギルドとの正式契約が締結された。
「ギルドとして、今後《カラス商会》の物資を優先的に購入する。品質に信頼を置くと判断した」
ギルド長老の一人が、そう宣言する。
「ただし条件がある。価格は冒険者の負担にならないことだ」
「ええ、価格は品質とのバランスです。私たちは、命を救う商品を売っているつもりですので」
誠司はそう答えた。
ガルドが小声で笑う。
「まったく、商人ってのは口がうまいぜ」
だが、その眼差しには、既に敬意の色があった。
<信用が、価値を生む>
「冒険者ギルドとの提携が決まった今、次は都市部への販路拡大です」
セイジは皆を前に宣言する。
「……あれ? ちょっと前まで倒産寸前だったのに」
フィナが小声でつぶやく。だが誰もが実感していた。
この商会には、確かに「未来」があると。
商品、物流、人材、信頼――すべてのピースが一つずつ埋まり始めていた。
だが、遠くの市場では、巨大な影がその動きを見つめていた。
「民間主導経済だと? 小賢しいマネを……潰すまでだ」
アグロス財団のザカリーが、冷たい笑みを浮かべながら呟いた。