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数日後、摘出した脂肪を最初の熊の皮にまとめているところ、小川の下流のほうから木の枝を踏む音が聞こえた。風に数人の男の声が交じって聞こえてくる。来客か、敵襲か。まだ分からない。私はオークの大木を背に屈み、左手に仕込み杖を握った。
「お、おやおや、お嬢さん。こんなところにひとりかな?」
チャラそうな鼻ピアスに先導されてごろつき風体の男が三人、広場の入り口に立った。
「そこから前に出ないでくださる? そうですの。私ひとりなもので……どうしても警戒しないといけませんので」
にたらにたら笑う鼻ピアスの後ろで、刺青の入った三人が顔を見合わせて笑う。もうこの時点で煮え湯をぶっかけてやりたいが、こちらはひとりだ。時機を外すわけにはいかない。慎重に、先頭と後続の位置を見極める。
「いやあ、お嬢さん。俺たちは遊び相手が欲しいだけでさ」
「前に出ないで、と申し上げましたが」
相手の表情にはまるで恐れがない。きっと女にひどい目に合わされたこともなく、この地で好き放題やってきたのだろう。
足もとの石をもう少しばかり相手方のほうへ蹴り込む。後続が広場の入り口に立ち、鼻ピアスが面倒くさそうに石をよけて前へ踏み込んだ。
その瞬間、私はオークの大木に沿って立ててあったつっかえ棒に拳をたたきつけた。棒は私と鼻ピアスの間に倒れてその陰からぐわっと吊った丸太が襲いかかる。
「おっと」
鼻ピアスはさっと身を翻して丸太をよける……と、その向こうにてこの原理の支点にしてあった木切れを跳ね飛ばして丸太はすり抜け、上に乗っかっていた倒木が落下し、ゴロツキどもの悲鳴が上がった。
「ぎゃあああ」
「があっ」
嵌められたと分かって顔を紅潮させる鼻ピアスは斜め前に躍り出た私の方へ向き直ろうとするも、散らかしておいた石を踏んでつんのめる。そこへ仕込み杖を抜いて突き刺してやった。剣は深く入りすぎて腹を突き破ってしまい、致命傷にはならなかったが、鼻ピアスは私にもたれかかって目を見開き、動きを止めてしまった。乱暴に突き飛ばすと苦しそうに血を吐きながら、悪かっただのもうしないからだののたまっている。
「危険性を見せておいて、信頼のないことですわよ」
なおもガタガタ抜かすその口に剣を突き込んでやった。
広場の外には脚を折った男と肩を砕いた男、そしてひとりは気絶していた。動けなくなった男どもは上手くしゃべれないまま震えているので、ひとりずつ、心臓を突いた。
しばらくして今日の獲物を担いでお兄さんが帰り、ひゃあ、と言った。四人分の死体を転がしていたので怖じ気づいたらしい。はじめてお兄さんが阿呆にしろかわいらしく見えた。考えてみれば毒気がない。女と見てもそういう気にはならないし、意外と初心なのかも知れない。