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プロローグというほど立派なもんじゃない

「はぁぁあ〜」

俺の窮地に現れたその男は、俺を見るなり深いため息を吐いた。

「なぁんで野郎なんだよ…。神様は出てこねーわ、チートはねーわ、歳くうわ、ヒロインいねーわ、10年経ってようやくイベントかと思えば…なんで野郎なんだよ!!」

男は更にワケの分からないことを叫んで頭を抱える。

そんな姿を唖然と見つめる俺と、オーク族の強盗二人組。

「はぁ…帰るわ」

「「いや、助けないのかよ!!」」

俺と強盗が息の合うツッコミを入れたのも仕方ないと思う。


---遡ること3日前---

とある理由から村を出た俺、タマルは物資運搬の依頼を受け、シラサ村から村の特産品であるサルアーリという果実を届けるため、フィ・クサリァ王国第二首都のジュルラークに向けて出発した。

本来であれば運搬といえども護衛と運搬の担当の一時的なチームを組むか、どちらもこなせるチームが請け負うものであるが、俺は経費節約のため、戦闘能力がからっきしなのにも関わらずソロで仕事をこなしていた。

その理由は、馬より体力もスピードも長けている竜種ロンロリアルを手懐けることに成功した事が大きかった。

偶然ロンロリアルの幼体に出会い、竜車引きを覚えさせ、少しずつ何とかソロで仕事を続け、運搬用の竜車のローンに目星がついてきた矢先―

川で休もうとしたら強盗に遭った。


「おぅおぅ、護衛も付けずにガキがソロでジョブたぁ舐めたもんだな、オイ」とずんぐりした筋肉の塊。背中にはバカでかい鉈のような剣を背負っている。

「そ、そうなんだなぁ〜」とのっぽの筋肉の塊。拳は顔より大きそうだ。

「す、すいません、経費節約と思って…」

「そいつぁ感心しねぇなぁ。城壁に囲まれた街を一歩出りゃぁ危険だたくさんなんだぜぇ?」

「そうなんだなぁ!」

「魔獣にモンスター、野盗に人殺し…そんで俺達

みたいな強盗とかよぉ!!」

「そ、そうなんだなぁ!!」

「ひ、ひぃ~勘弁して下さいっ〜!!」

「大人しく金と運んでるブツ全部置いて消えるんだな」

「そ、そうなんだなぁ〜」

「何なら、その竜も置いてたっていいんだぜ?何てったけっけ?ロングバケーションとかいう珍しい竜なんだろ?まぁ、どうしても嫌だってんなら考えてやらねーわけでもねーがな」

「そうなんだな!」

「す、すいませんー!!命は見逃して下さいー!!」

「お、おい!誰も殺すなんて言ってねぇだろ!!人の話聞いてんのかよ!?金とブツ置いてけってんだよ!それと、できれば竜もな!」

「そうなんだな!」

「こ、この子は…この子だけは勘弁して下さいー!この子は相棒なんですー!!」

「わ、分かった!分かったから足にしがみつくんじゃねぇ!!」

「あ、兄貴、り、竜まで盗るのはか、可哀想なんだな」

「あぁ?…そうだな。よっしゃ、分かった。おいガキ、金とブツ置いて消えな」

「あ、兄貴、優しいなぁ〜」

優しさとは一体?などと困惑していると、茂みから一人の男が現れた。


「はぁぁあ〜」

深いため息とともに。


現れた男はボサボサ頭に無精髭の、覇気の欠片も感じられない風体だった。無気力を絵に書いたようなその眼差しには一筋の光すらないようにすら見える。

「なぁんで野郎なんだよ…。神様は出てこねーわ、チートはねーわ、歳くうわ、ヒロインいねーわ、10年経ってようやくイベントかと思えば…なんで野郎なんだよ!!」

男は更にワケの分からないことを叫んで頭を抱える。

そんな姿を唖然と見つめる俺と、オーク族の強盗二人組。

「はぁ…帰るわ」

「「いや、助けないのかよ!!」」

被害者と強盗犯が息の合ったツッコミを入れる。

「いや、助けたい気持ちはあるんだがなぁ、うん。ほれ、俺とそいつらを比べてみろよ。俺が勝てると思うのか?」

そう言われてタマルは二人組と男を比べてる。筋骨隆々の二人組に、くたびれた男。

「うん、無理っすね」

「だろ?即答されたことには思うところがあるが、それが現実ってもんだ」

「で、でもあんたはワーカーなんじゃないすか?」

「あぁ、ワーカーだがよ。Dランクだぜ俺」

「くぅう〜Dランクの人っすか。それなら仕方ないのか…」

ワーカー。それは日雇い労働者のことであり、ハーイワークなる職業斡旋所で掃除からボディーガード、魔獣退治まで幅広い仕事を請け負うフリーワーカーのことを示し、その仕事内容や報酬はランクごとに異なる。

ハーイワークでワーカーの資格を取得し、Fランクから始まりEDCBAと、実績と信頼によってランクが上がっていくシステムとなっているのだ。

ちなみに、Dランクは最も登録者数が多いランクであり、ようやく一人前と認められるランクである一方で上のランクに上がれないワーカーの最終地点でもある。

「それによ、金目の物置いてけば見逃してもらえるみてーだし、大人しく置いてけよ」

「いや、どっちの味方してんすか!!」

「バーロー、授業料だ授業料。お前が経費ケチったせいでこんなことになってんだろ?今回は授業料ってことで払っとけよ」

「う、そりゃあケチったことが裏目に出たのは確かなんすけど…あんたがDランクなのは分かりましたけど、チームはいないんすか?」

「あぁ、いねーよ。俺はずっとソロだ」

「くっそぅ、ホント役に立たない…」

「なんか言ったかこら」

「あ、いえ、何でもないす!」

二人のやりとりを聞き入ってしまっていた強盗二人組だったが、ずんぐりが我に返った。

「おぅおぅ、あんちゃんよ、割り込みしといて俺らを無視するたぁいい度胸してんじゃねーか。お前ぇも金と装備品置いてけや」

「そ、そうなんだな!」

「お前ら、俺をよく見てみろ。金目になるよーなもん持ってるように見えるか?」

そう言われてずんぐりが男をよく観察してみる。

ボロマントにくたびれた剣鞘。ボサボサの黒髪に無精髭。手荷物なし。

「いや、見えねーな」

「そ、そうなんだな…」

「だろ?即答したお前らにも思うところがあるが、俺から剥ぎ取ったところでゴミしか出てこねーよ。大人しくそのガキから金せびいて帰るんだな」

「確かに言う通りだが…なんでこいつこんなに偉そうなんだ?」

「ちょっとちょっと!何をなんなら強盗勧めてんすか!?俺がお金とか置いてたってホントに見逃してくれるかなんて分からんのですよ!」

「でーじょぶだろ。金と物置いてけば手上げねぇっつってんだからよ。…それにこいつらは、そんなことしねーよ」

「そんなことしないって、何で分かるんすか!?」

「ん?勘?」

「勘って!?」

「おぅおぅ、あんちゃん。俺らがヘタレだって言いてぇのか?」

「ん?あぁ、ちげーよ。んな悪い奴にゃ見えねぇって話だよ」

「あんだと!?何を根拠に…」

「ん?勘?」

「勘、だと?ふっ、面白ぇこと言うあんちゃんだな」

面食らったような顔をしていたずんぐりだったが、すぐに不敵な笑みをこぼした。

「よっしゃ、こうしようじゃねーか。勝負して勝ったら見逃してやっていーぜ」

「はぁ?勝負?それ俺にメリットねーじゃねーか。んなアホな賭け誰がするかよ。だいたい、んな面倒なこと、なんで俺がやるんだよ?俺はこのガキの保護者でもなんでもねーっつーの」

頭をぼりぼり掻きながらそう答える男はダメ人間そのものである。

「いや、お前Dランクワーカーなんだろ?さしずめ、街道パトロール依頼請けたんじゃねーのか?ここで何もしなかったってそのガキが報告したら、お前さん困ることになるんじゃねーのか?」

「ぎくっ」

Dランクワーカーが請けられる常設依頼には「街道パトロール」がある。街道パトロールはその名の通り街道をパトロールすることにあり、異常を発見した場合は異常の処理及び報告が求められている。その反面、異常がなければ街と街を行き来するだけの内容であり、報酬は格安なため、命を賭けてまで異常を処理する者はほとんどいない。向上心のないDランクワーカーが最も吹き溜まる由縁でもあるが、サボったことがバレてしまえば当然ながらペナルティが課せられるのだ。

「おいガキ、このままこのあんちゃんが見知らぬフリしてたらどーするよ?」

「当然、ハーイワークに8割増しで不正を報告するっす!!」

「てめー、ガキ!強盗と被害者で結託してんじゃねー!」

「がっはっは、さて、どーするよあんちゃん?」

ずんぐりはこの冴えない男に秘めた力があるかもしれないと期待していた。同族のギルドに入れてもらうため手土産を用意することになり、仕方なく強盗することになったのだが、思わぬイベントに心が踊ってしまったのだ。

「はぁぁあ…何で俺がこんなメに遭うんだ…」

「はっ!諦めるんだな!」

「そ、そうなんだな!」

「よっしゃ、ヨリメル!お前から行け!」

「お、おぅ!!なんだな!」

「ちょ、ちょい待ち!!」

「あぁ?何だよ今さら」

「俺はDランクなんだぞ?お前らに勝てるわけねーだろ?やってやらなくもないがハンデつけろハンデを」

「ハンデだぁ?」

勝負しないことは諦めたようだが、このまま普通に勝負しようとすれば駄々をこねて逃げるかもしれないと考えたずんぐりはしゃくれた立派な顎に手を添えて考える。

「ふぅむ、よっしゃ。3ミニッツ立っていられたらお前の勝ちってことでどーだ?コイツと俺相手にそれぞれ3ミニッツだ」

「…随分と気前良いハンデだがよ、それだけお前らが強ぇってことなんじゃ…」

「がっはっは!そいつは死合ってみて確かめるんだな!」

「おいコイツ死合うとか言ってんぞ!生死賭けんのかよ!?」

「…せめて苦しくないように…」

「てめーガキ、死ぬ前提にしてんじゃねー!」

「あんちゃんよ、諦めて覚悟きめてくれやぁ。どうせ俺らがその気になりゃ二人ともやっちまうことだってできんだからよ」

「ちっ、分かったけどよ。俺が勝った場合の報酬が割に合いませーん」

「おぅ、確かにそうかもな。ただ、俺らだって金目のもんなんざ持ってねーんだぞ?」

「んなもん期待してねーよ」

「だったらお前は何を望む?」

「そーだな…俺が勝ったら、お前らはこのガキの専属ボディガードになるってのはどーだ?」

ニヤリと笑いながらそう提案した男。

予想外の提案にずんぐりもニヤリと笑う。

「あんた面白ぇよ。よっしゃノッたぜ!」

「えぇ~?何なんすかその話!?俺の意見は!?」

「「お前は黙ってろ!」」

「は、はいっす…」

「話はまとまったな。勝っても負けても恨みっこなし。ガチンコ勝負のはじまりだぁ!」

「そうなんだな!!」

「はぁ、何でこんなメに…」

テンションが爆上がりする二人組と対照的に爆下がりする男。

かくして3ミニッツタイマン勝負が始まった。

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