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Butterfly  作者: 姫
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急展開

大学が終わり、撮影がない日は結構暇だ。

裕香も舞香と同じように読モ以外の仕事はしていない。

フラフラしてるとお金使っちゃうしな…

結局おとなしく家に帰る。

やることがないのでスマホをいじっていたら着信の通知がきた。

珠理奈さん?珍しいな。

通話を押して耳に当てる。

「もしもし」

「あ、裕香。今平気?」

「はい。やることなくて家にいましたから」

「そっか。あのさ、今度の土曜日にプール行くよ」

あまりに唐突なので「えっ」と返してしまった。

しかも「行かない?」ではなく「行くよ」だ。

珠理奈はおかまいなしに話を続ける。

「あ、水着はこないだ撮影で着たのを奈緒美さんからもらってきたから大丈夫」

こないだのって、あのセクシーなやつ…

いやいや、ちょっと待って!その前に。

「わたし行くなんて言ってませんよ」

「相談じゃなくて決定事項だから」

ムチャクチャだ…

多分断ることできないんだろうな…

心の中でため息をつく。

「わかりました。他に誰が行くんですか?」

きっとモデル仲間だから行けば楽しめるだろう。

そう思いながら聞いたが…

「彼氏とその友達」

「へ?モデルの誰かじゃないんですか?」

「うん。わたしと彼氏とその友達と裕香の4人でプール」

「無理です!知らない人といきなりプールなんて」

「そんなかまえないで。気楽に考えればいいんだよ」

そうは言ってもいきなり知らない男性では事情が違う。

「ほかの人誘ってください。わたしは無理です」

「裕香は深く考えすぎなんだよ。遊ぶメンバーにたまたま異性もいる、それだけだよ」

「うー…」

これは何を言っても回避できそうにない。

珠理奈さん、こんなに強引な人だったのか…

結局は観念して「わかりました」と返事をしてしまった。

どうしてこうなっちゃったのかな。

そんなことを考えていたら舞香が帰宅した。

「なんか浮かない顔してるね、どうした?」

「聞いてよ、今珠理奈さんから…」

説明したが、舞香も「いいじゃん、楽しんできなよ」とあっさり。

「何着ていくか決めた?」

「そんなの考えてないよ」

「じゃあ考えよう。どうする?」

そんな急に言われても頭の整理ができてないのに…

そう思いながらも考えてみる。

「メインはプールだから、ラフなショートパンツにTシャツとかかな」

「まあ、悪くはない。でもカジュアル過ぎない?男性もいるんでしょ、ならもう少し女の子らしさも出さないと。異性にも見られるっていうのを考えないとダメだよ」

「無理だよ、男性を意識して服なんて選んだことないもん」

「じゃあ宿題。金曜の夜までに考えて。いろいろ調べてもいいし友達に聞いてもいいから。こういうシチュエーションの服装を考えるのもモデルは大事なんだよ」

確かに普段着る服装のことしか考えたことがなかった。

異性と遊ぶときの服装…どんなのがいいんだろ。


とりあえずネットで検索すると、いろんなコーデが出てくる。

この中から自分に似合うのを選べばいいのかな?

でもそれじゃ手抜きだよね…

明日、美沙にでも聞いてみようかな。


「プールに行くときに着ていく服?うーん、メインは水着だしなぁ」

そういって首をかしげなら美沙が考えている。

「わたしなら結構デニムとかで行っちゃうかも。相手にもよるけど」

「じゃあ例えば彼氏とかだったら?」

「え、男の人と行くの?誰?誰?」

そうなるよね…また説明しなちゃ。

ということで、美沙にもいきさつを説明する。

「えー、珠理奈ちゃんとプールってすごい!しかもダブルデートじゃん」

「ダブル…デート?」

「そうだよ、裕香にもついにそういうときがきたか」

そっか、これはデートになるのか…

そういうのに無頓着な裕香は、珠理奈が言った通りただみんなで遊ぶだけの認識でいた。

余計に恥ずかしくなる。

「ねね、水着はどうするの?」

「実はこないだ撮影で着たやつを着るように珠理奈さんに言われてる…」

「水着の撮影したの?」

「あ、次の号でね。それで珠理奈さんと一緒に撮影して仲良くなったの」

「なるほど。写真ないの?見たい!」

なくはない。

雑誌が発売されるまではSNSにアップしてはいけないが、

発売後に載せるかもしれないので一応プライベートっぽく撮ってある。

美沙ならいいか…

「これ発売前だから内緒だよ」

そういいながらスマホの画面を見せる。

「めっちゃセクシー!それなのに可愛い!ってか、裕香マジでスタイルいい」

そして美沙が裕香の胸元を見て、笑いながら言ってくる。

「盛ったでしょ?」

「わかる?」

「わかる、わたしも水着のとき必ず盛るもん。というかほとんどの女子は盛ってるよ」

「やっぱり?」

2人はケラケラ笑っていた。

「えー、でもこの水着着て珠理奈ちゃんも一緒ならすごく注目されそう」

「うーん…けど珠理奈さんの彼氏とかも一緒だから平気だと思う」

「じゃあ傍から見たら、その彼氏の友達が裕香の彼氏に見えるね」

「そうなの…?」

「知らない人から見たらそうだよ」

彼氏に見える…初めて会う人なのに。

一気に不安が押し寄せてきたが、美沙が服の話に戻したので、ひとまず気を取り直した。

「あくまでもわたしの考えだからね。そういう初対面の人や付き合いたてなら、あたしは必ずスカートかワンピにする。付き合って何か月も経ってればデニムとかカジュアルな格好もするけど。やっぱり最初の頃って女らしさをアピールしたいしね」

なんか納得いかないなぁ。

「でもパンツだって女らしいと思うよ。男性のとはデザインも違うし」

「そんなのはわかってるよ。わたしだってパンツ系好きだし可愛いと思うよ。でもそれって女性目線の可愛いで、男性目線だとやっぱりスカートとかワンピのほうが可愛いんだよ。あんまりこういう話はしたくないんだけどさ…裕香が男性だった頃はそういうの思ったことなかった?それとも物心ついたときからずっと心は女の子だったから思ったことはない?」

「裕哉だった頃…」

昔の記憶を辿ってみるが、出てくるのは姉の舞香だけだった。

スカートだろうがパンツだろうが、舞香が着ていればなんでも可愛い、

そういう感覚しかなかった。

それを素直に言うと、美沙は呆れた顔をしていた。

「裕香って本当に舞香ちゃんが大好きなんだね。でもそろそろ舞香ちゃんの背中だけを追いかけるのはやめたほうがいいよ。仲がいいのはいいことだと思うし、これからも仲良しでいいと思う。けど舞香ちゃんだけを見本にしないでいろんな人も見本にして裕香という人間を作っていかないと…このままじゃ舞香ちゃんのコピーで終わっちゃうよ」

言っている意味はわかっている。

それでも裕香の理想は舞香だ。

舞香がいるから今の裕香がいる。

答えない裕香に美沙は続けた。

「別に舞香ちゃんを見本にするなって言ってるんじゃないよ。もちろん今まで通り見本にしていいんだけど、他の人も参考にしてほしいの。例えばわたしの意見なんかも…そりゃわたしなんかモデルでも何でもないただの大学生だけど、ただの大学生だからこその意見とかもあると思うんだ。憧れてもらうのも大事だけど親近感も大事だと思う。特に裕香みたいなみんなに好かれるタイプは」

「わたしみんなに好かれてないよ…」

美沙は横に首を振った。

「裕香は大人っぽいスタイルなのに顔は可愛くて、頑張り屋さんで、一生懸命やってるのが伝わるもん。そういう子を嫌いな人はいないよ」

美沙はそんな風に見てくれていたんだ。

ただ普通にしているだけなのに…

「ありがとう。美沙の意見、大事にする」

「よし、じゃあ大学終わったら裕香が着ていく服を買いに行こう!」

舞香には金曜の夜までに考えるように言われていたが、

買ってしまったら考えるも何もそれを着るしかなくなる。

でもそれもアリかなと思った。

多分、このままだと最終的に舞香の選ぶ服を着ることになる。

それでいいと内心では思っていたが、今は違う。

美沙と選ぶことで、今までにない自分を発見するチャンスだ。

「うん、一緒に選んで!」

裕香は少しずつ自分の道を自分で歩き始めていた。


金曜日の夜がきた。

さて、裕香はどんな服を選択したんだろ。

多分どんなのを選んでも似合う。

問題はちゃんと男性を意識して選んだかどうかだ。

家のドアを開けると、すでに裕香は帰ってきていた。

「おかえりー」という声が聞こえてくる。

「ただいま」と言いながら中に入ると、

裕香は白いコットンのノースリーブのワンピースを着ていた。

舞香は裕香が持っている服を把握している。

それは買うたびに裕香が見せてくれるからだ。

好きな系統が一緒、というより舞香が好きなデザインを裕香も好んでいたので

どれも印象に残っていたが、これは初めて見る服だ。

普通に可愛いと思うが、清楚すぎて舞香なら選ばないタイプの服。

「その服買ったの?」

「うん、明日はこれを着ていく」

自分で考えたのか、友達と相談したのか、そこまで聞くつもりはなかったが、

舞香は思ったことを口にした。

「すごく似合ってる」

「ホントに?ありがとう」

初めてのデートで着ていくには満点だ。

清楚ながら女の子らしく、それでいて夏っぽい。

ちゃんと男性を意識しているのもわかる。

それにしても…裕香はこういう服も似合うんだ。

盲点だったな。

「でも不思議。多分わたしが着ると似合わないよ。こんなに顔似てるのに何でだろ?」

「お姉ちゃんだって似合うよ!着てみる?」

「着ない、だって趣味じゃないもん」

「えー、絶対にお姉ちゃんも似合うよ」

「いいって。それより裕香もちゃんと考えたね。この服着て清楚な感じなのに水着はあれでしょ、ギャップありすぎ」

「わかった?」

「そりゃ裕香の考えていることくらいわかるよ」

姉だしね。

「明日のデートはどう?楽しみ?」

裕香は少し間を取ってから答えた。

「わかんない…今も本当はすごく緊張してる。でも行くなら楽しまないと損かなって思うようになってきた」

お、前向きな考えになってる。

なんかわたしの出番なさそうだな。

それくらい裕香は自分で考えて行動している。

それが嬉しくもあり、ちょっと寂しい。

だから少しくらいは舞香も手伝うつもりだ。

「明日は何時出発?」

「朝の9時に迎えにくるって言ってた」

9時か、メイクして着替えて…うん。

「じゃあ7時半起きね。髪やってあげる。ヘアメイクさんほどはできないけど」

それを聞いた裕香が嬉しそうな表情をする。

よし、とびっきり可愛くしてあげよう。

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