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碧海のサルティーナ  作者: あんさん
第1章 邂逅
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第10話 歓迎会

「よう、フィン! なんだおめぇ、新しい嫁さん貰ったのか! 滅茶苦茶別嬪さんじゃねぇか!!」


 突然の声に、フィンは振り返った。そこには配達でよく顔を合わせる小さな商店の店主が立っている。彼はにこやかな笑顔を浮かべながら、隣に立つアリスに目を向けていた。顔を赤らめているので既に一杯やって少々ご機嫌らしい。


(新しい嫁さん?)アリスはその言葉にぴくっと反応した。


「勘弁してくれ……嫁じゃないよ、助手だよ、助手。それに一回も嫁は貰った覚えはないぞ!」


 フィンは苦笑いしながら肩をすくめた。


「そんなこと言っても、お前はあれからはいつも一人で、誰も連れ来てなかったじゃねぇか」


 店主はニヤリと笑いながら、さらに突っ込む。


「今回はちょっと断れなくてな、それに俺なんかの嫁というと彼女に悪いだろ?」


 フィンは言いながラリースの方をらりと見た。アリスはどう反応するかと少し気をもんだが、意外にも彼女は嫌がるそぶりは見せなかったのでほっとする。こういうのは嫌がらないのかと思いながら声をかける。


(そりゃフィンは大人の人だから親しい人の一人や二人はいたでのでしょうね)と思うと少しもやっとしたが、顔には出さずもくもく作業を続ける。


「さあ、アリス、準備ができたら帰るぞ。今夜は歓迎会だろ? 酔っぱらいのおっさんの相手もほどほどにさっさと帰ろう」


 助手になって一カ月が過ぎ、正式に仲間としてお披露目をする歓迎会だった。こんなに遅くなったのはお嬢さんの気まぐれだと思っていたフィンが先延ばしにした為であった。


「フィン、わかりました。もうすぐ確認終わります」


「ひでぇな、フィン。まぁよろしくやってくれ。また連れて来てくれよ」


「ああ、よろしくはやらないが、また荷物があれば来るよ」


 呆れながら店主に別れを告げると振り返ってアリスに伝える。


「やれやれ、田舎は娯楽がないからな、なんか面白いと思えばくらいついてくるのがたまらん。さて、帰りは来た時にやったことをもう一度おさらいだ」


「はい、頑張ります」


 返事とともにフライト支度をするアリスを見て、助手になって一カ月で随分様になったなと感心する。

 アリスは帰路でも熱心にコ・パイロットの練習に励んでいた。



 ◇◇◇◇◇



 その日の夕方、エレミーナに戻ったフィンとアリスは港町のカフェ『Domus Flatus Maris』にやってきた。

 歓迎会のために多くの仲間が集まっており、店内は活気に満ちていた。テーブルには様々な料理が並び、海の香りが漂うカフェの雰囲気が一層特別な夜を演出している。


「アリス、今日は貴女が主役だから、楽しんでちょうだいね」


 ジュリアから声をかけられたアリスがうれしそうに微笑む。アリスも仲間たちの輪の中で陽気に振る舞っていた。ジュリアが緊張をほぐそうとしていたのは必要なかったようだ。


「あ、これ食べてみて! このシーフードパイは絶品なんだから!」


 ジュリアからは勧められるまま一口食べて感激の声を上げた。


「うわ、すごく美味しいですね!」


「でしょ? 手間がかかるからここでも滅多に出せないけど一番人気のメニューなのよ!」


 料理を運んできたジュリアにフィンが独り言のように声をかける。


「お嬢様の気まぐれかと思ったら、熱心に頑張って一カ月持ったなぁ」



「そうね、あの娘は本当にいい子ね。あれだけ性格もよくて熱心でまじめに取り組む人なんて、この業界に滅多に居ないわ。しかも見た目も可愛いとか天は何物与えるのかしら。あんな掘り出し物はちゃんと捕まえておきなさいよ」


「なんの事だよ…… しかしどうやってもそのうち実家に連れ戻されるだろうよ」


「そんなこと言わない! まったくしょうがないわね」


 ジュリアはアリスの方に向き直し、「フィンが『熱心に頑張って一カ月持ったなぁ』って褒めてくれていたわよ」と告げる。

 アリスは少し照れながら「ありがとうございます」とお礼を言った。


 和やかな雰囲気の中、仲間たちが次々にアリスに話しかけ、彼女の歓迎を盛り上げていた。

 中には少々下心のありそうな奴も混じっていたが、マヌエラを筆頭に女性陣にブロックされている。最初の挨拶は緊張していたアリスだが、徐々にその場の雰囲気に慣れていっているようだ。

 そんな時だった。


「カラン、カラン」


 ドアチャイムが鳴り、貸し切りの札を下げてあるドアが開く。ジュリアが振り返り「今日は貸し切りなんですみません」と言いかけて歓声に変わる。


「キャー!! オリエッティ! 久しぶりじゃない!!」


「ジュリア~! 久しぶり! フィンが新しいパートナーを決めたって聞いたからびっくりして来ちゃったわ! 


 その言葉を聞いてフィンは顔を背けたのを、向かいの席から気づいたアリスはちょっと胸騒ぎを覚える。


「本当に!?」


「本当よ! っていっても半分は仕事の用事もあってね。はい、これ。今年の分ができたので一番に持ってきたわ」


「え! これ、例のやつね、そっかーもうそんな時期なのね。ありがとう早速貼ってくる! あ、フィンならその辺りに居るわ」


 アリスは丸い筒になっているものを受け取ったジュリアを目で追う。壁際に走っていって中身を取り出して壁に貼ろうとしていた。どうやらポスターのようだ。


「フィン、元気にしていた? 噂には聞いたよ、とんでもない美人だって。今度はちゃんと最後まで育ててあげるのよ」


「……あぁ、オリエッティ、元気そうだな。そんなんじゃねぇが、分かっているって」


「あなたのそういうところよ、しっかりしてね」


 こっちも気になり、そっと見ているとマヌエラが声をかけてきた。


「気になるんでしょ? アリス」


「えっ、いや、どういった知り合いかなぁ? と……」


 気にならないフリをしたが、嘘だ。普段の仕事仲間に接するフィンとはまるで違う態度が気になっていた。


「みんな知っていることだから喋ってもいいかな。 彼女はフィンの昔のパートナーよ、彼が独立して私と知り合った頃に一緒に行動していたの」


「そうなんですね、それでジュリアも仲良しなのですか」


「そうね。ここにいる人の半分以上は彼女をよく知っているかしら。うふ、でも安心しなさい。もうとっくに切れているから」


「……どういう意味でしょう?」


 意味深なマヌエラの言葉に動揺し、ちょっとぶっきらぼうに返事したところへ、マリエッティが声をかけてきた。


「初めまして、アリス。私はマリエッティ。 んーそうね、あなたの先輩と思ってもらえればいいわ。そして今はフィンと同業よ。よろしくね。それにしても本当に美人ね」


 ウェーブがかかったロングの銀髪が似合う魅力的な美人だった。


「初めまして、アリスです。先輩って?」


「私もフィンにコ・パイロットのいろはを叩き込まれたクチなの」


 いたずらっぽく笑う笑顔に嫌味なところはなく、とても魅力的だったので思わず引き込まれてしまう。


「それで先輩ってことなのですね、私はまさに今叩き込まれています……」


「聞いたわ、あなたから志願したのでしょ? やるわね。でもフィンは女の子の扱い下手だから心配なのよねぇ」


「いえ、そんなことないです。無理を言ったのに良くしてもらっています」


「何かあったら私に言ってきてね。一応釘は刺して置いたけど……彼は朴念仁だからねぇ……」


「朴念仁……ですか?」


 そう答えたところで店内の壁に目をやると、さっきジュリアが貼っていたポスターが目に入った。ポスターには輝く青空を背景に、水上機が勢いよく空を駆け抜ける姿が描かれていた。その迫力あるデザインに、アリスは思わず見入ってしまった。


「あら、アリス、そのポスターに興味があるの?」


「はい、いいポスターですね。迫力があってとても気に入りました。これってさっきマリエッティさんがさっき持ってきた物ですよね?」


「そうよ、『インターストラトス・グランプリ・チャンピオンシップ』のポスターね。今回の仕上がりも素晴らしいわ」


「インターストラトス・グランプリ・チャンピオンシップ?」


 アリスは興味津々に聞き返した。




評価、誤字脱字報告、感想等は貰えると嬉しいです。

次回近日更新予定です。

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