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ベルリンの"煙突"と白い制服

お久しぶりです。本当はもう少し早く投稿したかったのですが、カクヨムで書いていた関連作品(?)、派生作品(?)のほうの区切りが悪かったのと、どうにも長文を書く能力が衰えていたために遅くなりました。今後も更新は遅くなるかもしれませんが、見捨てないでいただけると幸いです。

ハノーファーを離れた『私』は南西アフリカでの乗ったのと同じ高速鉄道に乗ってベルリンを目指した。ドイツ帝国の首都であり、領邦プロイセンの首都でもある都市だ。


ベルリンの姿は『私』の知るものとは大きく違っていた。まず驚いたのは有名なランドマークであるブランデンブルク門も戦勝記念塔も存在しなかったことだ。端末で調べると『賠償として物納される美術品』として接収され今はパリにあるそうだ。そして次に驚いたのは、現代的な建築がまるでなく、近世のような、いやひょっとするとそれよりももっと古い中世的のように見える建築が数多く建てられていたことだった。


こちらも端末で調べると、ドイツ帝国では『一つのドイツ』の名のもとに国家主導の建築プロジェクトが進められており、その多くは神聖ローマ帝国初期のオットー朝時代のものを模したものであり、帝国の統一に腐心し、多くの異教徒たちを打ち破ったオットー大帝を称揚することで、表向きは非社会主義化のためにキリスト教文化をわかりやすく浸透させる為としつつ、ドイツ人の空白となったナショナリズムを満たそうとという帝国政府の考えの産物だそうだ。カール大帝のカロリング朝フランク帝国を半ば無視しているのはかの人物が時にフランス人とされることがあり、フランス人もそれを分かってかエクス-ラ-シャペル(アーヘン)に自らの陣営の国際組織であるユーラフリカ政治共同体の本部を置いているからだろう。


だが、その建物が焼け焦げていたり、帝国や皇帝に対する誹謗中傷が落書きされていたりするのを見て『私』は『一つのドイツ』は失敗だったのではと感じ始めていた。少なくともドイツ人たちの心をつかんでまとめ上げられているとは全く感じなかった。


そうしてベルリンを歩いていると遠くに煙突のような巨大な漏斗状の建築物が見えた。スイスへの大戦中の放射線物質を使用した攻撃を行なったことから原子力発電をいまだに禁止されているこの国では火力発電しかないので最初はそうかと思ったがよく見ると煙が出ておらず、ではメキシコや南西アフリカで見た太陽熱を利用した発電所かといえば明らかに形が違うため気になった『私』はさっそくそこに行くことにした。



そうして意気揚々と進み始めた『私』だったが、少しも行かないうちに歩みを止めることになった。ドイツ帝国警察の検問所があり、そこで不審がられた『私』はそこで取り調べを受けることになったからだった。


取り調べをする部屋というのはどこもそうだが無機質なもので『今回でこういう目に合うのは何度目だったか』と思い出そうとしているうちに、検問所で会った都市迷彩を着込んだ警察官とは違う、真っ白な防暑帽と制服に身を包んだ取り調べの担当官が来た。


「英語は話せるかね」

「ええ、まぁ」

「それは良かった。フランス語は少し自信ないんだ」


そういうとマティアス-アルトゥジウス-ノイバウアーと名乗った担当官はかすかに笑った。


「で、だ。キミはどういう用があって郊外居住地なんかに行こうとしたのかね」

「居住地…あの"煙突"がですか」

「"煙突"?ああ、そうか本当に知らない人間なのか…しょうがない少し長い話になるが説明しよう」


ノイバウアーは説明を始めた。彼の説明によればあの漏斗状の煙突のような建物は吹き抜けとなっている中心部が農業用の農園兼中庭で、周囲の壁にあたる部分が居住部分や店舗となっているらしかった。つまり、この世界のドイツ版アーコロジーと言えなくもない建造物だったが気になるのはその形だった。


「どうしてそんな…」

「奇妙な建物を建てたのか、と言いたいんだろう?まぁ、フランス人には散々馬鹿にされたし、イギリス人にさえ皮肉を言われたことがあるが、あれはわが祖国の人口並びに食糧危機の解決策の一つだ」

「というと?」

「…大戦後しばらくは移民として海外に出て行った余剰人口だったが、だがそれでも国内の農地の多くは汚染されたままでな。そこで考え出されたのが建物を高層化しつつ中心を農地として活用できるあの構造だったというわけだ」

「農地が中心部だと日陰になったり問題があるのでは?」

「ああ、そこは我が帝国の誇るツァイスの技術で解決したよ」

「なるほど、さすがドイツの技術といったところですね」

「…別にそういうことを言いたいわけじゃない。ただ、必要なものを実現するのに必要なだけの技術力がたまたまあったというだけさ」


『私』の賛辞にノイバウアーは少し困惑したような、渋い顔をして答えたが、その顔にはわずかに喜びがあった。


「まぁ…もっとも田園都市的な構想は他国でやりつくされていて面白みがなかったというのもあるかもしれないがね…さて、これでキミの質問にはおよそ答えたわけだが、もういいかね」

「……そもそもなぜ郊外に旅行者が立ち入ってはいけないのでしょうか」

「…別にそういう訳ではないよ。ただ、先日の暴動の関係でね。人の移動が極端に制限されているからな。こういう時でなければいくらでも歓迎したが、ね」


ノイバウアーの言葉は柔らかかったが、明確な拒絶の意思が感じられたため、『私』は最後に少し気になっていたことについて質問して話を終えることにした。


「ところで、少し気になっていたのですが、その白い制服は何なのでしょうか?外の人々とはずいぶん違うようですが」

「ああ…確かにこういう状況だとおかしく見えるかもしれないが、本来はこっちが正しい制服なんだ」

「そうですか。しかし…どうして防暑帽を?」

「これは象徴みたいなものさ。かつて南西アフリカに亡命し、帰還した帝国政府はかつての帝国とは違う統一的な警察組織を求めた。その模範となった南西アフリカ植民地軍(シュッツトルッペ)から制服も受け継いだてわけだ」

「しかし、南西アフリカ植民地軍(シュッツトルッペ)は軍隊では?」

「確かに南西アフリカにも植民地警察はあったが、実質的には南西アフリカ植民地軍(シュッツトルッペ)の補助組織だったからな。だから南西アフリカ植民地軍(シュッツトルッペ)がモデルでおかしくないんだよ」

「なるほど」


『私』はそう答えながら、外の迷彩服もノイバウアーの着る白い制服も、どちらもドイツ帝国の体制を守る盾の姿なのだと実感した。きっと何か起これば迅速に鎮圧するだろうし、何かが起きないようにこうして『私』のことも足止めするというわけだ。


どうせならばその理由を知りたかったが、『私』はお尋ね者―もっとも『私』がそう思っているだけで実際はそうではなかったかもしれないが―になるのはもう懲りていたので、ぐっと我慢して『私』はベルリン中心部に戻ることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
異形のベルリンが良いですね。 ブランデンブルク門も戦勝記念塔も持ちされて抵抗できないドイツ帝国の苦渋が忍ばれます。更にオットー1世まで良き伝統を遡らなければいけないとは、ナイスジョーク。 メルヘン街道…
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