転生者なんて大したもんじゃない
「で、結局あんたはナニモノなんだよ?」
勝負が終わった今、筋肉の塊2体と俺、Dランクの人は座り込んでいる。
ずんぐりは勝負が始まる前と同じく怪我などはなく変わった様子はないが、牛刀は半分以上なくなっている。
変わって、Dランクの人はズタボロで、髪の毛やマントに枝や葉っぱが所々刺さったりくっついたりしている。
どう考えても勝ったのはずんぐりのように見えるが…
―数分前
「ずぅえぇいりゃやああぁあ!!」
渾身の闘気と魔力を纏った上段からの振り降ろしの牛刀。
「…あ…」
全ての力が抜けてただただ上から落ちていく安物の剣。
その2つがぶつかり合い、ナマスを切るように男の頭上から身体が真っ二つになると思ったその瞬間…
一切の無駄を省いた名も無き剣は牛刀を斬り裂いた。
牛刀に纏われていた闘気と魔力は行き場を失い、その場で大爆発を起こした。
二人は一足一刀の間合いから吹っ飛ばされたが、ずんぐりは数メートル吹っ飛んだ位置で踏ん張り事なきを得、男は派手に木々に当たり散らかしていった。
「…おいおい、想像以上だぜ…」
半分欠けた牛刀を見つめずんぐりが震える。恐怖という簡単な感情ではない。未知の力に触れた歓喜と畏怖、そして驚愕。
「はは…ははは…あーっはっはっはぁ!!ほれ見ろぉ!!とんだ食わせもんだせコイツぁ!ヨリメル!見たか!俺の全力出した結果がコレだぜぇ!こんなゾクゾクする勝負なんてなかなか味わえんぜ!!こんなんを俺はやってみたかったんだぁ!!ぐぁーっはっはっは!!」
愛刀が切られたというのに、ずんぐりは勝負ハイになっていた。
「はははっ…。あーあ、やられちまったなぁ。ったく、あんちゃんも人が悪いなぁ。最初から本気出してくれよなぁ!何ならどうだ?ワン・モアランウンド…って、あんちゃん?あれ?あんちゃんどこいった?ま、まさか!勝負がついたからって風の如く消えちまったってのか!?」
「え、えーと、Dランクの人ならあそこっすよ」
言われて茂みの奥深くを見てみると、茂みから足が2本生えていた。
―そして時は戻る
なけなしの低級ポーションを振り掛け、何とか男を復活させた。闘気と魔力の爆発、そして木々にぶち当たった怪我は完治しなかったものの、動けるようにはなったようだ。
「あてててて…おい、ずんぐり!!お前はバカか!?ばかなんですか!?バカだよね!!俺Dランクって言ったよね!?そんでお前もDでしたっけ?!いや違うよなぁ!?C?違いますよねぇ?Bランク相当だとか言ってましたよね!!B!B!!BがD如きに全力出してんじゃねーよ!魔力まで出しやがって!大人が赤ん坊に全力パンチするよーなもんだぞ!!虐待で訴えんぞコラ!!」
「なーにを言ってんだよ。ただのDランクが俺の牛刀斬れるかってーんだよ!」
「そ、そうだぞ!!」
「確かに…」
「おい、ガキ!おめーはどっちの味方なんだバカヤロー」
「はぁ…。で、結局あんたはナニモノなんだよ?」
視線が男に集中する。
「ナニモノでもねーよ。俺はDランクワーカー。それ以上でも以下でもねーよ」
ヤレヤレとばかりにそう答えるが、その答えに納得する者はおらず、無言のプレッシャーを視線に込める。
「なんだよ!ムサイ野郎どもに見つめられても嬉しくねーってんだよ!」
「「「じ〜」」」
「止めろよ!気持ち悪いよ!!」
「「じ〜〜〜!!!」
「じ〜って声に出すな!野郎がやっても可愛くねーんだよ!!分かったから!話すから!離れろ!男臭ぇ!………はぁ。話したって、どーせ信じられねー話だぜ。何せめちゃくちゃな内容なんだからよ」
「まぁ、あんた見てると尋常な話じゃなさそうなのは容易に想像できるぜ。それこそ、あんたが勇者とか魔王の生まれ変わりとか言われても驚きゃしねー」
「そ、そうなんだなぁ」
「ははっ、ホントっすね〜」
「なんなのお前ら?仲良しなの?強盗と被害者じゃねーの?ほのぼのしんじゃねーよ、ったく」
「す、すんませんす!で、でも、あんたのことをちゃんと知りたいってのはそこのお二人も俺も一緒っすよ」
「「そのとーり」なんだなぁ!」
「…あーそーかい。分かったよ。はぁ…この話を人にするのは初めてだから、どう話したら良いもんか分かんねーけど…そうだな…簡単に言えば、俺は社畜ではなく死んでもいないのに、神様に会えずチートを与えられず、その上ヒロインと巡り会えないまま異世界に転生して10年経った、その日暮らしのDランクワーカー、ってとこだな」
「「「…は?」」」