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第十一話(二)

 浴衣を着て急いでつゆりさんの家へと赴く。履き慣れていない下駄は歩きにくかったが、早く早く、と気持ちが急いた。

 つゆりさんの家に着くと管狐が玄関のところに座っていた。「もうちょっとで支度が終わるから待ってて」だそうだ。

 管狐とたわいない話をしていると――というより、管狐にからかわれていると――、ぱたぱたと家の中から足音が聞こえてきた。

「それじゃあ、あとは任せたよ」

 管狐が消えたちょうどその時、がちゃりと扉が開いた。

「お待たせしました」

 現れたのは浴衣姿のつゆりさんだった。

 夜空のような漆黒の生地には色鮮やかな赤と白の花の模様があしらわれており、その花びらのふちは黄色く、花姿は波打つように反り返っている。

 帯は淡い山吹色で浴衣に映えていた。

 髪も綺麗に結われており、そこには薄紅色のとんぼ玉の簪が挿されている。

 その姿がいつもより大人っぽく見えて、僕はぼうっとつゆりさんを見つめてしまった。

 すると、唐突につゆりさんがぺこりと頭を下げた。

「あの、お待たせしてしまってすみませんでした。……あと、急に誘ってしまってすみませんでした」

「あ、いやいや別に全然いいよ。寧ろ僕得というかなんというか……」

「え?」

「ああいや気にしないで。でも、何で手紙だったの?」

「口伝えだとクダの悪戯じゃないかってにきくんが思うんじゃないかなぁと思いまして」

「ああ……」

 確かに一瞬そう思った。

 なんたって管狐に限らず、妖怪には悪戯好きな奴が多い。奴らにとって僕をからかうことは最早日常茶飯事なのだ。いや、僕にとって奴らにからかわれることは最早日常茶飯事なのだ、と言った方が正しいのかもしれない。悲しいことに。

「電話してくれればよかったのに」

「……ああ!」

 その手があったと言わんばかりにつゆりさんがぽんと手を叩いた。

 思わず呆れ顔を浮かべてしまった僕に、しゅんと落ち込んだつゆりさんが申し訳なさそうに小さな声で言う。

「すみません……友だちに電話をしたことがなくて……」

「え、あ、いや、そんなに落ち込まなくても……。それよりもさ!手紙のことなんだけど、一瞬これも管狐の悪戯なんじゃないかなって思っちゃったからさ、一応名前も書いておいてほしかったかなぁ、なんて……」

「ごめんなさい。名前を書かなくても、にきくんならわかってくれるんじゃないかなぁと思いまして」

「……うん、いやまあ、わかったけど」

 僕になら、と言われて嬉しくなり、そんな単純な自分に気がついて気恥ずかしくなった。けれど、言った本人は特に気にしていないようだ。

 意識しているのは僕だけか……。

 若干悲しくなりながらも、神社を目指して歩き始める。

 ――浴衣似合っているよって一言ぐらい言えばよかったな。

 道中つゆりさんの姿を見ながら考えたが、今更言うのも憚られて結局言えずじまいに終わった。

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