経済連盟と商業国家の誕生
王都セイラン、王城の謁見の間――
セシリア王女は玉座の上から一枚の文書をじっと見下ろしていた。
「……《自治特区申請書》 これが、あなたの出した答えなのですね」
王女の視線をまっすぐ受け止めるのは、カラス商会代表・城崎誠司。
「はい。この市場とギルドの集合体は、もはや王国法の枠内に収まりません。正式に《経済連盟》としての自治権を――」
「まるで、もうひとつの国家のようですわ」
「そのとおりです。武力によらない新しい国を、私はここに築きます」
<「商業国家」の理念>
経済連盟――それは、セイジが中心となり組織された王都圏のギルド・商会の合同体だった。
資本・人材・物流を共有し、通貨「カラス券」の信用を軸に結束。
各ギルドは自治を保ちつつ、共通の「商業憲章」によって秩序を形成する。
「国家が通貨を発行する時代は終わった。これからは《市場》がそれを担う」
セイジの提唱したこの構想は、理想論でありながら現実的でもあった。
<貴族たちの反発>
「ふざけた話だ!」
「ただの商人風情が、王国から独立しようというのか!」
王国上層部は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
王国財務庁長官ルード大臣は真っ赤な顔で叫ぶ。
「もし認めれば、通貨制度が崩壊するぞ! 王国の威信に関わる!」
だが、王女セシリアは静かに口を開いた。
「その威信とやらは、何をもたらしたのです? インフレ、飢え、特権の独占……この連盟が、王都を回復させました」
「私には見えるのです。これは反乱ではありません。未来です」
<影で蠢く者>
一方――王都の影。
「面白くなってきたなぁ……」
影商会の長は、闇の会議室で舌なめずりをした。
「合法の皮をかぶった革命か……セイジ、お前が作ったこの国が、ほんとうに、秩序で保たれるのか。見ものだぜ」
そしてレメル――農業ギルド長もまた、その動きを注視していた。
「……本当に独立を果たせるのか、誠司。だが、王国という檻から脱する機会なら、私も見逃すつもりはない」
セイジの掲げた理念は、味方だけでなく、多くの野心をも刺激していた。
<商業憲章の発表>
数日後――王都中央広場に集まった数千の市民と商人たち。
「本日をもって、王都市場は《エコノミア商業連盟》としての自治を宣言する!」
セイジが掲げたのは《商業憲章》
自由交易の原則
カラス券による信用制度
統一物流網の構築
商会間仲裁機関の設置
貧困層への雇用優遇策
「これは、《力なき者》が《富》を手に入れるための法だ!」
割れんばかりの歓声が上がる。
それは剣でも魔法でもない、法と契約に支えられた宣戦布告だった。
<王女の選択>
その夜。
王女セシリアは、城のバルコニーから静かに王都を見下ろしていた。
「彼はこの国を壊したのではなく、解き放ったのですね」
侍女の声に、王女は微笑む。
「国とは何か、支配とは何か。彼は問い続けている。ならば私は、その問いに答える側でありたいのです」
王国法に則り、セイジの《経済連盟》は、王国の中の自治国として、正式に承認されることになった。
それは、王国が力ではなく信用に、一票を投じた瞬間だった。
<商業国家、始動>
カラス商会本部――
「代表、交易税率の再調整案です!」
「新規加盟ギルドの審査通過は十六件。物流網の拡張が急務です!」
「次のステップは……他国との貿易ですよね?」
部屋は喧噪と活気に満ちている。
セイジはそれらを一つひとつ捌きながら、ふと遠くを見た。
「そうだ。次は……この信用国家を、異世界全土へ拡げる」
武器も魔法もない、新たな覇権の形。
「経済で世界を変えるんだ」
その言葉に、ミリア、バルト、フィナ、カルロ――仲間たちは無言でうなずいた。




