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第十二話(三)

 食べて遊んでよく眠る。僕は何処にでもいる子どもだった。ただ一つ、他の子どもと違ったのは、その遊び相手が妖怪だったということだ。

 僕は妖怪たちと一緒になって悪戯したり、庭を駆け回ったり、妖怪たちの絵を描いたりしていたらしい。

 けれど、ある日のこと。僕は突然妖怪が視えなくなってしまった。

 理由はわからない。でも、ばあちゃん曰く、「視えなくなる人は視えなくなる」とのことで、幼い子どもは特にそういうことがあるのだという。

 突然妖怪が視えなくなってしまった僕は、酷く泣きじゃくったらしい。それはもう手に負えない程に。

 そして、幼い僕は言ったのだ。

 もうここにはいたくない、と――。


「思い出したかい?」

「……うん、何となく」

 頭にかかった靄が少しずつ晴れていく。全部ではないが昔のことを思い出して来た。

 そうだ、確かに僕はそう言った。

 昨日までは視えていたのに。声も聞こえていたのに。

 でも、その日は全然姿が視えなくて。声も聞こえなくて。

 呼んでも探しても誰もいない。誰も誰もいなかった。

 そのことがとても寂しくて、とても悲しくて――怖くて辛くて仕方がなかった。

 その気持ちから逃げ出したくて、僕はこの家から離れたいと思った。もうここにはいたくないと泣き叫んだ。

 妖怪たちと楽しく遊んだ記憶も、視えなくなった辛さも、全て心の奥底にしまったのだ。

 思い出さないようにして、そして、忘れてしまった。祖母の家には行きたくない。ただその思いだけを残して。

 それほどまでに、僕にとってはショックなことだったのだろう。

 こうして僕は祖母の家に行かなくなった。当たり前にそこにいたモノが突然いなくなる。その悲しい気持ちを思い出したくなかったから――。

 僕がここへ来て妖怪の存在を知った時、すんなりと受け入れることができたのはそういうことだったんだろう。

 何故なら、僕は知っていたのだ。彼らの存在を。

「……そっか、僕は昔から妖怪が視えていたのか」

「まさかにきちゃんがまた妖怪が視えるようになるなんてねぇ。私も驚いたわ」

「それならそうと言ってくれればよかったのに」

「折角久しぶりに孫に会えたっていうのに、またここにはいたくないって言われたらと思うと、ねぇ……」

 眉尻を下げて少し困ったようにばあちゃんが言った。

 ……まあ、そういうことなら仕方がないか。

 ああ、そう言えば、ばあちゃんの問いかけに答えていなかったな。

「ねぇ、ばあちゃん」

「なんだい?」

「僕はこの家が嫌になんてなってないよ。だから、夏休みが終わった後も……またここに来てもいいかな?」

 僕が訊けば、ばあちゃんは泣きそうな顔をした。でも、それも僕が見間違えたんじゃないかと思うぐらい一瞬のことで。

「勿論。誰も拒みはしないよ。にきちゃんが来たいと思うならいつでも来ていいんよ」

 皆、待っているからね。

 そう告げたばあちゃんの笑顔はいつも通りだった。


 *


 話が落ち着いた頃。

 ぐううううと僕の腹が盛大に鳴った。うわー、恥ずかしい……。

 お腹をおさえて僕は呻いた。

「あー、お腹空いた……」

「まあ、二日も寝ていたらそりゃお腹も空くだろうねぇ」

「ふ、二日?」

「そう二日。その間つゆりちゃんたちがお見舞いに来てくれたんよ」

「そっか……今すぐつゆりさんに連絡してもいいかな?」

「そうやね。目が覚めたこと伝えてあげた方がいいわ。まあ、今の時間帯だと、つゆりちゃんのお父さんが出るかもしれないけど」

「うわぁ……」

 あのお父さんかぁ……。代わってもらう前に切られそうだな……。

 でも、ここは少しでも早く連絡してつゆりさんに安心してもらいたい。けどなぁ……。

 僕が葛藤していると、部屋の入り口からひょっこりと父さんが顔を出した。「もういいか?もういいか?」とこちらの様子をそわそわと窺っていた。

「あー、どうしよう……」

「にきー、父さんとも話をしよう」

「後にして」

「……はい」

 何やら父さんがしょぼんと落ち込んだが気にしない。今はそんなことよりもつゆりさんだ。あー、ほんとどうしよう……。



 携帯端末を片手に悩む息子と、息子にかまってもらえずに肩を落とす父。そんな親子の様子を見て笑う祖母。久方ぶりに揃った家族の姿がそこにはあった。

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