第十一話(四)
それから僕たちは色々な屋台を巡った。
だけど僕もつゆりさんも、幼い子たちに混じって輪投げや金魚すくいをするような勇気はなかったし、祭り櫓の周りで踊っている人たちの輪に入っていくような活発さも持ち合わせていなかった。
花より団子。わたあめを食べたりラムネを飲んだりして、どちらかといえば食べることに徹していたような気がする。
それでも楽しかったのは夏祭りの空気に当てられたからだろうか。それともつゆりさんと一緒にいたからだろうか。
多分その両方だな、と僕は独りごちた。
そして、楽しい時間というものははあっという間に過ぎてしまうもので。
祭りの終わりを告げるアナウンスが流れる。音楽は止み、皆散り散りと帰り始めていた。
「……そろそろ帰りましょうか」
「……そうだね」
名残惜しいが仕方がない。
僕たちも帰るためにゆっくりと歩き出そうとした。けれど、つゆりさんがふと何かに気づいて歩みを止めた。
「どうしたの?」
「あれって河童さんですよね?」
「うん?」
ほらあそことつゆりさんが指差す方を見遣れば確かにそこには河童がいた。
あっちへふらふらー、こっちへふらふらー。その足取りは千鳥足で見ていて非常に危なっかしい。
「あいつ、酔っ払っているのか?」
「ちょっとあれは心配ですね」
「そうだね。……行く?」
「行きましょう」
河童を回収することを決めた僕たちは人の波に逆らって歩き出した。
河童に直ぐに追いつけると思ったのだが、人混みをなめていた。特に走り回る小さな子どもたちを避けるのが大変だった。彼らは前を気にすることなく我が道を行くと言わんばかりに突進してくるから。
河童が神社の竹林へと入って行ったのは見たのだが、その中に入るのは憚られた。
昼間でも入ったことのないそこは真っ暗で人気がなくてただただ不気味で。
酔っ払いに言っても無駄と思おうが、「何でこんなところに入って言ったんだよ!」と文句を言いたくて仕方がなかった。
それに、何となく嫌な感じがする。「つゆりさんは戻った方がいいよ」と言ったけれど、彼女は河童が心配だからと首を振った。
――普段はあんなだけど、つゆりって意外と頑固なんだよねぇ。
と、前に管狐が言っていたのを思い出した。ああ、確かにそうかもなと心の中でその言葉に頷いた。
「足もと気をつけて」
「はい」
懐中電灯なんて持っているはずもなく、携帯端末の懐中電灯のアプリで足もとを照らしながらゆっくりと歩いて行く。
落ち葉があまり積もっていない小道を進んでいけば、開け放たれた空間へと辿り着いた。
その空間の中央に大きな石碑が鎮座していた。
何やら文字が刻まれているが、くずし字であるため何と刻まれているのかわからない。
その傍らに見知った姿を見つけて、僕とつゆりさんは驚きの声を上げた。
「か、河童!」
「河童さん!」
河童がうつ伏せで倒れていた。
酔っ払って寝ているのか?それとも、また頭の皿の水が乾いてしまったのだろうか?
干からびそうになって地面に伏していたいつぞやの日のことが僕の頭の中を過ぎる。
急いで駆け寄ろうと一歩足を踏み出す。だが――
「え?」
地面につくはずだった僕の足は、何故か空を切った。




