結婚してと言われ続けたら、意識してしまうんだ
この作品は、しいな ここみ様主催『砂糖菓子みたいなラヴ・ストーリー企画』参加作品です。
「あっ、カーくん、いたー!」
その声に、俺はため息をついた。
「二十も年上の男を君付けするな」
「いいの! カーくんはカーくんだもん!」
俺の言うことなんか気にもしないで、腕に抱き付いてきた女の子。今、十三歳だ。俺の幼なじみの娘なのだが、いつも俺に絡んでくる。
「ということで、カーくん、あたしと結婚しなさい!」
「……またそれか。懲りないな」
「カーくんが頷くまで言い続けるもん!」
「……はぁ」
まだ五歳の頃から、なぜか俺と結婚すると言い始めたこの子は、十三歳になった今でも言い続けている。
正直、いい加減にして欲しいと思う。
俺の幼なじみでありこの子の父親は、世界一と言われる魔法の使い手だ。結婚して娘が産まれたとき、「俺より魔法が強い男じゃないと、娘の相手として認めない」と公言した。アホかこいつは、と思った。
で、アホな幼なじみの娘もアホだった。わずか五歳で、二十も年上の、父親と同年の男に結婚を申し込むんだから、アホで十分だろう。
それを真に受けた幼なじみは、怖かった。五歳の子どもの言うことを本気にするなと思ったが、それ以降、何かというと俺を睨んでくる。恋愛が絡むと友情は簡単に壊れるらしい……と考えて、何か違うよなとため息をつく。
「ねぇカーくん、結婚しようよー」
「子どもが、まだ早い」
「子どもじゃないもん。もう赤ちゃんだって産めるようになったもん。ね?」
「ね、じゃない」
またため息をつきたくなる。こいつは、自分の言っていることを分かっているんだろうか。
「どうやって赤ん坊ができるのか、知ってるのか」
「好き合ってる男の人と女の人のところに、神様が遣わした鳥が飛んできて、赤ちゃんをくれるんでしょ? お母さんから聞いたもん」
「やはりまだ子どもだな」
「なんでよっ!」
そんな子供だましの話を信じている時点で、十分に子どもだ。
全く、と思う。本当にいい加減にして欲しいのだ。結婚しようと言い続けるこの子も、睨んでくる幼なじみも。――何よりも、結婚結婚と言い続けられて、意識してしまっている自分も。
俺は手を伸ばす。背中に手を回して抱きしめた。
「か、かかかかかか、カー、くん?」
「なんでいつも自分から抱き付いてくるくせに、慌ててるんだ?」
「だ、だだだだ、だって……」
俺がこんな行動を起こしたのは初めてだ。だから、慌てるのも分からないではないが、本当に結婚するつもりがあるなら、この程度で動揺されても困る。
「早く大人になれよ。待っててやるから」
「――う、うん、分かった!」
本当はまだ早いと分かってる。この子がもう少し大人になって、それでも俺がいいんだと言うまで、待つべきだと分かってる。
けれど、ただ無邪気なだけだったはずの笑顔に、艶が入り始めたのはいつだったか。その仕草が女性っぽくなり始めたのは、いつからだったか。
まだまだ子どもだ。でももう自分のことを自分で決められる年齢だ。だからもう、俺もごまかして逃げるのは終わりだ。
抱きしめる腕に力を込めれば、緊張してか体が強張ったのが分かったけれど、抵抗する様子はない。耳まで真っ赤になっているのが少し面白くて、可愛い。
このままでもう少し、と思っていたら、影が差した。一体どうやって察しているのか、やはり来た。
「おい、何してるんだ?」
「まずは、その手の上にある、物騒なものを消せ」
この子の父親。俺の幼なじみ。今その手に、一発で国を滅ぼせる威力のある魔法を発動させているこいつを、さてどうしたものかと考えを巡らせるのであった。
「お父さん、ジャマっ!」
「じゃ……っ!?」
「カーくん、デートしよー」
「……お、おう。(娘の一言、つよいな……)」