到着
リゾートホテルには、2時間ほどで着いた。
空も快晴で、絶好の撮影日和だ。
「すごくきれいなホテルだね。楽しみ~」
玲衣が嬉しそうにはしゃいでいる。
ホテルは、リゾートホテルというだけあって本当にキレイで高級感が漂っていた。
目の前には青い海が一面に広がっていて、夏の旅行には最高の場所かもしれない。
フロントで奈緒美が声をかけ、ホテルの担当者がやってきた。
「本日はお世話になります。この3人がモデルになります」
紹介されたので、裕哉たちは「よろしくお願いします」とお辞儀をした。
「こんなかわいい子たちがPRしてくれるなんて嬉しい限りです。こちらこそよろしくお願いします」
さすがホテルの関係者、あきらかに年下の裕哉たちにも丁寧にあいさつをしてくれる。
「じゃあ到着シーンから撮影するから早速支度してきて」
奈緒美に言われ、3人は部屋に向かった。
友梨絵がドアを開け、玲衣、裕哉の順番で中に入る。
「わー、めっちゃ広い!それにキレイ」
思わず友梨絵が声を上げていた。
それは裕哉も同じ意見だった。
入った瞬間に、広々とした空間があり、
壁際にソファーとテーブル、反対側にはテレビやドレッサーなどがある。
奥にはベッドが3つ並んでいるので、寝るのもこの部屋だというのがわかった。
一緒の部屋か…大丈夫だよね。
女になってから、人と同じ部屋で寝泊まりしたことがないので少し不安になった。
「ねえ、見てみて!」
いつの間にか玲衣がベランダに出て騒いでいる。
つられて裕哉と友梨絵もベランダに行くと、海が一面に広がっていた。
「すごい絶景!」
太陽が反射して水面がキラキラと輝いている。
ほどよい潮の香もして、ずっと眺めていたくなる気分。
「はい、観光気分はあとで味わってね」
いつの間にか後ろには奈緒美が立っていた。
さらにスタイストさんやヘアメイクさんたちも部屋に入ってくる。
どうやらここは裕哉たちの部屋でもあり、準備をする部屋でもあるらしい。
今回のコンセプトは旅行、いつもとは違い、ラフな服装になった。
友梨絵はマキシのワンピ、玲衣はジーンズにTシャツ、
そして裕哉がボーダーのタンクトップに白のショートパンツだ。
こういう恰好での撮影というのはなかったので、結構新鮮な気分になる。
一行は入口まで移動して、まずはホテル到着シーンの撮影から。
一泊二日なのにキャリーバッグを渡される。
「じゃあまず、3人で楽しそうに会話をしながら中に入って」
奈緒美の指示がいつもよりアバウトに感じる。
「そんなんでいいんですか?もっと細かい指示とかは…」
裕哉は思わず聞き返してしまった。
「今日はね、自然体で楽しそうにしてる表情がほしいの。服とかの紹介はもちろんするけど、メインはここに来たいって思わせることだから。だから普通に会話しながら歩いて」
タイアップというだけで、こうも撮り方がかわるものなのかと思った。
タイアップ、つまりホテル側がこのコーナーにお金を払っているということなので、
スポンサーの意向が最優先になる。
この自然な感じでというのは、ホテル側の要望だった。
「なんかいつもと雰囲気が違って楽しそうだね」
玲衣がニコニコしている。
こういう撮影には玲衣のような子がいるとやりやすいと思った。
つられて裕哉も友梨絵も自然と笑顔になっている。
何度か取り直して、OKが出ると次はロビーでの撮影が行われた。
「はい、お疲れさま。さくっとお昼食べたら次はビーチと温泉ね。ここタイトだからなる早でよろしく」
次が裕哉にとって難関なシーン。
しかもそれが2つ続くので少しテンションが下がる。
「裕香ちゃん食べないの?」
そんな裕哉の気持ちを知らない玲衣はおいしそうにお昼ご飯を食べている。
友梨絵はなんとなく裕哉の気持ちを察しているようだった。
「水着とか着慣れてないから緊張してるんでしょ?」
「う、うん…」
「ビキニ自体初めて?」
ビキニというより、女の水着が初めてだ。
コクンと頷くと、玲衣が驚いていた。
「えー、そうなの??裕香ちゃんって海とか行かないの?」
「子供の頃に家族で行ったくらいしか記憶にない…」
「そうなんだ、スタイルいいからまったく問題ないのに」
「そんなことないよ…」
昨日までは、そんなに問題ないと思っていた。
ところが、今日着替えているときに玲衣の身体の細さに衝撃を受け、
特にくびれはすごかったので、一気に自信を失っていた。
「玲衣が細すぎるだけだよ、裕香も普通に細いほうだから大丈夫。そんなこと言ったらわたしなんてどうなるの?」
友梨絵も十分細いのにフォローしてくれる。
玲衣は天然っぽく、「そんなに細いかなぁ、わたし」と首をかしげていた。
緊張していた気が緩んでくる。
この2人と一緒の撮影でよかった。
「あんまり気にしないようにする」
「うん、それがいいよ」
「楽しくいこう」
友梨絵と玲衣に感謝しつつ、食事を終えて部屋へ着替えに向かった。