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17才「セブン」

作者: 縄奥


父親の仕事の関係で転校してきた俺は初日から何かに巻き込まれてしまった…

新しい街で学校で俺を待っていたものは・・・・・・




◆◆◆◆◆1番目・転校初日




 高校二年になった頃、俺は父親の仕事の関係で長年住みなれた街を両親と妹の4人で離れることに……

編入試験にも何とか合格したもののその高校は以前居た街の高校とは違っていて外国風の造り

そう、古い言葉を使えばモダン… 異国情緒溢れると言った感じな割りには学生服着用と

ちょっとアンバランスな感じに戸惑ったが緑に囲まれた校舎は前の工業地帯とは打って変わって綺麗

仲良しだった幼馴染や同級生たちとの別れは辛いものがあったが、ドラマ見たいに空は繋がってると

自分に言い聞かせて… 前は大きな一軒屋に住んでいたがここには、広かった庭も家を囲んでいた

何も無い5階立ての集合住宅で俺の部屋は3畳間の納戸に、来年高校受験の妹に4畳半の部屋

俺は大学には行くつもりはにいから受験を控えた妹には必要な空間だと思った と言うより

8畳のLDKに6畳の両親の部屋と4畳半の妹の部屋に3畳間の納戸しかないのだ。


 まぁ こんな感じで新しい生活が始まり、俺も身を引き締めて初登校した訳なんだが

坂の多い街で家からは山の方へ登山するような通学路が俺を悩ませた…

確か北海道にこんな街があったとテレビの旅行番組を思いだしながらルンルン気分では無いが

左側に海を見ながら右側の急な斜面を一歩 また一歩と足を引きずった…

この街の人間は毎日こんなところを行き来しているのかとゾッとしたが帰りは楽チンかもだ

調度、学校の正面から真っ直ぐに海に向かって伸びる片側1斜線の道路はまるで

城下町を思い起こす構造だ… 高校の正面の道路を挟んで広がったような街

湾型で山々に覆われ海からの潮風を感じることが出来る 以前の工業地帯と違いすぎている

以前の街は風が吹く度に街のあちこちから錆びた鉄の匂いや塗装の匂いがした鉄に生きた街だ

学校に向かう俺が珍しいのかチラチラと見られる視線が辛い……

それほど大きくない街だからか或いは俺がハンサムだからか…(笑)

だが、その意味が解るまで時間を必要としなかった


 真っ直ぐな学校へ向かっている時だった 道路の右側の歩道を歩いていると前の方から

レースの傘が飛んできて追い駆けるように坂道をヨロヨロとワンピース姿の女性が下って来た

俺は咄嗟にその傘を受け止め同時に坂の上から降りて来た女性をも抱きとめた!

ススキ色のワンピース姿の女性は俺の胸の中に顔を埋めた… いい匂いがした…

息を途切れさせ俺から離れるた瞬間 女性は俺に一言!

「お爺さん!」


 俺はそう言われ女性から離れ 相手の顔を見た瞬間 愛が老婆であるこに気付いた…

何故か、俺は相手の女性を見るや否や 胸の奥でドキッとしてしまった


 お爺さん! 相手の女性は俺を見ると目を潤ませ俺をジーッと見つめていた…

俺は何のことだか解らずに女性の両手を振り解こうとしたが力一杯に掴まれた腕は動かなかった

すると 坂の上の方から誰かが勢いよく駆け下りて来て 俺と女性の横、車道側で両手を膝に

荒い息を整え始めると顔を上げ、俺を見た瞬間、その女性もまた絶句してしまった

俺の顔を見て絶句し無言になった女性に彼女と傘を預けると俺は学校へと急いだ

中々 俺から離れようとしなかったが時間が無いことを理由に2番目の女性に彼女を託した

そして、正門を通過して校舎の中の教室へと地図通りに辿り着くものの周囲の目が異様だった

体育館へ集合するようと放送が入り俺は 周囲にチラチラ見られながら着いて行った…


 体育館に整列した瞬間、俺を見た生徒達からどよめきが……

気分悪い奴らだと演壇の方を見た瞬間だった!

私立○○高校創立者と大きく書かれた文字の横に それはあった!

どう見ても… どう見てもその大きなパネルに張られていたのは、俺だった…

似ていると言うより瓜二つかも知れない… 整列していた生徒達は俺を中心にして円を描いた


 先生達から整列の声が発せられたが俺を取り囲んだ生徒達の耳には届いていない様子だ

俺は、この学校の創立者に瓜二つだった…

そして入り口の方からさっきのワンピース姿の老婆が駆け寄り 2番目の女性が…

ワンピース姿の女性は両手を伸ばし涙を零しながら俺の方へと向かって来た

演壇の上に掲げられた軍服姿の巨大な写真 そして俺に向かって来た品のいい老婆…


 周囲から聞こえる理事長との声 演壇から慌てて降りて来る先生達

俺は転校初日から何かに巻き込まれた!


 そんな気分だった……





◆◆◆◆◆2番目




「お連れしました! さぁ! 入ってください~」


 俺は今朝のお礼が言いたいと最上階にある理事長室へ担任の先生に案内されて連れて来られた「さっきは驚かせちゃったわね♪」

 理事長室に入ると真っ先に窓辺の真っ赤なバラに目が行くほどキラキラと光っていた

モダンな布地の木目調の応接セット 何処と無く異国を思わせる雰囲気…

分厚い真っ赤なバラの刺繍のじゅうたんは踏まれるのを拒むように その赤さを見せ付ける

バラの刺繍を避けるように一番奥のレースの室内カーテンを潜るとススキ色のワンピースの彼女が

俺は正直、彼女(理事長)のことが気になっていた…

年の頃は優に70歳を超えていると思われる彼女の瞳はくすむことなく輝きを俺に見せる

俺は子供の頃に大好きだった御婆ちゃんを亡くしていた 御婆ちゃんっ子だった……


 あの時… そう あの時 あの坂道で彼女を受け止めた時の匂いが俺の忘れかけていた記憶

その記憶の扉を開けてしまったらしい……

大きな木目調の机の向うから俺を見つめる彼女の優しい瞳 俺は知らず知らずに引き付けられた…

 さぁ! こっちへ! こっちへ!

「俺を机の前ではなく自分の真横の椅子へと手招きした理事長」


 俺は引き付けられるように無言で彼女の横のフカフカの椅子に座ると

彼女は 大きな机の引き出しの中から 古びたアルバムを出し そっと広げると俺に見せた

俺にアルバムを見せながら少しずつ俺の方に近付いてくるのが解った……

嬉しそうに笑みを見せる彼女の頬は次第に近付き俺の頬と数センチまで……

俺は悪い気もせずに、アルバムを指差しては教える彼女の顔を写真を見ながらチラチラ見る

俺が見ると彼女も嬉しそうに俺と目を合わせる… 不思議な時間を過ごしていた


 彼女の旦那さんになるはずだった学校の創立者は彼女の許婚で第二次大戦期に学徒出陣で戦地へ

彼女は夫婦メオトとしては一日も過ごさずに旦那さんになるはずの彼を見送ることに

そして、添い遂げることも無く、戦死… それを哀れんだ彼の両親が彼女を幼女に全ての財産を

彼女は夫婦になれなかった亡きおっとに人生を捧げるたに一人で生きて来たと聞かされた


そして、日本は空襲を受け焼け残った一枚の写真は彼女と夫婦になるはずだった彼が17歳の頃の

そう、創立者として掲げられている彼が17歳の時の写真……

昔の街並みを思い出しては楽しそうに俺の真横で話す彼女の左肩を何故か抱いて引き寄せた俺

その時の俺は、誰かもう一人の俺が、俺の中に居たように思えた……

彼女もまた、そっと俺の左胸に頬寄せてきたのに違和感もなく自然の流れだった……

その瞬間、彼女は静かに涙を俺の学生服に伝えた……

守りたい… 彼女を! 何故か俺の心に芽生えた彼女への想い 言葉にならない想い


 あれから二人は急速に親しくなった と言っても疚しい関係ではなく自然に引き合う何かに

抵抗しなかったと言う方が正しいかもしれない

俺は彼女に会うことが日々の楽しみになっていた まるで恋人にでも会うかのように

彼女の自宅は学校の裏にある森に囲まれた静かな洋館 白い窓枠が太陽の光に眩しいほどで

手入れされた芝生はフカフカで建物の周りを真っ赤なバラが陽の光に負けじと輝いている

休みの日には彼女と手を繋いで洋館の横にあるベンチで1日中過ごすことも……


 彼女には家族はいない 人生を夫婦メオトになれなかった彼に捧げたためだ

俺には彼女の人生が正しいいのか間違いなのかは解らないが 俺の目の前に彼女が居る

ただそれだけ…… 俺の前にいるのは優しく微笑む彼女の笑顔

壊れそうなほどにか細い彼女を支えることが今の俺の人生 そんな気がしていた…

次第に学校でも俺と彼女の関係が噂になった その都度 二人は世間からの非難に耐え支え合った


 「疚しい関係じゃないのは解った! 解ったが世間の目があると怒鳴る担任……」


 問題は表面化 俺は彼女と引き離された! 俺の両親は学校に何度か呼ばれた……

都度、頭を下げる両親……

俺がどう言う悪いことをしたんだーー!! 家で両親に責められ耐え切れなくなった俺は

知らず知らずのうちに彼女の家に… 彼女に気付いて欲しい! 俺はここだよ! ここに居るよ!

だが、彼女と会うことは止められている… せめて… せめて… 彼女と過ごしたベンチ

ここなら彼女にも誰にも見付からない 俺はベンチに頬を寄せるようにうつ伏せに

止まらない涙がベンチを伝う… あの時の彼女のように 俺の学生服に涙を伝えたあの時のように

 俺の涙は頬からベンチに伝わった… 彼女に会いたい! 会いたいのに! 会いたいのに!

彼女の人生の少しだけ 俺にも解った気がした…… 会いたくても会えない苦しみや辛さ

戦争に引き離された二人……


 そして今、再び彼女と俺を引き離そうとする世間……




◆◆◆◆◆3番目・愛してる




彼女は生まれる前から既に結婚を親から決められていた…

今なら考えられない話しだ…

生まれる前から決められていた見知らぬ人との結婚 華族たちの欲望が欲望を生みそして

それは未だ生まれぬものへと広がりを見せる勢いに関わる者達は飲み込まれていった時代

生まれる前に決められていた結婚…


 彼女が大人になる前に戦争へ連れてゆかれた彼女の見知らぬ婚約者…

そして戦死… 空襲… 彼女の両親は炎に飲み込まれ帰らぬ人に

彼女は戦死した婚約者の家に引き取られ実子のように可愛がられたが その両親も他界…

何故、私は生まれて来たんだろう……

どうして私は一人で生きているんだろう……

そして、彼女は引き取られた亡き養両親から莫大な財産を受け継ぎ この高校を設立…

華族制のなくなった彼女は自由を手にしたが同時に全てを失った……

養両親の最後の言葉…… このお金で幸せになって欲しいと養父がそして後を追う様に養母


 一枚だけこの世に残ったセピア色の写真…… 俺とそっくりな顔立ちの婚約者

一人残された彼女は何を想い何を考え何を見て来たのか俺には解るような気がする

演壇の上に掲げられた大きな一枚の写真… 創立者は彼女なのに婚約者の写真を掲げる彼女

たった一人でこの大きな学校を守り 世間から財産を一人受け継いだことでのバッシング

近付く男達から自らを遠ざけ ひっそりと生きて来た彼女を俺は守ることが出来ない…

もどかしさと彼女を苦しめる世間が憎いと心の底から噴出しそうになる俺の心


 俺は眠ってしまったことに気付く…

ボーッとする頭を起し辺りを見ると そこには優しい彼女が揺り椅子に身体を任せていた

彼女の家の彼女の部屋… ベットに居る俺に掛けられた彼女のカーデガン

俺の心を和ませるように俺を包み込む彼女の香り…

その時、自然に ごく自然に出たことば… ○○○… 何故かは解らなかったが

確かに俺は呼んでいた 彼女の名前を… 消えてしまいそうなほど小さな声で……


 呼ぶ俺の声にフッと目を覚ました彼女は俺を見ると優しく微笑み俺の方へ……

ベットの中に座る俺のところに来て嬉しそうに頬寄せ甘える彼女

そっと彼女の背中に手を添える俺…… そして、初めてのキス 彼女が俺を見上げた時

彼女のオデコにそっとしたキスは彼女を泣かせてしまうことに……

彼女の頬にそっと手を沿え優しく撫でると彼女は眠るように俺の上に顔を埋めた……


 彼女の頭をなでる俺は真っ赤なバラの花びらに吹き付ける優しい風のように

触れると落ちてしまいそうなほどに……


 彼女のことを愛していると悟った俺だった……




◆◆◆◆◆4番目・完了




 愛してる! 愛してる… 一言の言葉の重みをジワジワと感じる俺だった

彼女に伝えたい! だけど気持ちを、心を伝えれば彼女の苦しみは増すのは手に取るように解る

 彼女を愛してる… 一言が俺を苦しめる…

お前は単に演壇の人に似てるだけなんだよ! 目を覚ませ! 相手は75歳なんだぞ!

「俺の心を容赦なく痛めつける世間」


 俺は! 俺はあー! 年齢を愛してるんじゃなーーーい!!

俺はあー! 俺はあー 彼女を! 彼女を愛してるんだあぁぁーーー!

心の底から声にならない声が俺自身を多い尽くすような教室の机の前 担任の冷たい視線

あざけ笑う同級生たち 耳に刺さる彼女への中傷…

俺はどうなってもいい! 彼女を汚すな! 彼女を侮辱するな! 彼女を笑うんじゃない!!

何も聞こえない! 何も見たくない! 俺は… 俺は彼女の声を聞き 彼女だけを見ていたい

「やめろおぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」


 俺は教室の中で席を立ち大声を出し叫びながらその場を逃げるように離れた……


 俺はフラフラしながら理事長室のドアの前に……

中から聞こえた声に 一瞬身体をビクつかせ立ち止まる

「あの子を転校させるしかないんです!」


 俺の母親の声だった…

彼女を責めるように声を荒げる母親、同時にドア越しに立つ俺をも責める母親の声

「アナタが唆してるんじゃないですか!」


 ごめんよ! ごめんよ! 俺さえ生まれて来なければ! 俺さえ生まれて来なければ!

俺はドアを蹴破り中へ夢中で走ると叫んでいた…

俺さえ生まれて来なければあーーーーー!!

4階の理事長室の窓際のバラの花ビラは部屋中に舞うように飛び散った!

俺は窓を開け彼女と母親の見ている前で飛び降りようとした!


「ヤメテー! やめて… やめて… お願いだからぁー!」

俺の身体に必死にしがみ付いた彼女の一言が俺の心を静止させた……

「もう一人になるのはイヤァーーーーーー!!」


 お願いよぉー! 一人にしないでぇー! お願い! お願い!

もおぅ! 一人は… 一人は嫌なのよおおぉぉぉぉーーーーーーー!!!

「彼女は必死に俺にしがみ付いて泣き叫んだ…」


…………………


 もおぅ! ホントにバカな子なんだから~ もう… もう母さん知らないからね~♪

全く! 大変な子に育っちゃったわ! いいわよ! そこまで想ってるなら…

母さん! アナタの味方だからねっ! 大丈夫よ! 父さんは母さんが話すから!

息子を… 息子をよろしくお願いします!

「母親は俺にしがみ付く彼女を見て頭を深々と下げると理事長室を出て行った」


 俺は飛び降りるのをやめ出窓から離れ彼女のことを抱き起こそうと顔を近づけた瞬間

「バシーーーーーン!」


 初めて俺に見せた怒り顔の彼女は俺の頬を平手打ちして両手で顔を覆い泣いてしまった

両手で顔を覆い泣く彼女の両肩をそっと抱いて俺の胸元へ行き寄せる…


 ごめん! もう馬鹿なことはしないから… 泣かないで… ゴメンよ…

彼女を抱きしめながら頭を優しく撫でた俺だった

窓から拭いた風は辺りに散った真っ赤なバラを舞い上がらせ二人を覆い隠した……




 【白い教会… 汝はこの男を生涯の夫とし苦しい時も病める時も……………】


 俺は彼女と○○年 ○月 ○日 17歳と75歳で彼女と結婚した

彼女は翌年帰らぬ人に… そして体育館の演壇の上には2枚の大きな写真が……


 彼女の亡き婚約者の写真に並べられた彼女の写真


 俺もようやく彼女を追い越し76歳になった 彼女の亡きあと一人で彼女の霊を弔って

人が人を愛しむ心は時代ときを経ても尚 生きて行くものだと信じて……


 俺の目の前にはいつだって 優しく微笑む彼女がずっと居てくれた

だから 俺も一人で生きてこられた 彼女と同じ人生を歩むことで 本当の意味で一つになれた そんな気がした……


 【病院】


 理事長! しっかりして下さい! 理事長!! 先生 先生! 理事長がぁ! 理事長があー!


 ピイィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ○○年 ○月 ○日 ○○高校3代目理事長没


 彼女とあの坂道で出会った月日つきひの朝だった……


 彼女のレースの傘は今も理事長室の部屋の隅にひっそりと……


 完了


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