影追い 3
コールは軟弱で、力仕事など長く続かない男だった。それで良く教会に休みに来ては、アスターと話し込む。
誰よりもアスターの話を聞いていて、それでいて一番目を輝かせていた。
アスターが良く話した、神学校や都会での話。
ラゼルなどは、そこでのアスターの生活ぶりや、彼が出会った人々、そういった部分に一番の面白みを感じていたが、コールは違った。都会そのものに憧れを持っている風だった。
「俺は力がないだろ。だからここじゃ役に立たないけど。でも都会なら、頭を使う仕事もある。どっちかって言うと、俺、頭使うほうが得意だし。こんな俺でも役に立つかもしれない」
だから都会に行きたいと。
けれども、彼も、魔女のしがらみによって自由に外に行けない事くらい分かっている。目を輝かせて「行きたい」と言った後は、落胆の言葉を漏らしていた。
どうも、コールのこともあって、それで自分は魔女を倒すことに拘っていたのかと思う。
コールが魔女の選定を受けたあの夜、魔女の去った後。あまりにショックだったのか、彼はその場に倒れてしまった。
都会に行くことは一縷の望みもない。夢は、叶わない。
ラゼルは、コールに生きていて欲しいと思う。夢に絶望したまま死んでしまっては、あまりに哀れ。生きていて、そして会って話をすれば、望みはまた開かれるかもしれない。
***
「それを聞いて、貴方はどうするの」
魔女にそう簡単に会えた訳ではなかった。彼女の部屋の前までやって来た所で、立ち入り禁止、と言わんばかりに多くの《影》が通路を塞いでいた。それでも会わせてくれと、この際《影》の口から話が聞けるだけでも良いと訴え続け、そうしてようやく、部屋の扉が開いた。
さっそくコールの存在を質問した。そして返ってきた答えが「それを聞いて、貴方はどうするの」だった。彼女の座るゆり椅子の揺れも、激しくなる。
「どうするも何も、生きてここにいるのなら会いたいだけだ」
「どうして会いたいの?」
「どうしてって。理由は無いけど。良く知った人だったんだ。友達だった。だから、会えるのなら会いたい。当然だろ?」
すると、魔女は顎に手を当てる。ゆり椅子を漕ぐのもやめる。何か含みがあってこんな仕草をするのか。彼女は、目を細め、明後日の方向を見やる。
「死んでいても、会いたい?」
ぼそりと、呟くように、彼女は言った。
「死んで、いるのか?」
やっぱり死んでいたのかと、ラゼルは落胆する。どうして生きていてくれなかったのかと、悔しさが込み上げて来る。
何故死んだ? お前が殺したのか? そう魔女に聞きたかったが、やめた。これ以上彼女の機嫌を損ねても何にもならない。そう思って。
せめて、コールの死をこの目で確かめるべきかと思う。
「それでも、会いたい」