第十一話(七)
気づいた時には、僕は石碑の前に座り込んでいた。
傍らでは、元の大きさに戻った管狐が「あー、疲れたー」と怠そうに唸っている。
「にきくん!」
「若!」
僕に気づいたつゆりさんと河童が急いで駆け寄ってきた。
「あ、二人とも。心配掛けてごめ――」
僕の言葉は途中で遮られた。
あたたかな体温に包まれる。華奢な肩は震えていて、微かに鼻を啜る音が聞こえてきた。
「よかった……本当に、よかった……」
涙混じりのその声が心地よい。自分以外のあたたかな体温に安心する。
自分のことを心配してくれている相手にそんなことを考えてしまうなんて、不謹慎この上ないなと僕は自分自身に苦笑した。
「心配掛けてごめんね」
つゆりさんを落ち着かせるようにぽんぽんとその背中を叩く。
暫くして落ち着きを取り戻したつゆりさんが「失礼しました……」と恥ずかしそうに僕から離れた。
パッと離れたぬくもりに少しだけ残念に思ってしまった自分に気がついて、恥ずかしくなったのはここだけの話。
「わ、若……」
震えた声で話しかけてきたのは河童だった。
「話はお嬢とクダから聞きやした……おいらを追いかけてくださったせいでこんなことになって……本当にすみません!」
河童はがばりとその場で土下座をした。頭のお皿がそれはもうよく見える程の低い低い土下座である。
「ぷぷー、これはまた見事な土下座だね」
「いけませんよ、クダ」
河童を見て笑う管狐をつゆりさんが窘める。「はいはい、黙ってますよー」といじける管狐を横目に、「すみません。続けてください」とつゆりさんが申し訳なさそうに先を促した。
それでは、と咳払いをして僕は河童に向き直る。
「顔を上げてよ、河童」
「若……」
「僕たちが気になって追いかけてきちゃっただけだしさ。こんなことになるなんて普通誰も思わないだろ。だから気にしないで」
「わ、若ー……」
「まあ、酒を飲むのは程々にしてもらいたいけど……」
「違うんっす」
「ん?何が?」
あのー、そのー、と頭のお皿を撫でながら河童が口籠もる。何か言いにくそうにしている河童に、「どうしたんだ?」と僕は首を傾げる。
河童の代わりに口を開いたのはつゆりさんだった。
「正確に言うと河童さん、酔っ払っていなかったんです」
「は?」
「おいらが飲んだのは酒じゃなくてサイダーなんすよ。祭りの雰囲気に当てられて……何か、その、酒を飲んだみたいな感じについつい上機嫌になっちまって……」
「酒じゃなくてサイダーって……なんだよ、それ……」
お前なぁ、と続けようとしたが、呆れのあまり気が緩んでしまったのだろう。
皆の驚いた顔が見えたと思った時には、ぐらりと身体が傾いていた。
……ああ、今日これで三度目だ。
土の感触を味わいながら、そんなことをぼんやりと考えた。
そして、僕はそのまま意識を手放してしまったのである。




