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第4話 騎士という人間

 ヒト族——それは、一世紀程前にここ地球へやって来た者達の総称だと言われている。その者達は、端正な顔立ちと紅の瞳、そして優れた身体能力が特徴的である。

 未だ解明されていない部分はあるが、大雑把に言うとこんな感じだろう。

 かく言う僕、リュー・ソウリンもその一人だ。

 日本一のシュヴァリエと囃し立てられてはいるが、正確にはA級の僕よりも上——表に出て活動はしていないようだが、S級の者が本部長を務めている。その他にも現在は日本にいないようだが幾人かS級が存在すると聞く。つまり、僕が頂点なのではないということだ。

 例えそうだったとしても、この小さな手で拾えるものはどれだけあるのだろうか。

 この二本の神器で倒せる魔獣は、どれだけいるのだろうか。


 ・ ・ ・


 カーテンが風に揺られ、部屋に落ちる影が軽快に踊る。その隙間からは時折り、朱色の暖かな光が入る。

 小さな四人部屋の病室。そこのベッドでは、シュヴァリエである春香と真白、そして一般人の二人が眠っていた。

 春香と真白の二人は、カーテンで周囲からの視界を遮断しており、残り二人からは見舞いに来たソウリンの姿しか確認出来ない状態となっている。

 彼がパイプ椅子に腰掛け、姿勢良く読書を始めてから数時間が経とうとする頃。


「——お兄さんや」


 目を覚ました老翁が声をかけた。彼は温かな表情のまま、ゆっくりと続ける。


「その腰のと背中の……お兄さんはシュヴァリエなんだろう?テレビで観たことあるよ。うちの孫がお兄さんのファンでねぇ。いつも闘ってくれて、わしらを守ってくれてありがとうねぇ」


 ソウリンは読みかけのページにしおりを挟み、本を閉じる。


「…………。いえ、僕はただ、出来ることをやっているだけですよ。だから、出来ないこともあります。…むしろ、そちらの方が多いかもしれませんね」

「それでも、きみは闘っているじゃないか。——覚えていないかも知れないけど、うちの家内がきみに一度助けられたことがあってね。深く感謝していたよ」

「そう、でしたか」

「ただ、あれからテレビやネットできみを見かける度に大喜びしていて、旦那としては嫉妬してしまいそうなんだけどね…」


 老翁は恥ずかしそうに頬を掻いた。

 そんな姿を見て、ソウリンはくすりと笑う。


「仲が良いのですね」

「そうだね。自慢ではないけれども、かなり仲の良い夫婦だと自負しているよ。そう思えるのも、家内を救ってくれたきみのお陰だよ。ありがとう」


 彼の言った通り、ソウリンはそれがいつの日のことで、誰のことかは思い出せそうになかったが、それでも確かに救ったものがあったのだと自覚する。

 すると、春香が目を覚まして「うぅ…っ」と呻き声を上げた。


「橘くん、大丈夫かい。僕のことが分かるか?」


 ぼやけていた視界が次第に鮮明になり、ソウリンの顔を映す。


「えっと……リュー・ソウリンさん?どうしてあなたが…」

「きみ達を見つけたのが僕だったんだ。すまない、到着が遅くなってしまって」

「気にしないでください。俺は何ともありませんから。……真白は!?真白はどこですか!?」


 春香は腹の痛みを忘れ、勢い良く上半身を起こした。


「大丈夫。彼女なら隣で眠っているよ」


 言われた通り、隣のベッドに目をやるとそこに見知った顔があり、胸のつっかえが取れた感覚を覚えた。

 よく見ると、自分とは違って点滴をしていたり、あちこちに包帯が巻かれていることに気付くが、それでも生きているのだと安堵する。


「良かった…()()()()()のか…」


 不意に漏れた言葉。

 それを聞き、ソウリンは勢い良く視線を春香の方へ戻した。


(助けられた…?もしかして、あのゴブリンロードは彼が討伐したと言うのか?)


 B級パーティに所属する『無能の荷物持ち』が、個人の階級は非公開で、神器も与えられていないということは、周知の事実だった。

 そんな彼が戦闘に参加し、初めて地球に送られてきた個体——ゴブリンロードを退けたという事実が、どうしても飲み込めなかった。

 安堵の表情を浮かべる春香をじっと見つめ、顎に手をやる。


(大学内で検知された巨大なマナ反応。あれがもし、彼が初めて神器を起動させたことで発されたものだったとするのなら———)

「橘くん…っ!」

「あっ、はい」


 突然名前を呼ばれた彼は、ぴくりと背筋を伸ばした。しかし、しばらく黙り込むソウリンを不思議に思いながら「どうかしましたか?」と問う。

 

「——あ、いや、きみの退院は任意ということになっているようだから、それを伝えたくて。ご家族も心配しているだろう」

(一般人のいる場所で、踏み込んだ会話は避けるべきだ…)


 咄嗟に誤魔化した。

 しかし、彼の伝えた事実に「分かりました、ありがとうございます」と春香は礼を言う。

 魔族が地球に向けてゲートを開いてから、こちらへやって来たのは、下級の魔獣とされているゴブリンだけ——それでも対抗する術を持たない人間からすると、圧倒的な脅威であることには変わりないが——そんな中で新種が攻めて来たという情報を迂闊に口にすることは避けたかった。

 公開するのであれば、本部が適切だと考えた日時に、適切だと考える方法でされるべきであるとソウリンは判断したのだ。

 そんな時、彼のスマホが静かに震える。

 確認すると、画面には、猫のアイコンと平野玲子という名が表示されている。


「すまない、僕は少し席を外すよ。橘くんも、具合が良いようであれば帰宅してくれ。迎えが必要なら、本部に連絡すると良い」

「分かりました。あの、今日はありがとうございました」


 その返事を最後まで聞くことはなく、ソウリンは普段よりも少し大きな歩幅で病室を後にした。

 電話の出来る場所まで行くと、彼は着信ボタンを押す。


「リューです」

『あぁ、ソウリンくん、今は電話しても大丈夫?』

「はい、構いませんよ」

『病院で別れた後、本部に戻ったんだけどさ——あの壊れてた神器、壊れてたらしいよ』

「——?いや、それは見たら分かると言うか……」

『んやー、そうじゃなかってね。あー何て説明したら良いのかなぁ。うちも詳しくは教えてもらえなかったんだけどね、ヤバい状態だったみたいなー?それで、神器に残ったデータから使用者を調べたんだけど、あの無能の荷物持ちって噂の子——橘春香くん?が起動してたっぽいんだよねぇ』


 この言葉を聞き、ゴブリンロードと闘っていたのが彼だという確信に近付く。


『そんでねぇ、出来ればその子を本部まで連れて来て欲しいんだけど、今———』


 最後まで聞くことはなく、電話を切る。

 小走りで向かう先は、先程までいた病室。何となく、急がなければならないという予感を胸に、すれ違う看護師達の制止も気にせず、ソウリンは進んだ。

 

「橘くん——!!」


 戻ってみると、そこには既に彼の姿はなかった。


「そこにいた男の子なら少し前に帰ったよ。妹さんが心配するから、ってねぇ。騎士とは言っても、皆んなと同じ『人間』なんだ。大切な人のところに帰らせてあげてくれないかい」


 老翁の言葉に、ソウリンは「そう、ですね…」と肩を落とした。

 一方その頃、突然電話を切られた玲子は、大きくため息を吐いて前髪を掻き上げた。


「まだ伝えないといけないことあったんだけどなぁ……。これ、大変なことになりそうだなぁ」


 そう言って眺めるスマホの画面には、SNSでの投稿を取り上げたネットニュースのページが表示されていた。

 その見出しには、世間を混乱させる様な文章『巨大なゴブリンが出現!?シュヴァリエ二名の悲惨な結末』と書かれている。

 そこには、一般人達の多数のコメントが寄せられていた。


「これってヤバくね?」

「ゴブリン見たことあるけど、こんなデカくないぞ」

「じゃあこいつ新種?w」

「この二人ってB級パーティの人達じゃね?」

「荷物持ちのいるところじゃん」

「俺たちの希望が……」

「日本ももう終わりなのか」

「しっかりしろよ、シュヴァリエなんだから」


 これらの発言とともに「そもそもヒト族が地球に来なければ…」とも書き込まれているのが視界に入り、玲子は画面を滑らせる指を止めた。


「…………。ま、お偉いさん達がどうにかしてくれるかなぁ」

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