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市場戦争、最終ラウンド

王都中央市場――かつて、黄金の心臓と呼ばれたこの地が、いまや嵐の渦中にある。


「アグロス財団が、大規模な価格破壊を始めました!」


フィナが血相を変えて駆け込んでくる。


「主要商品、全て原価割れ。鉄、麦、塩、薬草……カラス券で仕入れた商人たちが、どんどん赤字に!」


「ついに来たか。連中の最終手段」


セイジは地図に目を落とす。主要市場には真紅の印――価格崩壊が始まったエリアが増え続けている。


「これは、価格競争じゃない。市場の破壊そのものだ」





<財団の意図>



アグロス財団の執務室。


「値段がなくなれば、取引は成立しない。つまり、市場そのものが止まる」


ザカリーは杯を傾けながら、ゆっくりと語った。


「そして、奴の紙幣も終わりだ。商品と交換できるという前提が崩れれば、ただの紙切れになる」


「通貨の信用は市場に依存する。ならば、市場を潰せばいい」


冷酷にして合理的な判断――これが、アグロス財団の剣だった。





<セイジの反撃>



カラス商会作戦室。


「――需要を操作する」


セイジの一言に、仲間たちは一瞬沈黙した。


「物の価値は、どれだけ欲しい人がいるかで決まる。価格競争じゃなく、欲望の調整で勝負する」


バルトが唸るように呟いた。


「……つまり、売らない?」


「逆だ。今売ってるモノとは違うものを売る」


セイジはニヤリと笑った。


「限定流通、予約販売、体験型市場……人の心理に火をつける仕掛けを打つ。これが、商戦の最後の奥義」





<三つの戦術>



・ 幻の商品戦術

 魔法印刷で作られた「次回入荷予定の幻の商品リスト」を市場に流す。希少性と期待感で人の心を煽り、買い控えを誘発。


・購買優先券導入

 カラス券でしか手に入らない「優先購入権」を配布。紙を持つことが特権になるように誘導。


・体験型市場展開

 農業ギルドと連携し、試食会・収穫体験・薬草調合のワークショップを無料開催。モノより体験を商品化。





<市場の変化>



三日後。王都市場の空気が変わった。


「なんだよあれ、行列か?」


「収穫祭? あの券があれば中に入れるって……カラス券、持ってたっけな……」


「次の幻の酒は一ヶ月後入荷? まじかよ……今のうちに券で予約しておこう」


情報が噂を呼び、噂が群衆を動かし、群衆が価値を作る。


価格ではない。話題こそが最大の資本だった。





<王都評議会の動揺>



「なぜだ……価格は破壊しているはずなのに、なぜ通貨の流通が止まらん!?」


ルード大臣が怒号を飛ばす。


だが、評議員たちの顔には不安が浮かんでいた。


「……噂です。市場でカラス券を持っていないと不利だという空気が出来ている」


「事実、王都の市民の7割がこの通貨を手にしています。信用は崩れていません」


ルードが唇を噛む。


「まさか、通貨の価値が……金ではなく、人の行動で決まるなどと……」


ザカリーの手が止まる。


その背中に、はじめて焦りがにじんだ。





<セイジ、王都中央市場に立つ>



その日、セイジは自ら市場の中心に現れた。


「カラス商会代表、城崎誠司よりご案内します!」


声が響く。


「本日より、王都市場は《信用共通組合》の加盟申請を受け付けます!」


「参加商会は、カラス券の信用保証を受け、共同流通・商品融資の優先枠が得られる!」


「これは、通貨ではなく市場そのもののネットワーク化だ!」


一瞬、沈黙。


だが――次の瞬間、市場がざわめいた。


「……つまり、商会連合の中央銀行ってことか!?」


「王都が、ひとつの《経済連盟》になる……?」





<終幕へ>



その夜。


セイジは月明かりの中、屋上から王都を見下ろしていた。


「価格破壊、物流封鎖、金融攻撃――全部受けて、全部返した」


「次は、こちらの番だな」


王都に灯る無数の明かり――それは、旧時代の終わりを告げる炎。


その中心に立つのは、剣でも魔法でもない、ただの商人。


だが彼は、新時代の王として人々に選ばれようとしていた。


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