解決 そして、、、
「友梨絵ちゃん、裕香ちゃん、朝だよ!」
玲衣は朝からテンションが高かった。
「もっと普通に起こしてよ…」
友梨絵が眠そうに目を擦っている。
裕香も体を起こしてボーっとしていた。
大きなあくびをしてからベッドから立ち上がり、やっと目が覚めてきた。
あ、そうか。泊りで撮影に来てたんだ。
昨日の楽しさが蘇ってきて、裕哉もテンションが上がってきた。
「よし、今日も頑張ろう!」
「うん、頑張ろう!」
2人のやり取りを見て、友梨絵があきれていた。
まずは部屋の撮影、次におみやげコーナーなどの撮影、これらを終え、
最後はホテル内にあるプールの撮影だけだった。
今日着る水着は昨日と違うものになっている。
今度裕哉が着るものは、谷間がちゃんと見えるビキニだ。
昨日の夜の温泉が自信になったのか、ちょっとだけ恥ずかしい気もしながら
着こなしていた。
友梨絵はバンドゥビキニ、玲衣はビタミンカラーのビキニだ。
昨日と同じように、指定されたポーズを3人は難なくこなし、
浮き輪に乗って遊んでいるシーンなども撮影した。
「オールアップです。お疲れさまでした」
スタッフの声が上がると同時に拍手が起こった。
撮影が終わるといつも拍手がある。
それを聞くと安どに包まれるのだが、
今日はもっと撮りたいという気分だったので少し寂しい。
「ずいぶん楽しんでたじゃない」
「はい、本当に楽しかったです」
「これからの撮影も同じように楽しんでやってね」
奈緒美に言われたが、今ならこれからの普通の撮影も
楽しみながらやれそうな気がしていた。
バスが出発までの1時間、おみやげを買う時間を設けてくれたので
裕哉は友梨絵たちとお土産コーナーへ向かった。
「これよくない?」
「あ、いいかも」
「ねえねえ、かわいくない?」
「かわいい、かわいい」
と3人ではしゃいでいる姿は仲のいい女子そのものだった。
そんな中、裕哉は美紗たちにお菓子を買い、
舞香には海ということでマリンのアクセサリーを買うことにした。
「このアクセサリーは舞香にでしょ?」
「うん、お菓子とかより物のほうがいいかなって思ったから」
「きっと舞香なら喜ぶよ」
だったらいいな。
そう思いながらバスに乗り、東京へ向かって走り出した。
「ただいまー」
元気よく玄関を開けると、舞香はソファーに座っていた。
「お姉ちゃん、ただいま」
「おかえり…」
どことなく舞香の元気がない。
「どうしたの?」
「ごめん…ごめんね、裕哉!」
「きゅ、急にどうしたの…それに裕哉って…」
舞香はずっと裕哉と呼ばなくなっていたのに、
いきなり裕哉と言われたことに驚いてしまった。
しかも舞香は泣いている。
「全部…全部わたしが悪いの、自分勝手なことばっかり言ったから裕哉は…」
「落ち着いてよ、何がなんだかわからないよ…」
それでも舞香は「ごめんね」しか言わずに泣いている。
そんな舞香の背中を優しくさすってあげた。
「大丈夫?少しは落ち着いた?」
「ゆう…やぁ…裕哉ぁ」
今度は抱きついて泣いていた。
本当にわけがわからない。
ただ言えることは、こんな舞香は初めてということだ。
しばらくして少し落ち着いたのか、ゆっくりと舞香が話し始めた。
「実家にね…帰ったの。裕香のことが知りたくて…」
「そうだったんだ…で、どうだった?」
「裕香も裕哉と同じだった…本当は明るくてオシャレが好きな子だったのに、わたしがあんなこと言ったから…」
あんなこと…それがなにを言っているのか裕哉はすぐにわかった。
「ウザいから向こう行って!」
すごくショックで泣きそうな気分だった。
それから徐々に会話をしなくなり、仲が悪くなった。
でも裕哉は内心では嫌いになっていなかった。
どんなことがあっても姉は姉だから。
だから読者モデルになったと聞いたときは誇らしかった。
だが、変なプライドが邪魔をして、よかったねと言ってあげることができなかった。
それどころか、会話をすればケンカばかり、
本当はもっとオシャレな服だって着たかったのに、言われると意固地になって否定した。
だから裕哉からすれば、どっちもどっちだった。
「お姉ちゃん、もう気にしてないよ。いつの話してるの」
「最近の話じゃん!3か月前だよ、たった…」
舞香が再び泣き出した。
そんなに泣かれるとこっちも涙がこみ上げてくるよ…
ところが、このあと舞香はとんでもないことを言い出した。
「それにね…裕哉が裕香になったの…わたしのせいかもしれない…」
「どういう…こと…?」
舞香は自分が裕哉が妹だったらと願ったからだと話し出した。
さすがにバカな、と思った。
それに、それが事実だとしても不思議と怒りが沸いてこなかった。
理由は裕哉自身が一番わかっている。
「お姉ちゃん…わたしね、裕香になってよかったと思ってるよ」
「え?裕哉に戻りたくないの…?」
「逆に聞くけどお姉ちゃんは裕哉に戻ってほしい?」
「裕哉には悪いけど」と前置きをしてからゆっくりと横に首を振った。
「多分、裕香になったから自然に仲直りできたんだと思う…」
「わたしもそう思う。それにね、今が一番楽しいの。裕哉として生きていた人生よりもたった3か月しか経っていない裕香の人生のほうが。なんでかわかる?」
舞香は横に首を振った。
「ずっとしたかったオシャレして、まさかの読モになって、大好きなお姉ちゃんと仲直りして、全部が楽しいの」
「裕香…こんなわたしをそんな風に思ってくれるの?」
裕哉はニコッとした。
「もちろん!前は性別が違ったから、読モなんてすごい姉だなって誇らしかったけど、今は同性だから、キレイでカッコよくて、頼りがいがあって、オシャレ熱心で、わたしの憧れなんだよ」
「そんなことない…わたしなんか全然…」
「こうやって裕香を楽しめてるのもお姉ちゃんのおかげなんだから。女の子として必要なことを全部教えてくれて、本当は興味があったオシャレを教えてくれたのもお姉ちゃん、読モにしてくれたのもお姉ちゃん、お姉ちゃんがいなかったら今のわたしはいないんだから」
「裕香…ありがとう…」
裕哉はゆっくりと縦に首を振った。
「もうわたしは完全に裕香だから、裕哉っていうのはきっと思い違いだったんだよ。だからこれからも姉妹で仲よくしようね」
舞香が指で涙を拭いてから、少しだけ笑った。
「もちろん、裕香はわたしの大事なかわいい妹なんだから」
そういう風に言ってもらえて、とても嬉しい気持ちになった。
さっき自分で言ったとおり、裕哉はもう完全に裕香としてしか自分を見なくなり、
裕哉という存在は彼方へ消えていった。
「あー…泣いたから顔がボロボロになっちゃった」
「ホント、お姉ちゃんすごい顔になってるよ」
裕香が笑うと、舞香に返された。
「裕香だってヒドイ顔になってるよ」
「え?」
慌てて鏡を見ると、目がパンダのようになっていた。
「最悪…お風呂入って顔も洗ってくる」
「そうしな」
着替えを取りに行こうとドアに手をかけたが、開けるのをやめて舞香のほうに振り返った。
「お姉ちゃん、一緒に入ろっか?」
「へ??」
思ってもいなかった言葉が裕香から出てきたので驚いてしまった。
「別に姉妹なんだからいいじゃん。それにその顔…」
そこまで言って裕香が笑いだした。
自分だって同じくせに!
少しムッとしたので、からかってやろう。
「なに、そんなにわたしの裸が見たいわけ?」
「そんなはずないし、それに昨日みんなで温泉入ってるしね」
「みんなで?」
「うん、友梨絵ちゃんや玲衣ちゃん、それに奈緒美さんとかも」
そっか、本当にもう裕香なんだね。
「いろいろ楽しそうな話が聞けそうだし、一緒に入るか」
舞香が立ち上がって歩き出したので、裕香も一緒にお風呂場へ向かった。
2人ともまったく恥ずかしさもなく、仲良くお風呂に入った。
「へー、そんなに楽しかったんだ」
「あ、そうだ!玲衣ちゃん全然違うじゃん、すごくビビッてたんだよ」
舞香はそれを聞いて「あはは」と笑っていた。
「玲衣って見た目がしっかりしてそうだからさ」
「そうなんだよね~、年上なのにすごく人懐っこくて。そういえばね、友梨絵ちゃんと玲衣ちゃんが今度みんなで旅行に行こうって」
「いいじゃん、行ってきなよ」
「違う、お姉ちゃんも一緒にだよ」
「わたしも?」
「決まってるじゃん」
あの2人と裕香と4人で旅行か、確かに楽しそうだ。
想像しただけで思わず笑みがこぼれていた。
「あ、お姉ちゃん笑ってる」
「べ、別に笑ったっていいでしょ!えい」
舞香は裕香の顔にお湯をかけた。
「ひどぉい、もうおみやげあげないからね!」
「買ってきてくれたの?さすが裕香」
「ふん、知らない」
実際はあげるけど、ちょっとだけ拗ねてみる。
わざととわかっていても、舞香は機嫌を取る。
そして2人で笑いあう。
まるで小学生の頃に戻ったように、舞香と裕香は本当に仲良しになっていた。
そして1年後、舞香と裕香の姉妹はLaLaでトップクラスの人気モデルとなり、
仕事量が急激に増え、大学との両立で激務に追われながらも、
やりたかった読者モデルのトップということもあって
充実した日々を送るようになっていた。