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Butterfly  作者: 姫
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姉にそそのかされて

家に帰ると、舞香はまだ帰ってきていなかった。

まあ、関係ないか。

ソファーに腰を掛け、スマホを取り出す。

大学生活にも、女としての生活にも慣れてきたので、

そろそろバイトを始めようと考えていて、求人サイトをチェックし始めた。

「引っ越しなんて日給がいいんだよなぁ。でも今の俺は体力ない女だから厳しそうだしな…」

なかなかいいのが見つからない。

無難なコンビニなどのバイトは時給が安いのでためらってしまう。

「ダメだ、いいのがないや」

スマホをテーブルに投げると、テーブルの上には裕哉が載っているLaLaが置かれていた。

見たくないと思ったのに、手は無意識にページを捲っていた。

何度も見た自分が視界に入る。

「読者モデルって給料いいのかな…」

そう呟いてから首を横に振った。

「何をバカなことを言っているんだ。仮に給料がよくてもやるはずないだろう」

俺には無縁の世界だ。

あれは偶然、仕方なくやったことだ。

すると、そのタイミングで舞香が帰ってきた。

「裕香、いたんだ」

「ああ、お帰り」

「あれ、見てたの?」

舞香が開いてあったLaLaに気づいたので、慌てて閉じた。

「な、なんとなく開いただけだよ」

舞香が「ふーん」と言いながらニタニタしている。

この顔はロクでもないことを言ってくるときの顔だ。

面倒くさいことになる前に自分の部屋に行こう。

立ち上がろうとすると、舞香がとんでもないことを言い出した。

「裕香、読者モデルやらない?」

あまりにも突拍子がなかったので、呆気に取られてしまった。

「は?」

「さっき奈緒美さんに呼ばれてね、裕香に対しての反響が大きかったんだって。だから姉妹でやってほしいって」

裕哉は即答した。

「嫌だ!」

「なんで?反響が大きいのは本当だよ」

「あんなの俺じゃない。それに俺はそういうのに興味ない、何度も言ってるだろ!」

なんでこの子はこうやっていつも否定するんだろう。

一気にいくとへそを曲げる。

一つずつひも解いていこう。

これが舞香の作戦だ。

いつも言い合いになるとお互い熱くなって意固地になる。

そうなると元も子もないので、今回は極めて冷静に。

「じゃあさ、裕香が興味あることってなあに?」

「俺が興味あること…」

裕哉はすぐに答えが出てこなかった。

それは裕哉が無趣味だからだ。

それなりにゲームもするし、本も読む、漫画も読む、テレビも見る、映画も見る。

けど、どれも趣味といえるほどではない。

「そもそも裕香って昔から趣味とかないよね」

「よ、余計なお世話だろ。姉貴だってオシャレしか趣味がないじゃないか」

「そうだよ、その趣味に全力だもん。だから念願の読モになれたしね。わたしはこの趣味に胸を張ってるの。裕香はさ、このまま無趣味な人生でいいの?どうせなら興味ないものを思い切って趣味にしてみない?」

それはつまり、舞香と同じ道を歩めということだ。

もちろん無趣味よりは趣味があったほうがいい。

「でも…そっち系は本当に興味が湧かないんだよ」

「あんなにかわいくなれたのに?」

「かわいくなんてない!それに俺は…」

「裕香は女じゃない。裕香として生きているんだから、もう自分は裕哉だとか男だっていう考えやめたほうがいいよ。そりゃ本人からしたら最悪かもしれないけど、なっちゃったものは仕方ないじゃん。だったら裕香として今まで知らなかった、できなかった人生を楽しんだほうがよっぽどいいと思うよ」

舞香が言っていることは、裕哉自身が一番わかっている。

もう裕哉に戻ることはないというのは覚悟しているし、裕香として生きていかなきゃいけないのも理解はしているが、やはり18年間裕哉として生きてきたプライドもあるので、

そう簡単に割り切れるものではない。

裕哉が下を向いていると、そっと舞香が近づき、スマホの画面を見せてきた。

「裕香、さっき自分のことをかわいくないって言ったよね?これ見て」

それは舞香のSNSだった。

まず、舞香がSNSをやっていたことに驚いたが、コメントを読んでいて更に驚いた。

「これ…俺に対して…」

「そうだよ、わたしに似ていてかわいいって。かわいいって言ってもらえると嬉しいし自信になるんだよ。だから裕香も自信もっていいんだよ」

「俺がかわいい…」

裕哉の頃から自分をかっこいいと思ったことなど一度もなかった。

裕香になってからも、舞香に似ているがかわいいと思ったことはなかった。

舞香がそっと肩に手を置いてきて、優しく言ってきた。

「裕香、わたしと一緒にやろう。絶対に楽しくなるから。数か月やってつまんなかったらやめちゃえばいいんだし」

そう言ってニッと笑っていた。

この笑顔と最後の言葉が、裕哉の意地になっていた感情を崩してくれた。

そうだよな、つまんなかったらやめればいいんだ!

「わかったよ…とりあずやるよ。けどつまんなかったらマジでやめるからな」

うまく舞香に説得?された裕哉は、とりあえず読者モデルをやることとなった。


あー、うまくいってよかった。

よし、これで裕香を思いっきりオシャレさせられるぞ。

明日から楽しみだなぁ。

舞香はワクワクしながら眠りについた。


本当にこれでよかったのだろうか…

なんか姉貴にうまく乗せられた気もするんだよな。

けど、もう俺は裕香だし裕香にしかできないことをやってみるのも確かにありだ。

だって裕哉のままだったら読者モデルなんてできなかったしな。

それにしても…俺がかわいい…

急に恥ずかしくなり、布団をかぶって、これ以上考えないようにして眠りについた。

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