第四話(四)
何とか顔の熱もおさまり、僕たちは二人で談笑していた。
つゆりさんが今まで会った妖怪の話とか、僕がこの家に来てからあった出来事とか。
そうこうしている間に、ゆったりとした足音が廊下から聞こえてきた。そして、昼食をおぼんに載せて持ってきたばあちゃんが部屋の中に入ってきた。
「あらあら、もう仲良くなったのかい?」
「はい!にきくんが友だちになってくれました!」
まるで幼子のように、嬉しそうにつゆりさんが報告する。それを「そうかいそうかい」と目を細めてばあちゃんが聞いている。
僕は先程の自分の言動を思い出して、照れ臭くて明後日の方向を向くことしかできなかった。
「それじゃあ、後は若いもんに任せるとするかねぇ」
「……ばあちゃんは食べないの?」
「私は向こうでこの子たちと食べるから」
「ばあと食べるー」
「食べるー」
いつの間にか部屋に入って来ていた小鬼たちが飛び跳ねた。
「そういうこと。では、ごゆっくり」
小鬼たちと連れ立って、ばあちゃんが部屋を出て行く。
その際、ばあちゃんが意味深げに口元を上げたのを僕はばっちり見た。
……あれは絶対にバレている、な。うわー、後で何かいろいろと言われそう……。
思考を振り払うために、キンキンに冷えた飲み物を口に含む。
この後のことを考えると気が重くなるが、今は目の前の彼女との会話を楽しむことにしよう。
そして、楽しい時間というものはあっと言う間に過ぎてしまうもので。
昼食を終え、気づいた時には日が傾きかけていた。
つゆりさんの家には門限があるらしい。「そろそろ帰らないと」と彼女が席を立つ。
門限があるなんて今時珍しいな……いや、女の子がいる家庭ならそれが普通なのかな?
つゆりさんが帰るのを残念に思いながら、門の前で見送りをする。
家までとはいかずとも、近くまで送って行った方がいいんじゃないかと思ったが、彼女の家はここから五分もかからないらしい。見送りはここで良いよと言われた。
そのことに対しても、少しだけ残念に思ってしまったなんて、相当重傷だな。
「それじゃあ、にきくん。またね」
「またね」
最後に手を振って、つゆりさんは歩き出した。
その後ろ姿が見えなくなるまで僕は彼女を見ていた。
家の中に入っていくと、何か言いたげににこにこと……いや、にやにやとばあちゃんが笑っていた。
「……何、ばあちゃん」
「いやなに、にきちゃんって意外に純情なんやねぇ」
はっはっはっ。
ばあちゃんが豪快に笑う。
僕はかあっと顔に熱が集まった。
頑張って無心でいようと心掛けたが、ばあちゃんの追撃はその後もずっと続いたのだった。