市場調査と特産品発掘
「今の売上だけじゃ、ジリ貧ですね。もっと売れるもの、見つけません?」
フィナ・レーンベルの指摘は、誠司にとっても痛いところだった。
《カラス商会》の再建は始まったばかり。初期の資金繰りはうまくいったものの、現在の主力商品は在庫限り。継続的に利益を生み出す商品が必要だ。
「……だから、市場調査に出る。潜在的な資源は、まだこの地域に埋もれてるはずだ」
誠司は早速、街の外に目を向けた。かつて商社で培った“現地調査の感覚”が疼く。未知の地域にこそ、商機はある。
< 山と湿地帯と、キノコの村>
バルトの案内で、商会の馬車は山岳地帯の小さな集落へと向かった。そこで目にしたのは、原色のキノコを背負う老人たち。
「この辺りじゃ、ネリムキノコが採れるんだ。栄養価は高いが、日持ちしないから市場に出回らない」
誠司はすぐに試食し、成分をミリアに調べさせた。結果は驚きだった。
「たんぱく質とミネラルが豊富。それに、成分の一部が疲労回復効果も……すごいわ」
だが課題もある。保存性が低く、運搬中に傷みやすいのだ。
「保存食として加工できれば、冒険者や軍にも売れるな」
誠司の提案に、ミリアが微笑む。
「私に任せて。凍結乾燥と魔導保存の併用、試してみるわ」
後日、試作品は驚くほどの出来で、試食したフィナが唸る。
「こっ、これ……売れるどころじゃない! 戦えるわ!」
「食べ物で戦うな」とツッコミつつも、誠司はこれを新たな主力商品に据えることを即決した。
< 魔石の副産物──知られざる資源>
調査は続く。今度は旧鉱山跡を訪れた。
この地ではかつて魔石が採掘されていたが、魔力濃度が下がり、放棄されたという。
「……ここ、魔力は落ちたが、副産物のクレスト灰が出てるらしい」
バルトの情報に、誠司は目を輝かせる。これは、都市部で魔導農業の土壌強化剤として注目されつつある素材だった。
「現地ではただのゴミ扱いか……」
それを聞いたカルロが驚愕する。
「それ、王都じゃ一袋50リルで取引されてますぞ!」
「輸送と保管を工夫すれば、ビジネスになるな」
誠司は物流経路の再確認と、価格設定を始めた。
「灰を灰として扱うか、肥料としてブランド化するかで、値段は10倍違う――売り方が勝負だ」
すぐにフィナと共にパンフレットを作成し、精製魔導灰として売り出す準備を進めた。
<商売は「発見」から始まる>
戻った商会では、カルロが嬉々として報告してくる。
「ネリムキノコ保存食、初回分完売ですぞ!」
「灰も、試験販売分が数日で……想像以上の反響だ」
「セイジ殿の眼力、やっぱ本物っすね!」
バルトが豪快に笑いながら肩を叩く。
「俺の仕事は目利きじゃない。情報と分析と、少しの嗅覚だけさ」
誠司は謙遜しつつも、次なるステージへ意識を向けていた。
まだまだ商会の規模は小さく、販路も限られている。だが、商品が生まれた以上、次に必要なのは「信頼」だ。
「冒険者ギルドと組もう。実地テストと販促のために」
「また大胆なことを……でも、面白そうね」
ミリアが目を輝かせ、フィナが大きく頷く。
「交渉は任せて、ギルドの連中を口説き落とすわ!」
こうして、《カラス商会》は次なる展開へ――信頼の獲得、そして冒険者との提携へと進んでいく。
この世界の経済を変える第一歩が、確かに踏み出されたのだった。