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第15話 再会と、

 母さんと春音が会話を続ける中、桜井さんが


「ねぇ、ちょっと話があるんだけど、良いかしら」


と耳打ちして来た。

 そして病院の外に連れられ、ベンチに腰掛ける。

 ひと息吐いて心を落ち着かせていると、頬にぺとっ、と何か冷たい物が当たる。驚いて顔を上げると、隣で「どう?若い子には定番の流れでしょ」と揶揄って来た。

 その手に持っている水のペットボトルを受け取り、彼女も隣に腰掛けた。


「それで、話というのは……」

「まぁそう身構えないで。別に悪い話じゃないから。ただ、答えたくないものは、言わなくても良いわよ」

「はあ…」

「橘くんのお父さんってさ、どんな人だったの?」

「…あまり覚えていませんが、優しい人だったような気がします。悪いやつと闘って人を守る仕事をしてるんだって言ってましたけど、もしかしたらシュヴァリエのことを言っていたんですかね…」

「えっ、名前は!?」

「えっと…分かりません…。言われてみれば、一度も父の名前を聞いたことがないような…」

「そっかぁ…なるほどねぇ。……橘くんは、自分が実は人間じゃなかったって知ったら、どうする?」


 その質問で、多分だが俺は答えに辿り着いた気がした。


「…………父が、ヒト族だったんですか?」

「——鋭いわね。もしかして知ってたの?」

「まぁ、ついさっき知ったところですけどね」

「それって、誰かに教えてもらったの?」

「そんなところですね」


 そうやって曖昧に答えると、怪訝な顔をされてしまった。


「……。そう。でも知ってたのなら話は早いわね。…三年前まで、人間とヒト族の交際は禁止されていたの知ってるでしょ?それって、どんな危険があるか分からなかったからなのよ。今でも、一応ワクチンは必要なんだけど……あなたのお母さんの身体は、ヒト族との接触による負荷に耐えられなかったのよ」

「それって、母は大丈夫なんでしょうか…」

「今はもう身体のことは心配ないわよ。あと、法的にも大丈夫よ。禁止はされていたけれども、罰する法律は設けられてないから。極めて純度の高いマナを持った父親を持つ子ども……そりゃあ橘くんの神器との適合率も高い訳よねぇ。まぁ、それだけじゃ理由が足りないような部分があるんだけれども…………まだ、何か隠してるんでしょ?」


 そう言って、こちらを一瞥する。

 どこで察したのか。どこで気付かれたのか。分からないが、俺は素直に答えることにした。


「……向こうの——魔族の、王族の血を引いているらしいですよ」


 言い終えると、隣でコーヒーを飲んでいた桜井さんは、それを吹き出しかけて激しく咳をした。


「けほっ、けほっ…。それ本気で言ってるの?」

「はい。俺も聞いただけなんで、本当かどうかは知らないですけどね」

「さっきのことと言い、今回のことと言い、誰に聞いたのよ…。聞き流してあげるつもりだったけど、もう誤魔化せないわよ」


 流石に情報の出所が気になるよな…。

 小さくため息を吐き、周囲に人がいないことを確認すると、


「———来い」

『お呼びでしょうか』


ハイデルを喚んだ。

 その姿を見て、とうとう桜井さんはコーヒーを勢い良く吹き出してしまう。


「ちょっと!?どういうことなのよこれ!!」

「闘った魔獣が俺の家臣になったんですよ」

「はあ!?そんなゲームみたいなことある訳ないでしょう!?」

『驚かせてしまって申し訳ない。私を縛る肉体から解放され、この魂、今はハイデルとして、王である春香殿とともに在ります』

「……はぁ…。急にそんなこと言われてもねぇ…こっちは一応科学者なのよ。魂がどうって言われても、信じ難いところはあるけど……アタシがまだまだ未熟だったってことなのね…」


 そう言って受け入れ、前髪を掻き上げる。


「それで?橘くんのことはその魔獣…ハイデル?から聞いたのね?」

「そうですね。ヒト族の血が混ざってることも、魔族の王の血が混ざってることもこいつから聞きました」

「なるほどねぇ。橘くんのお母さんは純粋な人間だったから……お父さんの方が、魔族の王の血を引いてたってことね…。海外と日本のハーフってだけで持て囃されてたガキの頃が馬鹿らしく思えてくるわ」

「この王の血があるお陰で、こうやってハイデルを味方に出来たらしいです」

「何?じゃあ、その力で橘くんは軍隊でも作れるんじゃないの?」


 この問いに、ハイデルが代わりに答える。


『——ある程度の知能を持った魔獣でなければ、配下にすることは出来ません。魔獣のほとんどは知能が低く、どれも肉体の欲求のままにこの星へと侵略に来ているのです。例え知能があったとしても、先代の王を支持しているものでなければ、こうして仕えることはないでしょう』

「ふーん。魔獣達の中にもそういう精神があるのね…。ところで、橘くんはこの力のことは公開してるの?」

「いえ、人目につくところでは使わないようにしています」

「しばらくはその方が良いかもね。強すぎる力は、むしろ恐怖を生むわ。それも、敵を駒にしているなんてね———」

「はい。俺もそのつもりです」

「それなら良かったわ。ごめんね、大切な時なのに引き離しちゃって」

「いえ、母を救ってくれてありがとうございました」

「市民を助けるのがアタシ達の仕事でしょ?そんなに頭下げないで良いわよ。ま、これからいっぱい思い出が作れると良いわね」

「はい…!」

「それじゃあ、アタシは本部に戻るから。橘くんはしばらく安静にしてなさいよ」


 そう言い残して、彼女はその場を後にする。

 ひらひらと手を振るその後ろ姿に、俺はもう一度頭を下げた。


『王よ…彼女はいったい何者なのですか?』

「難しい発明してるすごい人だな」

『そうではありません。彼女からは、懐かしい匂い……魔族の匂いがしました』

「何言ってんだ。魔族だったら、敵対してる俺達のことなんて助ける訳ないだろ」

『確かに、貴方様の仰る通りですね』

「それじゃあ俺は部屋に戻るから、お前は一旦戻っておいてくれ」

『かしこまりました』

 

 そして俺は、春音達のいる病室へと戻るのだが、扉を開こうと手をかけた時———

 

「あれ、橘くんじゃない。ごめんねー、遅くなっちゃって」


本部に戻ると言っていた桜川さんに声をかけられた。

 遅くなったって…どういうことだ?


「えっと…本部に戻るんじゃなかったんですか?」

「今来たばかりなのよ?橘くんのお母さんともお話したいし、まだ帰らないわよ」

「いや、さっきまで俺と外で……」


 そう言えば、ハイデルが魔族の匂いがするって言ってたな——!

 すかさず距離を取り、


「来い!」


ハイデルを喚んだ。


「ハイデル!この人はどうだ———!!」

『……なるほど。ご安心ください、こちらの女性からは純粋な人間の匂いがします』

「ちょっとちょっと、急になによ。と言うか、そいつ何者なの!?」


 この人が人間……。そして、先の桜井さんが魔獣……。偽物がいるっていうことか…!?

 

「ちょっと、何か知らないけど落ち着きなさい。誰かに見られるとまずいから、隣のそいつも早く隠して!」


 桜井さんの言う通りにし、場所を移す。先程までいたベンチだ。

 そこで俺は、偽物の彼女のことやハイデルのことを説明した。


「——なるほどね。いろいろと言いたいことはあるけど、もう片方のアタシが代わりに言ってくれてるだろうし我慢しておくわ。にしても、このアタシの偽物ねぇ…。ただの熱烈なファンなら良いんだけれど、魔族の匂い…か…。あぁーもうっ、何か次から次へと変なのが来るわねぇ!良いわ、とりあえず部屋に戻りましょう。お母さん達からしたら、かなり長く外に出てることになってるでしょ?」

「そうですね」

「今回のことは後で考えるから、橘くんはせっかくの再会を楽しみなさい」


 そう言って、桜井さんは俺の背中をびしっと叩いた。




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