二年前、出会い
午後二時。黎人はとある公園に来ていた。理由はそこが待ち合わせ場所だったからだ。
一昨日のことだ。黎人は所属する組織のボスから、メールを受け取った。そこには今後の仕事仲間と顔合わせをするよう書かれていた。そして、ボスが指定した待ち合わせ場所はこの公園だった。
待ち合わせの場所を、当人どうしで決めるのではなく、当日出席しない第三者が決めるというのは世間一般的にみるとおかしな話だ。
しかし、黎人にとってはこれが普通だった。大抵のことはボスが決め、黎人のような下っ端がその指示に従う。仕事を始めて五年間、その仕様に変化はなかった。
待ち合わせというからには、もちろん相手がいる。しかし、まだ来ていないようだった。黎人は公園の入り口前に立ったまま、道行く人々を眺めていた。
人が多いな、と思った。たまたま人が多い時間帯なのか、それとも最近問題になっている人口爆発のせいなのか、考えても分からないことを、ぼうっと考えていた。
そんな大勢の人たちの顔には、どこか陰りがあった。瞳の奥を暗闇に染め、背中を丸めて歩く姿には、まるで生気が感じられなかった。その理由については、黎人も何となく理解できた。
そんな中、明確にこちらに向かってくる人の姿が見えた。その人物は、黎人の傍まで歩み寄ると、足を止めた。
「樽老黎人さん、ですか?」
声の主は、女性というより女の子と呼ぶのが正しいと思わされる子だった。
少し青みがかった長髪を三つ編みにして、肩にかけていた。彼女が身に着けたワンピースが、彼女の少女性を助長させている。
一目見て、この仕事には向いてないだろうな、と黎人は思った。しかしそれを口にしては失礼にあたるので、胸の内に留めておいた。
「陸奥柊花さんだね?」
余計な思考を掻き消すため、分かり切った質問をした。
すると柊花は頷いた。