敬語おじさんと丼
「おっちゃんは丼好きか?」
「ええ、好きですよ。自分でも作ります。」
「丼かぁ、私は普通かな。大体量が多いから残しちゃうんだよね。」
丼物ですか。バリエーションも豊富で手軽、献立に困った時は非常に助かりますね。
「凛ちゃんなんでそんな事聞いたの? お昼が丼だったの?」
「ううん、違うぞ! テレビでやってたアン〇ンマンで出て来たから気になった!」
「ああ、アイツらね。何故か1人だけ丼物じゃない奴がいる3人組。」
なるほど、そんなキャラクターもいましたね。確かに他2人は〇〇丼なのに、1人だけ"どん"が敬称という何か闇を感じる関係性の3人組でした。
「梨花とおっちゃんは何丼が好きなんだ? 私は親子丼だ!」
「うーん、私も凛ちゃんと一緒で親子丼かな!」
「私は海鮮丼ですかね。この歳になると油はキツイですから、さっぱりと新鮮な魚介をワサビ醤油で食べるシンプルな美味しさ。そして寿司にはない独特の満足感がいいですね。」
そんな会話をしていると横から突然パツパツのおじさんが現れた。
「私は牛丼であります! ツユだくにして、生卵と紅生姜をトッピング、そして七味と醤油を少しかけて掻き込むのが至高であります! 早い、安い、美味い。三拍子揃った丼物の絶対王者であります!」
「きゃああああ!! いきなり話に入ってくんなムシズ!!」
そんな威嚇する梨花の反対から更にピチピチのおじさんが突如現れた。
「いやいや、私は断然カツ丼ですね! 香ばしいトンカツと甘辛い出汁の効いたふんわり玉子。サクサクのソースカツ丼なんかもいいですが、出汁の染み込んだ衣のジュワッと感がいいんです!あれこそ最強の丼物です!!」
「いやあああ!! お前ら普通に登場出来んのか!!」
「なるほど、おふたり共よく分かってらっしゃいますね。」
「うむ、カツ丼も良いものであります!」
梨花が嬉々として丼物について話すおじさん達に怯えていると、いつの間にか花島が梨花の隣に立ち、盛り上がるおじさん達を日曜のシリアスなドキュメンタリーでも見る様な険しい顔で眺めながら唐突に話し出した。
「梨花ちゃん、女性の私達には理解できないけど、何故か男性、特におじさんは丼物に対して並々ならぬ拘りを持っているのよ。カツ丼なんかだと最初に何切れ目を食べるとか漬物を食べるタイミングまで決めている人だっているわ。」
「花島いつからいたの!? 自然に入ってこないで!!」
今なお盛り上がっているおじさん連中を恐怖と少しの哀れみを帯びた目で梨花が見つめていると花島は話を続ける。
「……おじさんにとって丼物はパートナーなの。忙しい現代社会でお昼休憩は唯一の楽しみであり休息の時間でもある。出来るだけ早く美味しいものを食べる事。彼らはそこにある意味仕事よりも情熱を燃やしているわ。日本のファストフードといえる丼物はそんな需要に答える最適解なんでしょう。」
「先生はおじさんの生態研究でもしてるんですか??」
「まあ下手なこと言わなければ絡まれる事はないわ。おじさん達は放っておきましょ。」
しかし、爆弾は投下された。凛ちゃんが呟いた一言によって。
「うちはカツ丼嫌いだな! 揚げた物を煮るとか意味わかんないし、家で出てくるお昼で1番苦手かもな!」
凛ちゃんの発言に楽しそうに話していたおじさん達が急に静まり返る。凛ちゃんを無表情のおじさんが一斉に凝視し、危険な空気がお昼会に流れた。
……次回に続く
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