夢?現実?
寝ていたら舞香の声が聞こえてきた。
「裕哉、撮影に行ってくるから」
裕香は布団の中から返事をした。
「裕哉…?お姉ちゃんなに言ってるの、裕香でしょ」
すると冷たい声が帰ってくる。
「は?アンタなに寝ぼけてるの。気持ち悪い」
「寝ぼけてなんてないよ…」
裕香はゆっくり布団から身体を出して伸びをした。
「はあ~あ…」
そのとき、ものすごい違和感があった。
この身体の感覚…それに今の低い声…まさか!
慌てて身体を見てみると、それはまさしく裕哉の身体だった。
「なんで?なんで裕哉に戻ってるの!?」
パニックになっている裕哉を舞香は冷たい目で見ている。
「付き合ってらんないわ」
そういって部屋を出ていこうとする舞香を裕哉は引き留めた。
「待ってよ、お姉ちゃん!」
「なに、その呼び方…マジで気持ち悪い」
それだけ行って舞香は撮影に行ってしまった。
あのお姉ちゃんは…昔のお姉ちゃんの反応だ…
慌ててスマホを手に取る。
裕哉の頃に使っていたスマホと同じものだ。
カバーもつけず、黒いシンプルなスマホ。
画面のカレンダーを見て、裕香は驚愕した。
「裕香になった日…」
ってことは、裕香になったのは夢?
それにしてはリアルすぎる。
裕香になっていた日々の記憶が鮮明に残っているからだ。
でも夢だったなら、裕香が出会った人物はすべて架空の人物になる。
慌ててリビングへ行き、置いてあったLaLaを開いた。
「華菜ちゃん…玲衣ちゃん…友梨絵さん…やっぱり存在している」
間違いなく奈緒美さんも存在しているはず…それに大学で友達になる美紗たちだって…
今度は舞香の化粧品を手に取った。
自然と手が動き、当たり前のようにメイクをすることができた。
なんで…なんで裕哉に戻っちゃったの…裕香で、ずっと裕香でいたかったのに…
大粒の涙をこぼしながら、裕哉は泣き崩れた。