敬語おじさんと幼女
「ねえ、おっちゃん!」
「おや、何ですか?」
ぼんやり公園のベンチで昼休憩していたら、目の前に野生の幼女が現れました。子供の相手などした事のない私は敬語で返事をしてしまいます。
「何してんの??」
「ボーっとしてただけですよ。」
不思議なものを見るような目で幼女が私を観察しています。
「それ面白いのか??」
「どうでしょう?面白くはないと思いますけど。」
私の言葉を聞いて、意味がわからないと言いたげな顔で口を半開きにした幼女がフリーズしました。
「……おっちゃん変質者か?」
「いえ、違いますよ。」
私の言葉を聞いて安心したのか、小さく息を吐くと幼女はトタトタと遠くに走っていきます。
「なんだったんでしょう?危険ですねー。」
50歳のサラリーマンの私が公園で幼女と会話している図は、こっちが何もしてなくて事案になりかねない不安を抱かせます。
再びベンチに深く腰掛けて流れる雲を見ながら午後からの業務について考えていると近くに気配を感じました。
「おっちゃん、この子私の友達な!」
「…はじめまして」
幼女が幼女を連れて戻ってきました。これは新手の詐欺でしょうか?
「ねえ、凛ちゃん新しい友達ってこのおじさんじゃないよね?」
「このおっちゃんが友達だ!」
「凛ちゃん、おじさんは友達に出来ないよ」
「えっ!!なんでだ!?」
「なんでって当たり前じゃない。大人だよ?」
「なんで大人と友達になれないんだ?」
「だって、身長だって歳だって違うんだよ?」
「それって友達に関係あるのか?」
「だって…おじさんと友達の子なんていないもん!」
私の前では幼女達が「おじさんは友達に出来るのか論争」をしています。
「私も友達に出来ないと思います。」
「ほら!おじさんも出来ないって言ってる!!」
「おい!!おっちゃん裏切ったな!!」
多数決でおじさんは友達に出来ないが可決されました。しかし凛ちゃんは頭を傾げています。
「じゃあこのおっちゃんは何なんだよ!?教えてくれよ!?」
「それは私が教えてほしいんだけど…」
2人が得体のしれないものを見るように訝しげに私を見上げています。
私は一体何なのか。中々に深いその議題は私も興味がありました。
「おじさんも教えてほしいです。」
「なんでおじさんまで質問するんですか?!」
「あはは、おっちゃん面白いなっ」
「全然面白くない!完全にやばい人だよ!!」
なかなかこの子は面白いですね。キレのあるツッコミです。
「まずおじさんがいつからおじさんになったのかそれを知る必要があるかも知れません。」
「必要ありません!話しかけないで下さい!!」
「おじさんがいつから…」
「凛ちゃん!そんな無意味な事考えなくていいから!!」
悩むちゃんの体を揺さぶる友達の幼女はとても必死でした。
「もうあっち行こうよ!先生も知らないおじさんに近付かないようにって言ってたよ!!」
「知ってるおじさんだし大丈夫だ!」
「えっ知り合いなの?親戚の人?」
「ううん、さっきからずっとベンチで座ってる事知ってるんだ!知ってるおじさんだろ?」
「それはずっとベンチに座ってる知らないおじさん!」
私は知らないおじさん。とってもしっくりくる。
「正解。私は知らないおじさんです。」
「ほら!!おじさんもこう言ってるから離れよう?」
「うーん、でも知らないおじさんって事を今は知ってるぞ?これは知ってるに入らないのか?」
この子の考えは非常に哲学的ですね。知らないことを知ってる知らないおじさんは果たして知ってるおじさんなのか。
「おじさんも知りたくなりました。知ってる知らないおじさんの、正体を」
「すみません、話に入ってこないで下さい!」
「よし!!正体をつきとめるぞ!」
「もう、いや…」
私の昼休憩にある楽しみが出来ました。土日に公園に行くと小さな話し相手がやってきます。それはささやかで少し危険な話し相手です。
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