読モに
「じゃあ時間がないから来て。あ、それとわたしのことはお姉ちゃんって呼ぶように。あと俺って言わないようにね」
「なんだよそれ」
「妹なんだから姉貴なんて呼ばないでしょ、それに女の子なんだから俺って言わないでしょ」
もうこれだけで憂鬱になる。
なんで引き受けてしまったんだか…頼まると断れないのが俺のダメなところなんだよな。
中へ入っていくと、舞香が編集長の奈緒美という女性のところへ連れて行った。
その奈緒美は裕哉を見て一瞬で怪訝な顔になっていた。
「本当に舞香の妹…なの?」
「はい…」
舞香が申し訳なさそうにしている。
別に悪いことをしているわけではないのに、なぜが罪悪感に見舞われてしまった。
俺のこの格好…そんなにダメなのか?
「はぁ…」
奈緒美が大きなため息をつく。
「もう時間ないし…それに確かに舞香に顔が似てるからどうにかなる…かな」
自分に言い聞かせるとように独り言をいってから、メイク室へ連れていかれた。
「申し訳ないけど、徹底的に今風に仕上げて」
奈緒美が指示を出すと、大きな鏡の前に座らされ、女性がいきなり髪をいじりだした。
どうやらヘアメイクの人らしい。
よくわからないもので髪を巻いている。
その間、別の女性はメイクをしてきた。
何がなんだからわかない裕哉は、されるがままの状態だった。
俺…どうなっちゃうんだろう
鏡にはまるで別人が映っていた。
「こ、これが俺…わたし??」
ヘアメイクさんがニコニコしている。
「ちゃんとメイクやヘアアレンジすればこれだけかわいくなるんだよ」
まるでさっき見た舞香のようだった。
女の人はメイクや髪型でこんなに変わるのか…
「はい、次は衣装だよ」
今度は別の女性が服を持って現れた。
手にはデニムのジャケットとボーダーのロンT、それに白いスカートを持っている。
「時間ないからすぐ着替えて」
「こ、ここでですか?」
「そうだよ、みんな女性だし問題ないでしょ」
確かに女性しかいないが問題あるんだよ…
と思ったが、そういう空気ではない。
仕方ない!
着ていた服を脱ぎ、下着だけになる。
急いでロンTを着て、スカートを手に取る。
スカートを履くなんて…
スカートの丈は膝より少し下だった。
どうやらミニとかではないらしい。
少し安心してデニムのジャケットに袖を通した。
それをスタイリストの人が手早く整え、白いスニーカーを履かされた。
「鏡に立って」
言われたとおりにすると、スカートの丈などを直される。
それが終わると今風のかわいい女の子になっていた。
だが、ある感情はとにかく恥ずかしいということだけだった。
メイク室から出てきた裕哉はまるで別人だった。
我が弟…今は妹か、ながらうまく化けたものだと感心してしまう。
あとは撮影だけだ。
ところが、当の本人である裕哉の表情がとても硬い。
緊張しているのかな?
そっと近づいて話しかける。
「めっちゃいい感じだよ。やればできるじゃん」
「俺がやったわけじゃないよ…そんなことよりすげー恥ずかしいんだけど…」
そうか、恥ずかしいのか。ん?恥ずかしい?
「何が恥ずかしいの?」
「考えてもみろよ、男がこんな格好して人前に立ってるんだぞ。恥ずかしいに決まってるだろ」
思わず大きなため息をついてしまった。
この期に及んでまだ自分を男だと思っているのか。
往生際が悪すぎる。
「あのね、今のアンタは男じゃなくて女なの。裕哉じゃなくて裕香なの。自分に自信をもって堂々としなさい」
「いきなり今朝女になって、そんなの無理に決まってるだろ!」
コソコソ言い合っていると、奈緒美が間に入ってきた。
「ちょっと、なにを話しているか知らないけど時間がないから撮影に入るよ」
「あ、はい。行くよ、裕香」
強引に裕哉の手を引っ張る。
裕哉がどう思おうと、もう観念するしかないんだよ。