こどものための
「今時ファミコンがある家ってどうなのよ」
「今時のゲームは酔っちゃうんだよ」
サトルはそう言って<魔界村>のゲームソフトの端子にフーフーと息を吹きかけてから、ファミコンの本体にチープな音をたててそれを差し込んだ。電源を入れたらすぐにテレビにゲームの映像が映って、僕は思わず「おぉ」と感動の声を漏らした。
「知ってる?魔界村」
サトルは僕に聞いた。
「やったことはないけど」
「面白いぞ。この難しさがクセになる」
サトルは喋りながらスタートボタンを押してゲームを開始する。このゲームは羽の生えた真っ赤なギズモみたいなやつがお姫様を連れ去るところから始まる。マリオなんかでもお馴染みのド定番ストーリーだ。
プレイヤーは甲冑を着たおじさんを操作して先へ進んでいくのだが、敵の数がとても多く、そのゾンビのような敵が出てくるたびに右へ左へ槍を投げて撃退してゆく。敵に触れてしまうと甲冑が脱げて情けない裸のおじさんになって、もう一度敵に触れると骨になって死ぬ。ここらへんの容赦ない残酷な描写はマリオなんかにはない。
「難しそうだろ」
「無理だろこりゃ」
ニコニコと笑いながら残機を一つ減らしたサトルを見て僕は顔をしかめる。
「……全く売る気は無いの?」
僕はあらためて、また慎重にサトルに聞いた。
「無いね。何万だろうと何十万だろうと何百万だろうと」
サトルはゲーム内の敵をなぎ払いながらこちらには顔も向けず答えた。
「ファミコンの発売から百年。こんなに問題なく動くファミコンは世界でもあと何台あるか……」
「俺はファミコンがやりたくて親父からもらったんだ。金のためじゃない。こういうのは純粋に遊んで、童心に返ることでようやくウィンウィンな関係なわけよ。珍しいのはわかるけど、俺のファミコンは化石じゃなくてまだゲーム機なんだ。他をあたってくれ」
二人がしばらく黙ると、魔界村の軽快な音楽だけが静かに部屋に響いて、それに居心地の悪さを感じて僕は立った。
「わかった。すまないな、小学校以来の再会がこんなで」
「かまわないよ。いつでも遊びに来な。いつでもファミコンは置いてあるよ」
僕はその言葉に少し微笑んで玄関へ向かった。