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第三話 後見人がいないと廃嫡ってマジ!?

 帝国の第二皇子エミルとして生まれた俺は七歳になった。一般的には、物心がつくと言われる頃だろう。多くの子供は、家族の顔なんかを最初の記憶とするのだろうか。


 悲しいかな、俺の頭の中にある最も古い記憶は、暗い場所で俺に向かって変顔をしている中年の男の顔だ。使用人の話では、俺は、一歳の時に誘拐されたらしい。

 その中年の男がつけてきた魔道具に触れた瞬間、誰かは知らないが別人の記憶が流れ込んできた。同時に、俺の自我が生まれた。膨大な情報量に脳が耐えられなかったのか、俺はそのとき入ってきた記憶を全て思い出すことはできていない。


 しかし、年齢を重ねるとともに、思い出せなかった記憶が浮かび上がってくる。思い出すきっかけは様々で例えば、剣を初めて持ったとき、剣術と体捌きに関することを思い出した。他にもこの世界で話されている言語や魔法についての知識が頭の中に叩き込まれている。魔道具に込められた知識は、王宮の教育内容に劣らないもので、名も分からない誰かさんは生前優秀だったのだろう。だから、何事も真剣に取り組んでいた幼い頃は神童だともてはやされた。


 ここまでの話を聞くと、何の努力もせず多才な能力を手にできたことをラッキーだと思える。だが、俺はこの記憶を忌むべきものだと考えている。何かをしようと考えた途端、記憶がよみがえり結果が分かっていまう。そんな人生を送ってきた俺は、未知のものに触れる喜びや感動を覚えたことがない。よって、俺は何もなさない、怠惰な性格になった。


 何より現在の人格を形作るダメ押しとなったものがある。


―――この世界は近い未来滅びる......


 何が原因でどのように滅びるのか肝心な部分は分からない。

 ただ分かっているのは、この世界に残されている時間は、決して長くはないということだけ。誰かに伝えたとしても、真に受ける人間はいないだろう。自堕落な生活を送っている今なら尚更だ。もっとも本当に世界がヤバいのか、俺が持っている情報が真実なのかは定かではないのだが。


「まぁ、俺一人がどうこうできる問題じゃないからなぁ~」

そう思いなおし、王宮内の庭で昼寝を再開した。


「――エミル様! やっぱり、ここにいましたね。陛下からお呼び出しです。さっさと起きてください!!」


 そう言って安眠を妨げてくるのは、俺付きの近衛であるレイスだ。碧色の瞳を持ち、真紅の髪を肩のあたりまで伸ばしている。王都付近ではあまり見ない顔立ちをしている美人騎士である。

 現在二十三歳、十六という若さで近衛騎士になっただけあり優秀らしい。彼女が近衛兵になってすぐに、主人である俺が誘拐されたことで肝を冷やしたと同時に、自身の力不足を実感し鍛錬により励むようになったとは本人談だ。


 普段なら、稽古や勉強を忌避し逃げる俺と追うレイスで鬼ごっこが始まるところだが、皇帝の命となれば話は別だ。レイスとともに謁見の間まで歩いていく。


 中に入り、臣下の礼をとる。この時ばかりは俺も真面目モードになる。

「およびでしょうか、陛下」


「伝えておかねばならないことがあってな、エミル、お前は相変わらずのようだな、呆れるやら安心するやら――」


「それで、伝えておかねばならないこととは?」


「お前も分かっているだろうが、来月に迫った認定式についてだ」


 認定式とは、読んで字の如く七歳になった皇帝の子を皇子として認定する式典のことだ。この式典を終えることにより、正式に皇子として認識され、公務を担っていくことになる。つまり、今までのように一日中遊び回ったり、昼寝したりすることができなくなるらしい。非常に憂鬱である。


 自由の終わりを心の中で嘆いていると、そんな気持ちを吹き飛ばす爆弾が投下された。


「それに先立ち、後見人を示す書状を翌週までに宰相に渡しておけ。式典には決まった段取りがあり、それ相応の準備が必要だ。何よりお前の認定式だ。式をスムーズに行わねば笑いものになってしまうからな。」


 俺は若干の気まずさを感じながらも、

「陛下、非常に申し上げにくいのですが、私には後見人がおりません。多少、不恰好になってしまうことにお詫びしておきます。まぁ、もとより私の不出来さ加減は周知の事実ですから大したことではないのではないでしょうか。」


 場に沈黙の幕がおりる。こちらを理解できない目を見る父に対し、俺も首をかしげて返す。


「―――後見人がおらねば、式典は執り行えんぞ。すなわち、お前は廃嫡になる。」


 再び、沈黙に包まれる。


「流石です、陛下。ご冗談もお上手ですね」


「馬鹿者!! 現状が認識できておらんのか! この際貴族の位は問わん。とりあえず、後見人を自力で見つけてこい!!」


 そう言われて謁見の間から、放り出された。



 部屋に戻る途中、俺の後見人になってくれる可能性がある貴族について思案していると、背後から冷たい視線を感じる。

「どうした、レイス。」


「いえ、ただ本当に現状を認識されていなかったことに驚きを隠せませんでした。」


 俺が生まれたころから俺の近衛騎士だけあって、辛辣で遠慮がない。逆に昔の真面目な俺に対しては敬意を払いすぎて堅苦しかった。俺が何事もサボるようになるとともに、砕けた口調になっていったことを気心が知れたと喜ぶべきなのか。


「っていうか、何で後見人の重要性について教えてくれなかったわけ?」


「私がそのことを伝えようとした時、エミル様はいつも”俺に後見人は必要ないんだぁ~”と最後まで話を聞かれませんでした」


「結局、俺の自業自得ってわけね」


「諸々の準備を考えると、残された時間はあと5日ほどかと」


 これまで認定式で廃嫡になった皇族はいない。流石にその第一号になるのはごめんだ。面倒だが、やらねばなるまい。柄にもなく、右手を空へ掲げて宣言する。


「レイス、俺は廃嫡にならない、そのために力を貸してくれ」


「久々にエミル様の真剣な顔を拝見した気がしますね。私はあなたの近衛騎士、何なりとお申し付けください!」


 いつも我儘ばかりで、こんなピンチのときだけ頼るような主人を支えてくれるレイスに感謝しつつ、久しぶりに脳をフル回転させる。


「あと、こんな状況じゃなければカッコよかったですよ」


「うるさい、余計なことを言うな」


 こうして崖っぷちの後見人探しが始まった。


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