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アンティグア-グアテマラでのインタヴューと新たな目的

私事により投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

逃亡者から日本人の身分に戻ってグアテマラに入国した『私』はその後、ケツァルテナンゴから乗ってきた乗合自動車から下車して一人でアンティグア-グアテマラにいた。この日は南アメリカの旧大協商加盟国が中心となって結成した南アメリカ隣保同盟への加盟を祝うパレードが行なわれていた。


国土の半分にあたるロスアルトス地域を自由地区時代を経て隣国メキシコに奪われた一方で旧イギリス領ホンジュラス植民地を与えられた結果、グアテマラが何とも歪な国土を持つことになったのは1940年代のことだった。グアテマラはその後もほかの中南米各国と同じくアメリカ合衆国の影響下に置かれ続け、特に旧ユナイテッド-フルーツ社は隣国のホンジュラスなどと同じように国政に強い影響を与え続けていた。


その影響の下でグアテマラでは旧イギリス領出身者の優遇措置がとられるようになっていった。英語ができるからというのが主な理由だったが、旧敵国であったイギリス領出身者に対する優遇によるある種の分断策でもあった。もちろんこうした措置に対する反発はあったが背後にあるアメリカの力を恐れて大規模な抗議活動などは起こらなかったが、アメリカの影響力が弱まると一気に不満が爆発した。


グアテマラ、それにホンジュラスではクーデターによって時の政権が打倒されるとすぐに"国民化"政策が開始された。ともに差別や貧困に苦しんでいた先住民に対しての救済措置がとられたが、旧イギリス領出身者に対しては収容所への収容も含む厳しい同化措置が行なわれた。


それに対する周辺諸国の反応は様々だった。グアテマラやホンジュラスと同様の状況だったコスタリカでは両国に追従して"国民化"政策が開始され、一方でホンジュラスとの国境紛争を抱えていたエルサルバドルやニカラグア、コスタリカとの国境紛争を抱えていたパナマはそうした措置を非難し、比較的大きな国力を持つメキシコは新体制移行に伴う混乱期であったこともあり中立を貫いた。


旧イギリス領出身者たちは海外への亡命か、武力抵抗を行なうかという二択を強いられたが、前者についてはインド系に対しては南アジア連邦が積極的に受け入れの意思を示し、黒人系もリベリアが受け入れの意思を示した。何れも南アジアやアフリカでの地域大国であり、かつて世界中に拡散した"同胞"の庇護を一つのアイデンティティとしていた。また、白人系については宇宙進出と引き換えに年々、地球上での出来事に対して距離を置いている本国イギリスに代わって南アフリカが引き取った。


問題は後者だった。当初は早期に沈静化がなされるという見通しがあったが、先述の各国との対立に加えて近年ではメキシコとの間にも亡命者をめぐって対立が深まっていたことから、それらの支援を受けた抵抗運動は現在に至るも活発に活動しているのが現実だった。こうしたことから"国民化"政策を推し進める三国は南アメリカ隣保同盟への加盟を熱望していたが、加盟国内部での対立もあり認められてこなかったが、ハワイでの動乱後、アメリカによる中南米および南米への再進出が加速するのでは、という恐れから急遽加盟が認められたのだった。


列国議会同盟が改組された列国同盟評議会は緊張緩和を呼び掛けていたが、『私』の祖国(もっとも生まれたわけではないが)の大日本帝国をはじめとする東亜協同体加盟国は南アメリカ隣保同盟と共にアメリカに対抗することを表明し、対立はさらに深まる一方だった。


そうして、世界の混迷は深まってはいたが『私』個人としては幸運ともいえた。それまでよりも多くの人物がインタヴューに答えてくれたのだが、その理由は『私』が"大日本帝国の人間"だからだった。


その中の一人、休暇中だったグアテマラ司法警察ガルシア-モラ刑事へのインタヴューが『私』の旅にもう一つ目的を増やすことになった。以下はそれを記録したものになる。


では、モラ刑事、貴方の仕事について差し支えのない範囲でお教えください。


うーん、そうだな…現在は、違法薬物を追っている。


違法薬物ですか?


そうだ。かつては、まぁ、その言い辛いが違法薬物というのは極東を通じてアジアから流れてくる阿片だった。現在の極東地域臨時民主政府―あぁ、此の間断交したから"自称"極東地域臨時民主政府だな―が生まれる前にかつての極東社会主義共和国から分裂した軍閥が復興のためにアメリカに売りさばいていたし、生産地である清国や朝鮮からすればより極東なんかより大きな市場が手に入ったから、大喜びで作っていた。しかし、近年は少し変わってきた。


変わってきた…といいますと?


中毒者どもの御用達はいまや、阿片からチャットになりつつある。司法警察ではその根源を断つべく追っているが、どうにも尻尾が掴めない。敵対国であるニカラグアやパナマが流しているのか、あるいはメキシコの頭のおかしい無政府主義者か…


すみません、チャットとは何ですか?


あぁ、すまない。つい、わかっている前提で話してしまったな。チャットとはエチオピアが原産の植物で近東やアフリカでは現地人の間でよく"使われている"ものらしい。


エチオピアの植物ですか…正直、コーヒーぐらいしか浮かびませんでした。


だったらどんなに良かったことか。チャットの乱用や使用のための資金集めのための犯罪件数はじわじわとだが増え続けている…もっとも、コーヒーじゃ商売にならなかったかもしれないがな。


何故です?


我がグアテマラのコーヒーが世界一だからさ。


そう自信たっぷりに言う刑事の言葉に『私』は思わず吹き出してしまった。慌てて謝罪したが刑事は良いと言ってくれた上に『私』にコーヒーと軽食を奢ってくれさえもした。


コーヒーと軽食を食べ終えてから、泊まる宿を探そうと再び歩いていると、街頭に設置されたモニターではちょうど、リベリア外相による南アメリカ隣保同盟加盟に対するコメントが報道されており、ハイチを除いて不干渉を継続するという趣旨のものだった。リベリアは急速な経済発展とその余力によるアフリカ解放に対する熱意によって注目されるようになっていたが、一方でアフリカ-モンロー主義を掲げていて―もっとも、南アフリカ連邦と常に睨みあっていたからというのもあるが―他地域の問題には余り首を突っ込んでいなかった。


そのリベリアがいくら黒人主体の国家であるとはいえ、本来域外の国家であるハイチに言及したことに『私』は少々驚くとともに刑事から聞いたアフリカ原産のチャットに関する話を思い出した。勿論、原産地たるエチオピアはリベリアの勢力圏から離れているため、ひょっとすれば全く何の関係もないのかもしれないが、それでも調べてみる価値はあるかもしれない。そう思って『私』は航空券の予約をしたのだった。

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― 新着の感想 ―
私が買う豆は、グアテマラとマンデリンです。 最近は、6:4メソッドで美味しく頂いています。
リベリアが地域大国になるような異様な世界が興味深いです。 チャットやグアテマラコーヒーなどの産物も含めてエキゾチックな感じがします。 ブラジルやコロンビアはコーヒーの木の病害から回復していないのでしょ…
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