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第十三話(二)

「主様のわからずやー!」

 ばたばたばた。怒り爆発といった様子で鳥が羽ばたき、あまりの勢いに羽が飛び散る。

 でも、僕は飛び散った羽よりもその鳥の顔の方が気になった。

 遠目から見たらただの小さな雀サイズの鳥。だが、よく見るとその顔は明らかに普通の鳥ではなかった。

 その小さな顔には普通の鳥にはあるはずの嘴がない。逆に普通の鳥にはあるはずのないものがある。

 とまあ、色々言っていてもややこしいだけなので、一言で言い表すとその顔は犬だった。

 垂れ耳の犬で、可愛いというよりはぶさいく面だ。ぶさかわなどではなく、本当にただのぶさいくである。

 こいつが一体何者かはわからないが、妖怪であることには間違いないだろう。というか、こんな面をした鳥がいたら逆に驚きだ。

 それに、普通の鳥がこんなにも話せる訳がない。……ああ、でも、インコは喋るんだっけ?でも、こんな流暢に喋れるインコなんていないだろ。

 そんな風に僕が分析している間にも、鳥は石灯籠に向かって何かを訴えるように叫んでいる。正直言って五月蝿いことこの上ない。

「だから、何度言わせればわかるのですか!」

「ねえ、ちょっと」

「早くしないと夜が明けてしまいますぞ!」

「もしもーし?」

「第一、貴方様は……ん?何だお前?関係ないものは口を挟まないでもらいたい」

 鳥の前で手を振ってみればやっと気付いてもらえた。

 だが、がるると威嚇されてすぐに顔を逸らされてしまった。

 鳥なのに獣っぽい威嚇かよという突っ込みはさて置き。

 ……うん、ちょっとイラッときた。

 キョロキョロと辺りを見回す。すると、手頃な大きさの石を発見した。

 ……まあ、仕方ないよな。

 心の中で自分を正当化して、その石を手に取る。野球なんて授業ぐらいでしかやったことはないが見様見真似で軽く振りかぶる。

「良い子は絶対に真似をしてはいけませんよっと」

 誰に言うわけでもなく、そう呟きながら僕は石を鳥に向かって投げた。

「ぐがっ!?」

 ビギナーズラック。どうやら見事当たったようだ。そのまま草むらへと落ちていった鳥の元へと再度向かう。

「もしもーし、生きてるかー?」

 今までの経験上、妖怪は人間よりも丈夫だから大丈夫だとは思うが。

 しゃがんで地面でのびている鳥に声を掛ける。すると、ぱちりと目を覚ました。

 ……よかった、これで打ち所が悪かったらどうしようかと思った。

 内心で密かに安堵していると、むくりと鳥が起き上がった。

「いたたた……ん?お主は何者だ?」

「いや、それは僕の台詞なんだけどさ……。僕は、にき。この家主の孫だよ」

「ということは、まつな様のお孫様!?これはこれはとんだ御無礼を!」

 鳥は羽を地面について頭を下げた。多分、土下座をしているのだろう。

 さっきはイラッときてあんな行動を取ってしまったが、土下座をしてもらいたかったわけではない。ましてやそんな趣味もないため、慌てて頭を上げさせる。

「いや、そういうのはいいから。君がどういう妖怪なのかと、あと一体何で騒いでいたのかを教えてほしいんだけど」

 僕の言葉に鳥がゆるゆると頭を上げた。

「某、ふらり火と申すモノです」

「ふらり、び?え、火の妖怪なの?」

「はい、左様でございます」

 火の妖怪……とてもそうは見えない。見た目はただの犬面鳥だし……。うーん、火を吹く妖怪なのだろうか……。

 顎に手を当てて思案していると、ふらり火は元から情けなさそうな顔を更に情けなくした。

「まあ、こんな見てくれじゃあ信じ難いですよね。今は主様を身に纏っていないので……」

「主様?」

「はい。某の本体です。そちらにおられますでしょう?」

 ふらり火が翼で示した先は僕の後ろだった。

 振り返って見遣れば、そこにあるのは明かりが灯った石灯籠で――

「え、この石灯籠が主様なの?」

「違います。この火が主様です」

「……え、こっち?」

「左様でございます」

 ふらり火の言葉に頷くようにゆらりと火が揺らめいた。

 ……マジか。まさか火が主だとは……いやこれ言われなきゃ絶対にわからないって!

「主さんが火なら、君のことはふらりって呼んだ方がいい?」

「いえ、ふらり火でいいですよ」

 え、いいの?火を纏ってないのに?

 そう思ったが口には出さなかった。

 今はふらり火の話を聞かなくては。

「某たちは様々な場所をふらりふらりと旅しているのです。この町に来た際は、度々この家の石灯籠の中で休ませてもらっておりまして。暫し休んだ故、夜が明ける前に飛び立とうと思ったのですが……主様が出て来てくださらなくなってしまって」

「主さんが出て来ない心当たりは?」

「それがさっぱり」

 主さんと普段一緒にいるはずの彼にふるふると首を振られてしまえば、こちらとてお手上げである。初対面で話もしたこともない、寧ろまともに会話ができるかもわからない相手のことなどわからなくて当然だ。

 けれど、乗りかかった船という言葉もあるし、このまま放置しておく訳にもいかない。何より、僕の安眠のためにも早急に問題解決をしたいものだ。

 うーん、と一人と一羽で首を捻る。

 ふと、僕はあることに気がついた。

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