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Butterfly  作者: 姫
29/45

裕哉の決意

裕哉はずっと考えていた。

どう考えても今さら裕哉になんて戻れない。

なんで裕哉に戻ってしまったんだろうか。

あれだけ仲が良かった舞香とも昔のような関係に戻ってしまった。

すべてが最悪だった。

あの関係に戻れないなら舞香と生活しても意味がない。

というより、昔の舞香はもう見たくない。

そもそも本来は部屋が見つかるまでの仮住まいということもあり、

だったら早く出ていったほうがいいと思い荷物をまとめた。

部屋が見つかるでは漫喫で生活すればいい。

もし…裕香じゃなくて裕哉のままだったとしてもオシャレになれば

お姉ちゃんは仲良くしてくれるかな?

思ったことを手紙に書いて、裕哉は舞香の家を出た。

部屋はすぐ見つかり、裕哉の大学生活はリスタートした。

初めてなのに知っている顔だらけだ。

まず、最初に仲良くなったのにすぐ疎遠になった実久。

読モになってから仲良くなった美沙たち。

しかし今は裕哉という男子なので彼女らと会話することはなかった。

本当は話したいのに…

裕哉は実久ではなく美沙たちのほうを眺めていた。


大学に通ってから1か月が過ぎた。

メンズの服を着ているが、やはりレディースの服が着たい。

メイクしたい、かわいい髪型にしたい。

女子としてのオシャレがしたい。

そんなことを考えながら美沙たちを眺めていたら、美沙が立ち上がってやってきた。

「ねえ、よくわたしたちのほう見てるけど何?」

「あ、いや…」

いきなり言われて言葉が出てこなかった。

「仲良くなりたい」という言葉が。

「見られてると怖いんだけど」

裕哉は俯いてしまった。

美沙は続ける。

「うちらの誰かに好きな子でもいるの?」

「い、いないよ」

「そう。もう見てこないで」

美沙が背を向けて歩き出そうとする。

「ま、待って」

思わず裕哉は呼び止めてしまった。

「なに?」

そういって美沙が振り返る。

裕哉は思ったことを口に出した。

「その…いつも着てる服とか可愛いなって」

「へ?あ、ありがとう…。それで見てたの?」

「う、うん…」

「君川くんだっけ?レディースの服に興味あるの?」

興味…ではない。

着たいのだ。

それを言えずにいると、察したのか美沙から言ってきた。

「そっか、着たいんだ。女装?それともトランスジェンダー?」

トランスジェンダーという言葉が頭に響く。

そうか、裕哉に戻って1か月以上たったけど中身はずっと裕香のまま。

身体は男性で心は女性、つまり今のわたしはトランスジェンダーなんだ。

それに気づいた裕哉は決心した。

もう迷わない、わたしは裕香になる!

「トランスジェンダーなの。誰にも言ってないけど…」

「そうなんだ。で、君川さんはどうしたいの?」

美沙は「くん」ではなく「さん」と呼んでいた。

裕哉は確信した。

「お友達になってほしい」

「いいよ、こっち来て一緒に話そ」

「うん!」

あっさりと受け入れてくれて、普通に話してくれる。

こんなことならもっと早く話しかければよかった。

「君川さん、普段は女子の格好とかしないの?」

「今はしてない…でも髪がもう少し伸びたら」

「うんうん、女の子っぽい顔立ちだもんね。メイクとか普通に似合いそう」

そういわれて少し嬉しくなる。

ファッションの話になると、裕香の頃と同じような感覚で話していて盛り上がった。

「君川さん詳しい!うちらより知ってるじゃん」

「だって服とか大好きなんだもん」

「話し方もめっちゃ女子だし。最初はちょっと疑ってたけど本当に女の子なんだね。ねえ、下の名前なんだっけ?」

「裕哉…だけど裕香って呼んでほしい…」

「裕香ね、OK!裕香はもううちらの仲間だからね」

「ありがとう!」

裕哉は裕香としての生活を一つ取り戻した。


さらに1か月もすると裕哉の髪は整えれば女性のショートくらいの長さになった。

ヘアサロンでカットしてもらい、やっと女性のような髪型になることができた。

この髪型ならおかしくないよね…

ドラッグストアでコスメを買い、久しぶりにメイクをしてみる。

思った以上に女性っぽく見えたので一安心だ。

これなら明日あれを着ていっても大丈夫かな…

翌日、裕哉はメイクをしてワンピースを着て大学へ行った。

そのまま美沙たちのところへ向かう。

「おはよー」

「ひょっとして裕香?」

「うん、変じゃない?」

「全然!めっちゃ可愛いし!普通に女子じゃん」

「ありがとー。髪型変えたからもう平気かなって」

ずっと着たかったレディースの服を着てメイクをして、裕哉にとっては最高の気分だった。

しかし、このまま女子の格好で通い続けるわけにはいかないので、裕哉は大学に話をした。

「本当はトランスジェンダーだったと」

「はい、だから女子として通いたいんです」

事前に受けた病院の診断でもトランスジェンダーと診断され、

その診断書を提出する。

それに加え、世の中がLGBTQに対して理解を示すような時代になったおかげか、

裕哉は女子として通えるようになった。

こうやって裕香としての生活を一つずつ取り戻していく。

だが、やることはまだたくさんある。

今日は初めての病院へ来ていた。

「じゃあ腕を出してね」

「はい」

消毒をしてからチクっと痛みが走る。

注射の中の液体が身体の中に入っていくのを眺めながら思った。

これでまた裕香に近づける。

それは女性ホルモンだった。

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