新たな世界へ
「この撮影で最後だね」
「はい…本当にお世話になりました」
最後だと思うと、寂しさで涙がこぼれそうになってしまった。
「ちょっと、メイクしたのに泣いたらやり直しになるでしょ。泣くのは撮影が終わってからにしなさい」
「…はい!」
グッと涙をこらえ、カメラの前に立つ。
自然な笑みを浮かべてると、シャッターが次々に切られていく。
「裕香ちゃん、OKです」
裕香の最後の撮影は、わずか10分で終了した。
それは、NGを出さずにこなせるようになった、裕香の成長の賜物だ。
カメラの前から離れたタイミングで、奈緒美が花束を持ってきた。
「裕香、本当にお疲れさまでした」
花束を受け取ると、全員から拍手が送られ、今度こそ本当に泣いていた。
そんな裕香を奈緒美が優しく抱きしめる。
「今までありがとうね、裕香。裕香が成長していく姿が見られて本当によかった」
「わたしが成長できたのは、奈緒美さんのおかげです」
奈緒美は横に首を振った。
「成長できたのは、裕香の努力と、LaLaを読んでくれてる読者だよ」
その言葉を聞いて、余計に涙が溢れていた。
読モになったから、わたしは本当の女になれた。
奈緒美だけじゃない、LaLaに関係している全員に感謝だ。
涙を拭い、最後の挨拶をする。
「皆さん、本当にお世話になりました。ダメダメだったわたしが、ここまで成長できたのは皆さんが温かく見守ってくれていたからです。LaLaはわたしの原点です。そのことを胸に、これから頑張っていきます。ありがとうございました」
深々とお辞儀をすると、再び大きな拍手に包まれた。
本当に…きれいな蝶になったね。
奈緒美は今までで一番やさしい笑顔で、裕香の最後を見送った。
LaLaは20代前半の女性がターゲットなので、
読モの人たちは25歳くらいで卒業していく。
1年半前に珠理奈、1年前に舞香も卒業している。
その彼女たちは、読モではなく、正式なモデルになって事務所に所属していた。
裕香は3年間の間に、LaLaの看板になるほどの人気モデルになり、
もはやトランスジェンダーなど関係ないほど、読者に認められた存在だった。
そんな裕香にも、モデル事務所から何度もスカウトがあり、
奈緒美も「LaLaを飛び出して広い世界で頑張りなさい」と後押ししてくれたことで、
少し早い卒業をするに至った。
これからは読モではなく、立派なモデルだ。
最後の撮影のあと、裕香は人と会う約束をしていた。
待ち合わせ場所にいくと、予想通り先に待っていた。
「お待たせ」
「ううん。それより3年ちょい、お疲れさまでした」
康介に言われて、自然と笑みがこぼれる。
康介は、「裕香が一人前になるまで待つよ」と言って、
本当に恋人を作らず3年間待ってくれていた。
正式なモデルになった今、その約束が果たせる。
そう思っていたが、実際に卒業して裕香の考えは変わっていた。
「康介…本当に申し訳ないんだけど、もう少し待ってくれないかな?まだモデルとしての仕事もしてないのに、一人前になったってどうしても思えないし、やっぱりまだわたしは成長過程だと思うの」
それを聞いた康介が笑った。
「裕香ならそういうと思ったよ」
「ただし」と言って、話を続ける。
「あと1年だけな。それ以上は俺も待てない。だから、1年で立派なモデルになるように。裕香ならそれができるから」
「ありがとう。康介」
こうやって、いつも応援してくれる康介が大好きだ。
その期待に応えるために、頑張らないと!
康介と別れ、家に向かう。
その途中で舞香にバッタリ会った。
いまの舞香は、ファッションショーなどにも出演するほど人気があるモデルだ。
ロングの髪がとてもよく似合う。
「お姉ちゃん、仕事終わったの?」
「うん。裕香もついに卒業したんだね。これでまた同じモデル仲間だ」
舞香はそういうが、裕香にとっては同じではなかった。
やはり、読モとモデルは違う。
読モはあくまでも読者モデル、その雑誌でしか活躍の場はないが、
普通のモデルとなれば活躍の場は幅広い。
そこで活躍している舞香は、今の裕香にとって遥か先を行く遠い存在だ。
それでも、家に帰れば舞香はただの姉になる。
「え、まだ付き合わないの?裕香ってバカじゃない?」
「バカって言うな!ちゃんと考えてそうしたんだから」
「そうかもれないけどさぁ…康介さんもかわいそうに。3年も待たされて、まだ付き合わないなんて」
「康介…ちゃんとわかってくれたから。それにあと1年って約束したから」
「1年か…1年で裕香が立派なモデルになれるかな」
裕香の顔がムッとなる。
「なるよ!それにさっき同じモデル仲間って言ったじゃん」
「言ったっけ?そんなこと」
「言ったよ!お姉ちゃんのバカ」
裕香も舞香と2人だと、いまだに子供っぽい。
そんな裕香を見て、舞香が微笑んだ。
「冗談だよ。裕香ならやれる。わたしの自慢の妹なんだから」
思えば、裕哉が裕香になったあの1年2か月は、本当に夢だったのかもしれない。
今となっては、それを証明することもできない。
ただ、裕香という本当の自分に出会うためのキッカケになったことは間違いない。
そして、舞香と裕香が仲直りするために必要だったことも間違いない。
これからもずっと仲良し姉妹でいるために。
裕香も優しく微笑む。
「わたしも…君川舞香は自慢のお姉ちゃんだよ」
これで完結になります。
読んでくださってありがとうございました。
それと、更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。
止まってしまった理由ですが、書き終わった当初は満足して投稿をはじめたのですが、
この次の作品を完成させたら、そちらのほうが個人的に圧倒的に完成度が高くて、、、
そしたらこの作品が駄作に思えてしまい、投稿を続けることを躊躇ってしまいました。
楽しみにしていた方には大変申し訳なく思います。
こんな作品でも最後まで読んでくださって感謝しかありません。
ちなみになんですが、本来は再び裕哉に戻った後、裕哉が男としてオシャレなイケメンになっていく予定でした。
なんでこうなったのか、自分でもわかりません笑
この路線変更に伴い、恋愛要素を入れたのが余計にダメだった気がしなくもなく、、、
ホント反省点だらけです。
その分次の作品で挽回させていただきます。
今までのような感じではなく、もう少し大人向けなストーリーになっています。
近日中に投稿しますので、そちらも引き続きよろしくお願いします。